生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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788.辺境領の衛兵さん

 恐る恐る目を開いてみれば、さっきまでいた部屋とは部屋が変わっている。

 ――と言う事は、魔法陣での転移に成功したって事だよね。すごいな、魔法陣。

 感心しながらきょろきょろと視線を動かしていると、不意に隣からおさえきれなかったような声が聞こえてきた。

「ぐっ…」

 声をもらした貫禄のあるおじさまは、立っているのもやっとと言った様子の真っ青な顔色で両手で口を覆っていた。その隣の若い護衛の人に至っては既に意識を失っているのか、外側の円に立っていた護衛の人ががっしりと抱きとめている。

 大丈夫かなと心配しつつも二人を見つめていると、ひょいっとハルが俺の顔を覗き込んできた。

「アキトは…大丈夫そうだね?」

 俺からすればちょっと速度の早いエレベーターとか、ジェットコースターぐらいの感覚だったからね。苦手ってほどじゃなかった。

「あーうん、俺は平気みたい」
「それなら良かったよ」

 転移酔いにならない体質なんだねと、ハルはホッとした様子でそう続けた。

 ちなみに転移酔いになってしまった二人も、慣れた様子で処置をする護衛の人達のおかげですぐに復活してたよ。回復ポーションってやっぱりかなり便利だよね。



 無事に全員の用意が整い揃って魔法陣から下りると、そこには辺境領の衛兵さん達がずらりと整列して出迎えてくれた。

 ちょっとびっくりしたのは今までに見た色んなところの衛兵さんとは違って、服装も装備も揃っていてない事だ。ただ全員が紫色の腕章をつけているから、あれが辺境領の衛兵の目印なんだろうか。

「お待ちしておりました、トライプール領主様」

 代表して声をかけてきた隊長らしき人の動きに合わせて、全員がビシッと敬礼をする。一糸乱れぬ動きに圧倒されてしまった。

「こちらへどうぞ」
「出迎えご苦労」

 すっと貴族らしい表情でクールに答えた領主様は、ちらりと俺とハルに視線を向けてきた。

「アキトくん、ハル。ここからは別行動になるけど、大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」

 ハルと二人でそう答えれば、領主様は小さく手を振って先導する人達と歩き出した。

 どうやら半数は領主様と一緒に行くけど、半数はこの部屋に残るみたいだ。俺達がこの部屋に残ってるからなんだろうな。

 今は直立不動になっている衛兵の人達は、部屋を出ていく領主様を無言のまま見送っている。

 えーっと、これからどうするんだろう?

 ちらりとハルを見あげてみれば、ハルは何故かすごく嫌そうに眉間にしわを寄せていた。え、なんで?珍しい表情に驚いている間に、ギギギと音を立てて動いていたドアが閉まり切った。

 その瞬間、部屋の中にわっと声がこだました。

「おいおい、ハル、久しぶりじゃねぇか!」
「なんだ可愛い子連れてきやがってよぉ」
「ハル、ついに伴侶候補見つけたって本当だったのかよ!」
「ハルの伴侶候補を出迎えれる日が来るとはなぁ…」
「どうだ、前よりも強くなったかー?」
「お前、連絡ぐらいもっとこまめにしろよなー」

 親しみを込めて一斉に話しかけてくる面々をじろりと睨んでから、ハルは口を開いた。

「うるさい…俺の伴侶候補がびっくりしてるだろう」

 え、うん。びっくりしたね。さっきまであんなに無表情でクールな衛兵さんって感じだったのに、今は冒険者に囲まれてるような気分だ。

「なんだよートライプールの領主様の前ではちゃんと大人しくしてただろうが」
「そうそう、辺境領の衛兵らしくしてただろ?」

 がっはっはと笑う周りの人達は、すごく楽しそうだ。

「えっと…」
「ああ、ごめんね、アキト。出迎えの中でもここに残ってた人達は俺が小さい頃から知ってる人ばかりなんだ」
「ハルが小さい頃から…?」

 そう言われれば納得だな。だから皆、こんなに温かい目で見つめてくれてるのか。ハルを見る目も俺を見る目も、なんだか孫を見るおじいちゃんおばあちゃんみたいな視線なんだよね。

「あーすまんな。辺境領では魔物の討伐とかで、衛兵も騎士団も領主様の子も皆ごちゃ混ぜだからなぁ」
「…やっぱりこんな気安い対応じゃ失礼だったかい?」

 すこし心配そうに尋ねてくる周りの人達に、俺はぶんぶんと首を振って答えた。

「いえ、さっきまで無表情だった衛兵さんが、急に親しみやすくなってびっくりはしましたけど…」
「アキト、遠慮せずに文句を言っても良いんだよ?」
「ううん、みなさん温かい目で見てくれるから、俺は嬉しいと思ったよ」

 ハルは俺の返事にふーと息を吐くと、まったくアキトはと苦笑を洩らした。

「うわー……めっちゃ良い子だ」
「あの騒がしさを親しみやすいって言ってくれるのか」
「いやあんだけじろじろ見られてて、温かい目って言いきれるのもすごいぞ」
「俺の孫の嫁に来て欲しい」

 そんなただの悪ふざけただと分かる言葉に、ハルはバッと顔をあげた。
 
「誰が渡すか」

 ぐいっと俺の肩を抱いての言葉に、周りは一気にどっと湧いた。

「言うじゃねぇか!」
「いやーハルがこんな事言うようになるとはなぁ」
「伴侶候補を渡すまいと必死なハルなんて、すっごいもの見たな」
「俺、今日の護衛のくじ引きに勝って良かったわ」

 どうやら今日の魔法陣の部屋の護衛は、くじ引きによって勝ち取られたものみたいだよ。それはつまり、ハルがどれだけ好かれてるかって話だよね。

 ふふと笑った俺に、ハルは勘弁してくれと小さく呟いた。
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