生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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791.【ハル視点】出発の朝

 ふと眠りから覚めて目を開けば、今日最初に視界に飛びこんできたのはすやすやと眠るアキトの寝顔だった。

 すーすーと聞こえてくる寝息に、心なしか笑っているように見える唇、ぴょこんとはねている前髪がなんとも可愛らしい。ああ、なんて幸せな目覚めだろう。

 今日はいよいよ辺境領へと出発する日だ。領主様と予定を合わせたから出発するのは昼前、つまりまだまだ時間には余裕がある。

 さてどうしようかと、アキトの長いまつげを見つめながら考える。

 このままアキトと一緒に二度寝するか、それとも荷物の再確認をするか。いや、アキトが起きる前に朝食の用意をしておくというのも良いかもしれない。

 きっと喜んでもらえるだろうし、こっそりと買いに行くか。そう決めた俺はアキトを起こさないように細心の注意を払いながら、そっとベッドから抜け出した。



 広場の屋台にでも行ってみるかとふらりと部屋を出て階下に行けば、偶然にも廊下でばったりとレーブンと出くわした。両手に木箱を持っているから、何か作業の途中なんだろう。

「おはよう、レーブン」
「ああ、おはよう、ハル。昨日聞き忘れてたんだが…出発はいつごろなんだ?」
「昼前には出るつもりだよ」
「そうか。ところで、アキトはどうした?」
「あーアキトはまだ寝てるんだ」
「そうか、まあゆっくりさせてやれば良いさ」

 辺境領に行ったらきっと構われまくるだろうからなと、レーブンは笑いながら続けた。うん、まあ確実にそうなるだろうな。

「それにしても、いくら寝てるとはいえ、アキトを一人にするのは珍しいな?」

 揶揄っているわけでもなくただただ不思議そうな質問に、俺は苦笑しながら答えた。

「ああ、今のうちに朝食でも買ってこようかなと思ってね」
「…なるほど。ちょっとここで待ってろ」

 そう言うなり、レーブンは厨房の方へと去っていった。



「すまん、ハル。待たせた」
「いや、それほど待ってないが…」

 背後からかけられた声に振り返れば、そこには両手にたくさんの料理の入ったカゴを持ったレーブンの姿があった。レーブンに会った時点で予感はあったが、こんなにたくさん良いんだろうか。

「ほら、これ持って行ってくれ」
「――良いのか?」
「ああ。アキトにはそろそろ食堂が閉まる時間だから、部屋でゆっくり食べろって伝えてくれ」

 なるほど。アキトが気にしないようにそう言って渡せって事だな。明らかに食堂で出している朝食以外の料理も混ざっているが、そこは指摘しなくても良いだろう。

「ありがとう。アキトも喜ぶよ」
「ああ、楽しんでくれ」

 ひらひらと手を振って見送られ、俺はいそいそと部屋に戻る事になった。



 驚いたのは、部屋に帰るともうアキトが起きていた事だ。まだぼんやりとはしているみたいだが、眠そうな目がじっと俺を見つめてくる。

「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト。寝てる間に帰ってくるつもりだったのに」

 俺は苦笑しながらも、手にもっていたカゴを持ちかえてアキトに見せた。

「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」

 アキトはワクワクした様子でカゴを覗き込むと、わーと歓声をあげた。

「美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」



 朝食を堪能してからしっかりと用意を整えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンの姿があった。普段ならいない事もある時間だから、きっと俺達を見送るためにここにいてくれたんだろう。

「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」

 俺がそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンはよしよしちゃんと食べたなと満足そうな笑みを浮かべた。

「どれもすっごく美味しかったです!」
「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」

 悪くねぇなと楽し気に笑ったレーブンは、急に一転して表情を曇らせた。

「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」

 珍しく気弱な表情を浮かべたレーブンに、俺は率直にそう尋ねた。

「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」

 俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなと続けたけれど、それでもレーブンはそういう事じゃないんだと首を振った。

「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」

 まさかなと思いながらもそう尋ねた俺に、レーブンはすぐに頷いた。

「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」
「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」

 あまりに予想外の言葉に、アキトと顔を見合わせてから揃って首を傾げてしまった。

「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」

 どういう意味だと視線だけで尋ねれば、レーブンはすぐに口を開いた。

「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」

 あーなるほど。そういう意味か。分かったと何度も頷けば、アキトは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。

「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」

 それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとレーブンは続けた。あー、これは本気で言ってるな。

 ――まあ別に問題は無いか。俺がきちんとアキトと一緒にここに帰ってくれば良いだけだ。

「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」
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