792 / 1,561
791.【ハル視点】出発の朝
ふと眠りから覚めて目を開けば、今日最初に視界に飛びこんできたのはすやすやと眠るアキトの寝顔だった。
すーすーと聞こえてくる寝息に、心なしか笑っているように見える唇、ぴょこんとはねている前髪がなんとも可愛らしい。ああ、なんて幸せな目覚めだろう。
今日はいよいよ辺境領へと出発する日だ。領主様と予定を合わせたから出発するのは昼前、つまりまだまだ時間には余裕がある。
さてどうしようかと、アキトの長いまつげを見つめながら考える。
このままアキトと一緒に二度寝するか、それとも荷物の再確認をするか。いや、アキトが起きる前に朝食の用意をしておくというのも良いかもしれない。
きっと喜んでもらえるだろうし、こっそりと買いに行くか。そう決めた俺はアキトを起こさないように細心の注意を払いながら、そっとベッドから抜け出した。
広場の屋台にでも行ってみるかとふらりと部屋を出て階下に行けば、偶然にも廊下でばったりとレーブンと出くわした。両手に木箱を持っているから、何か作業の途中なんだろう。
「おはよう、レーブン」
「ああ、おはよう、ハル。昨日聞き忘れてたんだが…出発はいつごろなんだ?」
「昼前には出るつもりだよ」
「そうか。ところで、アキトはどうした?」
「あーアキトはまだ寝てるんだ」
「そうか、まあゆっくりさせてやれば良いさ」
辺境領に行ったらきっと構われまくるだろうからなと、レーブンは笑いながら続けた。うん、まあ確実にそうなるだろうな。
「それにしても、いくら寝てるとはいえ、アキトを一人にするのは珍しいな?」
揶揄っているわけでもなくただただ不思議そうな質問に、俺は苦笑しながら答えた。
「ああ、今のうちに朝食でも買ってこようかなと思ってね」
「…なるほど。ちょっとここで待ってろ」
そう言うなり、レーブンは厨房の方へと去っていった。
「すまん、ハル。待たせた」
「いや、それほど待ってないが…」
背後からかけられた声に振り返れば、そこには両手にたくさんの料理の入ったカゴを持ったレーブンの姿があった。レーブンに会った時点で予感はあったが、こんなにたくさん良いんだろうか。
「ほら、これ持って行ってくれ」
「――良いのか?」
「ああ。アキトにはそろそろ食堂が閉まる時間だから、部屋でゆっくり食べろって伝えてくれ」
なるほど。アキトが気にしないようにそう言って渡せって事だな。明らかに食堂で出している朝食以外の料理も混ざっているが、そこは指摘しなくても良いだろう。
「ありがとう。アキトも喜ぶよ」
「ああ、楽しんでくれ」
ひらひらと手を振って見送られ、俺はいそいそと部屋に戻る事になった。
驚いたのは、部屋に帰るともうアキトが起きていた事だ。まだぼんやりとはしているみたいだが、眠そうな目がじっと俺を見つめてくる。
「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト。寝てる間に帰ってくるつもりだったのに」
俺は苦笑しながらも、手にもっていたカゴを持ちかえてアキトに見せた。
「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」
アキトはワクワクした様子でカゴを覗き込むと、わーと歓声をあげた。
「美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」
朝食を堪能してからしっかりと用意を整えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンの姿があった。普段ならいない事もある時間だから、きっと俺達を見送るためにここにいてくれたんだろう。
「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」
俺がそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンはよしよしちゃんと食べたなと満足そうな笑みを浮かべた。
「どれもすっごく美味しかったです!」
「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」
悪くねぇなと楽し気に笑ったレーブンは、急に一転して表情を曇らせた。
「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」
珍しく気弱な表情を浮かべたレーブンに、俺は率直にそう尋ねた。
「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」
俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなと続けたけれど、それでもレーブンはそういう事じゃないんだと首を振った。
「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」
まさかなと思いながらもそう尋ねた俺に、レーブンはすぐに頷いた。
「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」
「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」
あまりに予想外の言葉に、アキトと顔を見合わせてから揃って首を傾げてしまった。
「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」
どういう意味だと視線だけで尋ねれば、レーブンはすぐに口を開いた。
「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」
あーなるほど。そういう意味か。分かったと何度も頷けば、アキトは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」
それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとレーブンは続けた。あー、これは本気で言ってるな。
――まあ別に問題は無いか。俺がきちんとアキトと一緒にここに帰ってくれば良いだけだ。
