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795.【ハル視点】嫌な予感のする出迎え
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眩い光が消えて転移が終わったと分かると、俺はすぐに目を開いた。もしアキトが辛そうにしていたらすぐに支えたいからな。
慌てて視線を向けた先にいるアキトは、きょろきょろと興味深そうに周りの変化を見比べているようだ。少なくとも目を開いて周りを見れるぐらいの元気はありそうだな。
すこしだけホッとしながらアキトの様子を見つめていると、近くから押し殺せなかったらしい苦し気な声が聞こえてきた。
「ぐっ…」
声をもらしたベテランの護衛は、立っているのすらやっとと言った様子の真っ青な顔色をして両手で口を覆っている。この護衛はなかなか転移に慣れない体質なのか、毎回ひどくつらそうだ。
領主様は体質に合わないなら転移魔法陣を使用しない時の護衛だけで良いと言っているが、本人が決して受け入れない。それに彼は腕が立つからと、周りも止めきれずにいるんだよな。
ストが慣れた様子で蓋を開けた回復ポーションを手渡しているから、彼はもうしばらくすれば大丈夫だろう。
新人だろう若い護衛は既に気絶しているらしく、外側の円に立っていた護衛にがっしりと抱きとめられている。いっそ気絶できた方が楽なのかもしれないな。
そんな二人を心配そうに見つめているアキトの顔を、俺はひょいっと覗き込んだ。
「アキトは…大丈夫そうだね?」
顔色も良いし、眼はまだ好奇心でキラキラしている。
「あーうん、俺は平気みたい」
「それなら良かったよ」
転移酔いにならない体質なんだねと、俺は安堵の息を洩らした。
具合が悪くなった二人も回復ポーションで元気になり、無事に全員の用意が整った。揃って魔法陣から下りると、そこには辺境領の衛兵たちがずらりと整列していた。領主様の出迎えのために来たんだろうが、これはもしかして――いや、確実に俺達がくると知ってから人を選んだんだろうな。
半数ほどが知り合いな上に、俺の師匠までがそこにいるとなればそれぐらいは察する事ができてしまう。
全員の服装も装備も一切揃っていないから冒険者や傭兵のようにしか見えないが、全員が揃いの紫の腕章をつけている。
「お待ちしておりました、トライプール領主様」
代表して声をかけてきた隊長の動きに合わせて、全員がビシッと敬礼をする。一糸乱れぬ動きをすれば、衛兵らしくも見えるんだよな。
「こちらへどうぞ」
「出迎えご苦労」
すっと貴族らしい表情でクールに答えた領主様は、ちらりとアキトと俺に視線を向けてきた。
「アキトくん、ハル。ここからは別行動になるけど、大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
アキトと二人でそう答えれば、領主様は小さく手を振って先導する人達と歩き出した。
どうやら半数は領主様と一緒に行き、半数はこの部屋に残るようだ。
ご丁寧に俺の知り合いの衛兵ばかりが残るのを見て、俺は眉間にしわを寄せた。この人達の事はもちろん嫌いじゃない。むしろ人としては好ましい人ばかりだ。
ただ、アキトと一緒に帰ってきたとなれば、思いっきり揶揄われるのは確定している。
ギギギと音を立てて動いていたドアが閉まり切った瞬間、部屋の中にわっと声がこだました。
「おいおい、ハル、久しぶりじゃねぇか!」
「なんだ可愛い子連れてきやがってよぉ」
「ハル、ついに伴侶候補見つけたって本当だったのかよ!」
「ハルの伴侶候補を出迎えれる日が来るとはなぁ…」
「どうだ、前よりも強くなったかー?」
「お前、連絡ぐらいもっとこまめにしろよなー」
親しみを込めて一斉に話しかけてくる面々をじろりと睨んでから、俺は口を開いた。
「うるさい…俺の伴侶候補がびっくりしてるだろう」
無表情でビシッと敬礼をしていた衛兵らしい姿と、目の前の近所のおじさんのような姿の違いにアキトは明らかに戸惑っている。
