生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
798 / 1,492

797.【ハル視点】辺境領の良い所自慢

しおりを挟む
 盛り上がりが落ち着くのを待って、俺は抱いた疑問を口にした。

「それにしても…あんた達が木彫りの店と果物屋をお勧めするとは思わなかったな――酒のうまい店とかならまだ納得できるんだが」

 飲み比べもよくやってる二人だからなと考えながら尋ねれば、答えは違う方向から返ってきた。

「あれ、ハルは知らなかったか?こいつの息子、今は木彫りの店をやってるんだぞ」
「へえ、そうなのか?」

 手先が器用だったのは覚えているが、木彫りの店をやってるとは思わなかったな。

「ちなみにこいつの娘は、果物屋をやってる」

 そう説明したみんなの手は、さっき主張しあっていたミルシュとメンクの二人を指差している。

 ああ、なるほど自分の家族の店を勧めたかったのか。それなら納得だと思った瞬間、ミルシュが声をあげた。

「ちょっと待て!確かに息子は店をやってるが、別にそういう基準で選んでねぇぞ!もし息子がやってなくても俺は木彫りの店を勧めてた!」
「またまたー」
「家族思いがバレたからって照れるなって」
「本当だって!」

 ミルシュは、もしアキトくんが近くに住んでるなら俺はきっと机や椅子の店を勧めてたよと続けた。辺境領の家具はかなり質が高いのに、比較的安価で手に入るんだと優しい声で説明している。

 ミルシュお前そんな優しい声出たんだな。

 周囲にいる何人かが口を押さえてるのは、きっと笑いそうなのを堪えてるんだろう。

「でもトライプールまで持ちかえる事を考えたら、魔導収納鞄の容量を圧迫しない木彫りの像が一番のお勧めなんだ」
「そうなんですか」
「他の地域では動物の木彫りが多いんだけど、辺境では木々や森、花なんかの植物や、武器や防具なんていうすこし珍しいものもあるんだよ」
「それはぜひ見てみたいです」

 アキトの返事にミルシュは満足そうに何度も頷いている。そしてちらりとメンクへと視線を向けた。

 あーまたライバル意識か。

「おい、それをいうなら、俺だって娘に関係なく果物を勧めてたぞ!」

 揶揄う周りにうるさいと叫んでから、メンクはアキトに向かって優しく笑いかけた。

「辺境領には珍しい果物が本当に多いんだよ」
「はい、ハルからも聞きました」
「ところでアキトくん、果物は好きかい?」
「はい、好きです!それに俺、果実水が好きなんですけ」
「おお、果実水が好きなら絶対に寄ってくれ!珍しい果物を使った果実水もあるからね」

 アキトはキラキラと目を輝かせて、俺の方へと視線を向けた。うん、そんな目をされたら、行くしかないよな。

「滞在中に、寄ってみようか」
「うん、楽しみ!」
「俺はやっぱりミラルースの食事が一番だと思うぞ」
「あー…うん、あそこは美味いからな」

 どうやら俺がちらりと話した事を覚えていてくれたらしく、アキトは知ってるお店の名前だと言いたげに笑みを浮かべて聞いている。

「ミラルースはアキトと一緒に行きたい店に最初から入ってるよ」
「あーおまえあそこのステーキ好きだよな」

 ああ、好きだな。

「いやいや、他の街から来たなら、魔道具とかも珍しいんじゃないか?」
「魔道具ですか?」
「そうなんだ。辺境領の市場や屋台では、近くにあるダンジョン産の魔道具が破格の値段で売られている事もあるんだ」
「あーでもね、アキトくん。性能が良くないものを高値で売りつけようとする商人も、ごく稀に混じっていたりするから注意してね」

 慌てた様子でそう付け加えたのは、普段は市場の見回りを担当している隊の一人だった。

「そのあたりは俺達衛兵が見回ってるんだが、逃げ足が早くてな」

 騙されてアキトが嫌な思いをする前に、きちんと言っておかないとと思ったんだろうな。なんだかアキトはすっかり気に入られているらしい。

「まあ目利きなハルと一緒なら、絶対に騙されないしきっと楽しめるぞ」

 よし、分かった。アキトのためにも全力で良いものを探してやる。

「あ、武器とかもダンジョン産の変わったのがあったりするよ」
「バカ、後衛の魔法使いだって言ってただろうが」

 そっか、俺達みたいに武器はそうそう買い替えないかと残念そうだったが、一人の衛兵がはいっと手をあげた。

「あ、俺、旦那が魔法使いだから、魔法使い用のローブとか杖をいーっぱい売ってる店知ってるぞ!」
「そういえば冒険者ギルドの隣の武器屋も、最近は魔法使い用にって色々作ってたな」

 もはや俺とアキトを置き去りにして、わいわいと盛り上がっていく会話は、どんどん膨らんでいく。

 アキトは辺境領ってすごいとか思ってるんだろうな。興味深そうにキラキラした目で話を聞いている。

「あ、でも辺境領の一番の名所って言ったら、やっぱり領主城だけどな!」
「違いねぇ」
「普通の観光なら外から見るだけだが、アキトくんは中にも入れるんだしな」

 今度は辺境領の領主城のみどころを勧める流れらしい。俺にとっては実家だから、たぶんここにいる誰よりも詳しいと思うんだが…。衛兵たちもアキトも楽しそうだから、まあ良いか。

 口を挟まずに会話に耳を傾けていると、不意に一人の衛兵が大きな声をあげた。

「あ、やばい!」
「なんだ、どうしたー?」 
「いや、ハルとアキトくんを引き留めすぎてるって話だよ!」
「それは…やばいな」
「俺らが最強夫婦に怒られる!」

 ぽつりとそう呟いた衛兵に、皆はそうだったそうだったとと大慌てだ。

「よし、ハル、アキトくん。急いで領主邸に向かってくれ!」
「ああ、上まで案内する!」
「こっちだ!」

 てきぱきとした動きは、絶対に怒られたくないという意思の現れだろうな。びっくり顔のアキトの肩を、俺はぽんっと軽く叩いた。

「ごめん、アキト。こういう人達なんだ」
「うん、楽しい人達だね」
「この賑やかで親し気な雰囲気、俺は好きだなー」

 アキトならきっとそう言ってくれると思っていたよ。

 俺はアキトだけに聞こえるぐらいの小さな声で、俺もとぼつりと答えた。
しおりを挟む
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く

ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。 田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。 一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。

ゴミスキルと追放された【万物鑑定】の俺、実は最強でした。Sランクパーティが崩壊する頃、俺は伝説の仲間と辺境で幸せに暮らしています

黒崎隼人
ファンタジー
Sランク勇者パーティのお荷物扱いされ、「ゴミスキル」と罵られて追放された鑑定士のアッシュ。 失意の彼が覚醒させたのは、森羅万象を見通し未来さえも予知する超チートスキル【万物鑑定】だった! この力を使い、アッシュはエルフの少女や凄腕の鍛冶師、そして伝説の魔獣フェンリル(もふもふ)といった最強の仲間たちを集め、辺境の町を大発展させていく。 一方、彼を追放した勇者たちは、アッシュのサポートを失い、ダンジョンで全滅の危機に瀕していた――。 「今さら戻ってこい? お断りだ。俺はこっちで幸せにやってるから」 底辺から駆け上がる痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶
BL
 BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。  乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。  子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ? 本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...