「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」
すーすーと聞こえてくる寝息に、心なしか笑っているように見える唇、ぴょこんとはねている前髪がなんとも可愛らしい。ああ、なんて幸せな目覚めだろう。
今日はいよいよ辺境領へと出発する日だ。領主様と予定を合わせたから出発するのは昼前、つまりまだまだ時間には余裕がある。
さてどうしようかと、アキトの長いまつげを見つめながら考える。
このままアキトと一緒に二度寝するか、それとも荷物の再確認をするか。いや、アキトが起きる前に朝食の用意をしておくというのも良いかもしれない。
きっと喜んでもらえるだろうし、こっそりと買いに行くか。そう決めた俺はアキトを起こさないように細心の注意を払いながら、そっとベッドから抜け出した。
広場の屋台にでも行ってみるかとふらりと部屋を出て階下に行けば、偶然にも廊下でばったりとレーブンと出くわした。両手に木箱を持っているから、何か作業の途中なんだろう。
「おはよう、レーブン」
「ああ、おはよう、ハル。昨日聞き忘れてたんだが…出発はいつごろなんだ?」
「昼前には出るつもりだよ」
「そうか。ところで、アキトはどうした?」
「あーアキトはまだ寝てるんだ」
「そうか、まあゆっくりさせてやれば良いさ」
辺境領に行ったらきっと構われまくるだろうからなと、レーブンは笑いながら続けた。うん、まあ確実にそうなるだろうな。
「それにしても、いくら寝てるとはいえ、アキトを一人にするのは珍しいな?」
揶揄っているわけでもなくただただ不思議そうな質問に、俺は苦笑しながら答えた。
「ああ、今のうちに朝食でも買ってこようかなと思ってね」
「…なるほど。ちょっとここで待ってろ」
そう言うなり、レーブンは厨房の方へと去っていった。
「すまん、ハル。待たせた」
「いや、それほど待ってないが…」
背後からかけられた声に振り返れば、そこには両手にたくさんの料理の入ったカゴを持ったレーブンの姿があった。レーブンに会った時点で予感はあったが、こんなにたくさん良いんだろうか。
「ほら、これ持って行ってくれ」
「――良いのか?」
「ああ。アキトにはそろそろ食堂が閉まる時間だから、部屋でゆっくり食べろって伝えてくれ」
なるほど。アキトが気にしないようにそう言って渡せって事だな。明らかに食堂で出している朝食以外の料理も混ざっているが、そこは指摘しなくても良いだろう。
「ありがとう。アキトも喜ぶよ」
「ああ、楽しんでくれ」
ひらひらと手を振って見送られ、俺はいそいそと部屋に戻る事になった。
驚いたのは、部屋に帰るともうアキトが起きていた事だ。まだぼんやりとはしているみたいだが、眠そうな目がじっと俺を見つめてくる。
「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト。寝てる間に帰ってくるつもりだったのに」
俺は苦笑しながらも、手にもっていたカゴを持ちかえてアキトに見せた。
「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」
アキトはワクワクした様子でカゴを覗き込むと、わーと歓声をあげた。
「美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」
朝食を堪能してからしっかりと用意を整えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンの姿があった。普段ならいない事もある時間だから、きっと俺達を見送るためにここにいてくれたんだろう。
「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」
俺がそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンはよしよしちゃんと食べたなと満足そうな笑みを浮かべた。
「どれもすっごく美味しかったです!」
「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」
悪くねぇなと楽し気に笑ったレーブンは、急に一転して表情を曇らせた。
「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」
珍しく気弱な表情を浮かべたレーブンに、俺は率直にそう尋ねた。
「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」
俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなと続けたけれど、それでもレーブンはそういう事じゃないんだと首を振った。
「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」
まさかなと思いながらもそう尋ねた俺に、レーブンはすぐに頷いた。
「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」
「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」
あまりに予想外の言葉に、アキトと顔を見合わせてから揃って首を傾げてしまった。
「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」
どういう意味だと視線だけで尋ねれば、レーブンはすぐに口を開いた。
「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」
あーなるほど。そういう意味か。分かったと何度も頷けば、アキトは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」
それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとレーブンは続けた。あー、これは本気で言ってるな。
――まあ別に問題は無いか。俺がきちんとアキトと一緒にここに帰ってくれば良いだけだ。
「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。