789 / 1,561
788.辺境領の衛兵さん
恐る恐る目を開いてみれば、さっきまでいた部屋とは部屋が変わっている。
――と言う事は、魔法陣での転移に成功したって事だよね。すごいな、魔法陣。
感心しながらきょろきょろと視線を動かしていると、不意に隣からおさえきれなかったような声が聞こえてきた。
「ぐっ…」
声をもらした貫禄のあるおじさまは、立っているのもやっとと言った様子の真っ青な顔色で両手で口を覆っていた。その隣の若い護衛の人に至っては既に意識を失っているのか、外側の円に立っていた護衛の人ががっしりと抱きとめている。
大丈夫かなと心配しつつも二人を見つめていると、ひょいっとハルが俺の顔を覗き込んできた。
「アキトは…大丈夫そうだね?」
俺からすればちょっと速度の早いエレベーターとか、ジェットコースターぐらいの感覚だったからね。苦手ってほどじゃなかった。
「あーうん、俺は平気みたい」
「それなら良かったよ」
転移酔いにならない体質なんだねと、ハルはホッとした様子でそう続けた。
ちなみに転移酔いになってしまった二人も、慣れた様子で処置をする護衛の人達のおかげですぐに復活してたよ。回復ポーションってやっぱりかなり便利だよね。
無事に全員の用意が整い揃って魔法陣から下りると、そこには辺境領の衛兵さん達がずらりと整列して出迎えてくれた。
ちょっとびっくりしたのは今までに見た色んなところの衛兵さんとは違って、服装も装備も揃っていてない事だ。ただ全員が紫色の腕章をつけているから、あれが辺境領の衛兵の目印なんだろうか。
「お待ちしておりました、トライプール領主様」
代表して声をかけてきた隊長らしき人の動きに合わせて、全員がビシッと敬礼をする。一糸乱れぬ動きに圧倒されてしまった。
「こちらへどうぞ」
「出迎えご苦労」
すっと貴族らしい表情でクールに答えた領主様は、ちらりと俺とハルに視線を向けてきた。
「アキトくん、ハル。ここからは別行動になるけど、大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
ハルと二人でそう答えれば、領主様は小さく手を振って先導する人達と歩き出した。
どうやら半数は領主様と一緒に行くけど、半数はこの部屋に残るみたいだ。俺達がこの部屋に残ってるからなんだろうな。
今は直立不動になっている衛兵の人達は、部屋を出ていく領主様を無言のまま見送っている。
えーっと、これからどうするんだろう?
ちらりとハルを見あげてみれば、ハルは何故かすごく嫌そうに眉間にしわを寄せていた。え、なんで?珍しい表情に驚いている間に、ギギギと音を立てて動いていたドアが閉まり切った。
その瞬間、部屋の中にわっと声がこだました。
「おいおい、ハル、久しぶりじゃねぇか!」
「なんだ可愛い子連れてきやがってよぉ」
「ハル、ついに伴侶候補見つけたって本当だったのかよ!」
「ハルの伴侶候補を出迎えれる日が来るとはなぁ…」
「どうだ、前よりも強くなったかー?」
「お前、連絡ぐらいもっとこまめにしろよなー」
親しみを込めて一斉に話しかけてくる面々をじろりと睨んでから、ハルは口を開いた。
「うるさい…俺の伴侶候補がびっくりしてるだろう」
え、うん。びっくりしたね。さっきまであんなに無表情でクールな衛兵さんって感じだったのに、今は冒険者に囲まれてるような気分だ。
「なんだよートライプールの領主様の前ではちゃんと大人しくしてただろうが」
「そうそう、辺境領の衛兵らしくしてただろ?」
がっはっはと笑う周りの人達は、すごく楽しそうだ。
「えっと…」
「ああ、ごめんね、アキト。出迎えの中でもここに残ってた人達は俺が小さい頃から知ってる人ばかりなんだ」
「ハルが小さい頃から…?」
そう言われれば納得だな。だから皆、こんなに温かい目で見つめてくれてるのか。ハルを見る目も俺を見る目も、なんだか孫を見るおじいちゃんおばあちゃんみたいな視線なんだよね。
「あーすまんな。辺境領では魔物の討伐とかで、衛兵も騎士団も領主様の子も皆ごちゃ混ぜだからなぁ」
「…やっぱりこんな気安い対応じゃ失礼だったかい?」
すこし心配そうに尋ねてくる周りの人達に、俺はぶんぶんと首を振って答えた。
「いえ、さっきまで無表情だった衛兵さんが、急に親しみやすくなってびっくりはしましたけど…」
「アキト、遠慮せずに文句を言っても良いんだよ?」
「ううん、みなさん温かい目で見てくれるから、俺は嬉しいと思ったよ」
ハルは俺の返事にふーと息を吐くと、まったくアキトはと苦笑を洩らした。
「うわー……めっちゃ良い子だ」
「あの騒がしさを親しみやすいって言ってくれるのか」
「いやあんだけじろじろ見られてて、温かい目って言いきれるのもすごいぞ」
「俺の孫の嫁に来て欲しい」
そんなただの悪ふざけただと分かる言葉に、ハルはバッと顔をあげた。
「誰が渡すか」
ぐいっと俺の肩を抱いての言葉に、周りは一気にどっと湧いた。
「言うじゃねぇか!」
「いやーハルがこんな事言うようになるとはなぁ」
「伴侶候補を渡すまいと必死なハルなんて、すっごいもの見たな」
「俺、今日の護衛のくじ引きに勝って良かったわ」
どうやら今日の魔法陣の部屋の護衛は、くじ引きによって勝ち取られたものみたいだよ。それはつまり、ハルがどれだけ好かれてるかって話だよね。
ふふと笑った俺に、ハルは勘弁してくれと小さく呟いた。