「なんだよートライプールの領主様の前ではちゃんと大人しくしてただろうが」
「そうそう、辺境領の衛兵らしくしてただろ?」
がっはっはと笑うみんなは、ひどく楽しそうだ。まあ確かにうまく隠してはいたけどな。
「えっと…」
「ああ、ごめんね、アキト。出迎えの中でもここに残ってた人達は俺が小さい頃から知ってる人ばかりなんだ」
「ハルが小さい頃から…?」
「あーすまんな。辺境領では魔物の討伐とかで、衛兵も騎士団も領主様の子も皆ごちゃ混ぜだからなぁ」
そこを一々区別していたら、守れるものも守れなくなる。それが俺のご先祖様の方針だったからな。それはもう仕方ないだろう。
「…やっぱりこんな気安い対応じゃ失礼だったかい?」
衛兵たちは揃って心配そうにしながらそう尋ねたが、アキトはぶんぶんと首を振ってから答えた。
「いえ、さっきまで無表情だった衛兵さんが、急に親しみやすくなってびっくりはしましたけど…」
「アキト、遠慮せずに文句を言っても良いんだよ?」
まあ。アキトは言わないって知ってるけどな。
「ううん、みなさん温かい目で見てくれるから、俺は嬉しいと思ったよ」
「まったくアキトは」
こういう所も良いんだよなと思っている間に、衛兵たちはこそこそと声を交わし始めた。
「うわー……めっちゃ良い子だ」
「あの騒がしさを親しみやすいって言ってくれるのか」
「いやあんだけじろじろ見られてて、温かい目って言いきれるのもすごいぞ」
「俺の孫の嫁に来て欲しい」
今の声はリモンだな。こいつの孫はまだ十歳にもなっていない筈だ。だからただの悪ふざけだと分かってはいたんだが、それでも黙っている事はできなかった。
俺はバッと顔をあげてから口を開く。
「誰が渡すか」
ぐいっとアキトの肩を抱いてそう言い放てば、周りは一気にどっと湧いた。
「言うじゃねぇか!」
「いやーハルがこんな事言うようになるとはなぁ」
「伴侶候補を渡すまいと必死なハルなんて、すっごいもの見たな」
「俺、今日の護衛のくじ引きに勝って良かったわ」
そんな理由で決めるなと言いたい所だが、辺境領の衛兵はみんな凄腕ばかりだから文句も言えない。
ぐっと言葉に詰まった俺に、アキトはふふと楽し気に笑った。
慌てて視線を向けた先にいるアキトは、きょろきょろと興味深そうに周りの変化を見比べているようだ。少なくとも目を開いて周りを見れるぐらいの元気はありそうだな。
すこしだけホッとしながらアキトの様子を見つめていると、近くから押し殺せなかったらしい苦し気な声が聞こえてきた。
「ぐっ…」
声をもらしたベテランの護衛は、立っているのすらやっとと言った様子の真っ青な顔色をして両手で口を覆っている。この護衛はなかなか転移に慣れない体質なのか、毎回ひどくつらそうだ。
領主様は体質に合わないなら転移魔法陣を使用しない時の護衛だけで良いと言っているが、本人が決して受け入れない。それに彼は腕が立つからと、周りも止めきれずにいるんだよな。
ストが慣れた様子で蓋を開けた回復ポーションを手渡しているから、彼はもうしばらくすれば大丈夫だろう。
新人だろう若い護衛は既に気絶しているらしく、外側の円に立っていた護衛にがっしりと抱きとめられている。いっそ気絶できた方が楽なのかもしれないな。
そんな二人を心配そうに見つめているアキトの顔を、俺はひょいっと覗き込んだ。
「アキトは…大丈夫そうだね?」
顔色も良いし、眼はまだ好奇心でキラキラしている。
「あーうん、俺は平気みたい」
「それなら良かったよ」
転移酔いにならない体質なんだねと、俺は安堵の息を洩らした。
具合が悪くなった二人も回復ポーションで元気になり、無事に全員の用意が整った。揃って魔法陣から下りると、そこには辺境領の衛兵たちがずらりと整列していた。領主様の出迎えのために来たんだろうが、これはもしかして――いや、確実に俺達がくると知ってから人を選んだんだろうな。
半数ほどが知り合いな上に、俺の師匠までがそこにいるとなればそれぐらいは察する事ができてしまう。
全員の服装も装備も一切揃っていないから冒険者や傭兵のようにしか見えないが、全員が揃いの紫の腕章をつけている。