――と言う事は、魔法陣での転移に成功したって事だよね。すごいな、魔法陣。
感心しながらきょろきょろと視線を動かしていると、不意に隣からおさえきれなかったような声が聞こえてきた。
「ぐっ…」
声をもらした貫禄のあるおじさまは、立っているのもやっとと言った様子の真っ青な顔色で両手で口を覆っていた。その隣の若い護衛の人に至っては既に意識を失っているのか、外側の円に立っていた護衛の人ががっしりと抱きとめている。
大丈夫かなと心配しつつも二人を見つめていると、ひょいっとハルが俺の顔を覗き込んできた。
「アキトは…大丈夫そうだね?」
俺からすればちょっと速度の早いエレベーターとか、ジェットコースターぐらいの感覚だったからね。苦手ってほどじゃなかった。
「あーうん、俺は平気みたい」
「それなら良かったよ」
転移酔いにならない体質なんだねと、ハルはホッとした様子でそう続けた。
ちなみに転移酔いになってしまった二人も、慣れた様子で処置をする護衛の人達のおかげですぐに復活してたよ。回復ポーションってやっぱりかなり便利だよね。
無事に全員の用意が整い揃って魔法陣から下りると、そこには辺境領の衛兵さん達がずらりと整列して出迎えてくれた。
ちょっとびっくりしたのは今までに見た色んなところの衛兵さんとは違って、服装も装備も揃っていてない事だ。ただ全員が紫色の腕章をつけているから、あれが辺境領の衛兵の目印なんだろうか。
「お待ちしておりました、トライプール領主様」
代表して声をかけてきた隊長らしき人の動きに合わせて、全員がビシッと敬礼をする。一糸乱れぬ動きに圧倒されてしまった。
「こちらへどうぞ」
「出迎えご苦労」
すっと貴族らしい表情でクールに答えた領主様は、ちらりと俺とハルに視線を向けてきた。
「アキトくん、ハル。ここからは別行動になるけど、大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
ハルと二人でそう答えれば、領主様は小さく手を振って先導する人達と歩き出した。
どうやら半数は領主様と一緒に行くけど、半数はこの部屋に残るみたいだ。俺達がこの部屋に残ってるからなんだろうな。
今は直立不動になっている衛兵の人達は、部屋を出ていく領主様を無言のまま見送っている。
えーっと、これからどうするんだろう?
ちらりとハルを見あげてみれば、ハルは何故かすごく嫌そうに眉間にしわを寄せていた。え、なんで?珍しい表情に驚いている間に、ギギギと音を立てて動いていたドアが閉まり切った。
その瞬間、部屋の中にわっと声がこだました。
「おいおい、ハル、久しぶりじゃねぇか!」
「なんだ可愛い子連れてきやがってよぉ」
「ハル、ついに伴侶候補見つけたって本当だったのかよ!」
「ハルの伴侶候補を出迎えれる日が来るとはなぁ…」
「どうだ、前よりも強くなったかー?」
「お前、連絡ぐらいもっとこまめにしろよなー」
親しみを込めて一斉に話しかけてくる面々をじろりと睨んでから、ハルは口を開いた。
「うるさい…俺の伴侶候補がびっくりしてるだろう」
え、うん。びっくりしたね。さっきまであんなに無表情でクールな衛兵さんって感じだったのに、今は冒険者に囲まれてるような気分だ。
「なんだよートライプールの領主様の前ではちゃんと大人しくしてただろうが」
「そうそう、辺境領の衛兵らしくしてただろ?」
がっはっはと笑う周りの人達は、すごく楽しそうだ。
「えっと…」
「ああ、ごめんね、アキト。出迎えの中でもここに残ってた人達は俺が小さい頃から知ってる人ばかりなんだ」
「ハルが小さい頃から…?」
そう言われれば納得だな。だから皆、こんなに温かい目で見つめてくれてるのか。ハルを見る目も俺を見る目も、なんだか孫を見るおじいちゃんおばあちゃんみたいな視線なんだよね。
「あーすまんな。辺境領では魔物の討伐とかで、衛兵も騎士団も領主様の子も皆ごちゃ混ぜだからなぁ」
「…やっぱりこんな気安い対応じゃ失礼だったかい?」
すこし心配そうに尋ねてくる周りの人達に、俺はぶんぶんと首を振って答えた。
「いえ、さっきまで無表情だった衛兵さんが、急に親しみやすくなってびっくりはしましたけど…」
「アキト、遠慮せずに文句を言っても良いんだよ?」
「ううん、みなさん温かい目で見てくれるから、俺は嬉しいと思ったよ」
ハルは俺の返事にふーと息を吐くと、まったくアキトはと苦笑を洩らした。
「うわー……めっちゃ良い子だ」
「あの騒がしさを親しみやすいって言ってくれるのか」
「いやあんだけじろじろ見られてて、温かい目って言いきれるのもすごいぞ」
「俺の孫の嫁に来て欲しい」
そんなただの悪ふざけただと分かる言葉に、ハルはバッと顔をあげた。
「誰が渡すか」
ぐいっと俺の肩を抱いての言葉に、周りは一気にどっと湧いた。
「言うじゃねぇか!」
「いやーハルがこんな事言うようになるとはなぁ」
「伴侶候補を渡すまいと必死なハルなんて、すっごいもの見たな」
「俺、今日の護衛のくじ引きに勝って良かったわ」
どうやら今日の魔法陣の部屋の護衛は、くじ引きによって勝ち取られたものみたいだよ。それはつまり、ハルがどれだけ好かれてるかって話だよね。
ふふと笑った俺に、ハルは勘弁してくれと小さく呟いた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。