「お待ちしておりました、トライプール領主様」
代表して声をかけてきた隊長の動きに合わせて、全員がビシッと敬礼をする。一糸乱れぬ動きをすれば、衛兵らしくも見えるんだよな。
「こちらへどうぞ」
「出迎えご苦労」
すっと貴族らしい表情でクールに答えた領主様は、ちらりとアキトと俺に視線を向けてきた。
「アキトくん、ハル。ここからは別行動になるけど、大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
アキトと二人でそう答えれば、領主様は小さく手を振って先導する人達と歩き出した。
どうやら半数は領主様と一緒に行き、半数はこの部屋に残るようだ。
ご丁寧に俺の知り合いの衛兵ばかりが残るのを見て、俺は眉間にしわを寄せた。この人達の事はもちろん嫌いじゃない。むしろ人としては好ましい人ばかりだ。
ただ、アキトと一緒に帰ってきたとなれば、思いっきり揶揄われるのは確定している。
ギギギと音を立てて動いていたドアが閉まり切った瞬間、部屋の中にわっと声がこだました。
「おいおい、ハル、久しぶりじゃねぇか!」
「なんだ可愛い子連れてきやがってよぉ」
「ハル、ついに伴侶候補見つけたって本当だったのかよ!」
「ハルの伴侶候補を出迎えれる日が来るとはなぁ…」
「どうだ、前よりも強くなったかー?」
「お前、連絡ぐらいもっとこまめにしろよなー」
親しみを込めて一斉に話しかけてくる面々をじろりと睨んでから、俺は口を開いた。
「うるさい…俺の伴侶候補がびっくりしてるだろう」
無表情でビシッと敬礼をしていた衛兵らしい姿と、目の前の近所のおじさんのような姿の違いにアキトは明らかに戸惑っている。
「なんだよートライプールの領主様の前ではちゃんと大人しくしてただろうが」
「そうそう、辺境領の衛兵らしくしてただろ?」
がっはっはと笑うみんなは、ひどく楽しそうだ。まあ確かにうまく隠してはいたけどな。
「えっと…」
「ああ、ごめんね、アキト。出迎えの中でもここに残ってた人達は俺が小さい頃から知ってる人ばかりなんだ」
「ハルが小さい頃から…?」
「あーすまんな。辺境領では魔物の討伐とかで、衛兵も騎士団も領主様の子も皆ごちゃ混ぜだからなぁ」
そこを一々区別していたら、守れるものも守れなくなる。それが俺のご先祖様の方針だったからな。それはもう仕方ないだろう。
「…やっぱりこんな気安い対応じゃ失礼だったかい?」
衛兵たちは揃って心配そうにしながらそう尋ねたが、アキトはぶんぶんと首を振ってから答えた。
「いえ、さっきまで無表情だった衛兵さんが、急に親しみやすくなってびっくりはしましたけど…」
「アキト、遠慮せずに文句を言っても良いんだよ?」
まあ。アキトは言わないって知ってるけどな。
「ううん、みなさん温かい目で見てくれるから、俺は嬉しいと思ったよ」
「まったくアキトは」
こういう所も良いんだよなと思っている間に、衛兵たちはこそこそと声を交わし始めた。
「うわー……めっちゃ良い子だ」
「あの騒がしさを親しみやすいって言ってくれるのか」
「いやあんだけじろじろ見られてて、温かい目って言いきれるのもすごいぞ」
「俺の孫の嫁に来て欲しい」
今の声はリモンだな。こいつの孫はまだ十歳にもなっていない筈だ。だからただの悪ふざけだと分かってはいたんだが、それでも黙っている事はできなかった。
俺はバッと顔をあげてから口を開く。
「誰が渡すか」
ぐいっとアキトの肩を抱いてそう言い放てば、周りは一気にどっと湧いた。
「言うじゃねぇか!」
「いやーハルがこんな事言うようになるとはなぁ」
「伴侶候補を渡すまいと必死なハルなんて、すっごいもの見たな」
「俺、今日の護衛のくじ引きに勝って良かったわ」
そんな理由で決めるなと言いたい所だが、辺境領の衛兵はみんな凄腕ばかりだから文句も言えない。
ぐっと言葉に詰まった俺に、アキトはふふと楽し気に笑った。
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