生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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799.街並みを眺めて

 まさか辺境領の中がこんなに幽霊だらけだとは予想もしていなかったから、驚いた俺とハルは思わずその場に立ち止まってしまった。

「すごいね…ハル」
「あ、ああ…すごいな、アキト」

 何がとは言わずに声をかければ、ハルも何がとは言わずにそう答えてくれた。

 きっと何も知らない人から見れば、俺達はただ辺境領の活気あふれる街並みに驚いてる観光客に見えるんだろうな。

 不自然にならないように街中をぐるりと眺めてみる。うん、やっぱりすごい量だ。

 ――あ、でも危険な気配のやつはいないし、スプラッタな見た目のやつもいないな。

 冷静に観察している間に気を取り直したのか、ハルはすこし戸惑った様子ながらも案内を再開してくれた。

「こっちだよ、アキト」
「うん、ありがとう」

 ハルの案内で進んでいくと、ずらりと建物が並ぶ大通りへと出た。

 この街の建物には、他の地域ではあまり見かけない黒い木がよく使われている。ハルによるとこれはヴァコクと呼ばれる木で、染めてあるとか塗ってあるとかじゃなくて木そのものが黒いんだって。

「ヴァコクかぁ。これって使われてる理由とかあるの?」
「ああ、ヴァコクはかなり燃えにくいんだ」
「え…燃えにくいって…木なのに?」

 思わず反射的に問い返してしまったけれど、ハルは楽しそうに笑って頷いた。

「そう、木なのに。ちなみに火魔法を投げつけたぐらいじゃ燃えないよ」
「えーそれはすごいね」

 火魔法でも燃えないって、もうそれは燃えにくいというよりも燃えないじゃないのかな。そう思ったのが伝わったのか、ハルは一応燃えにくいって言うのにも理由があるよと教えてくれた。

「さすがにドラゴンの炎には耐えられなかったんだ」

 だから燃えないじゃなくて燃えにくいと呼ばれるんだって。えっと、すごい衝撃的な情報をさらりと言われてしまったんだけど――さすがにそんなに頻繁にドラゴンって現れないよね?

 ちょっとだけ心配になっちゃったよ。



 黒を基調にした統一感のある街なみを眺めながら進んでいけば、大きな広場に出た。真ん中には大きな噴水があって、色とりどりの屋台や露店がずらりと立ち並んでいる。

 カラフルな果物や野菜が山積みになっていて、呼び込みの声や値切りの元気な声がそこかしこから聞こえてくる。

 トライプールの市場以上の活気と盛り上がりだ。

「ここはこの領で一番大きな市場なんだ。特に食べ物が色々あってお勧めだよ」
「へー食べ物がお勧めなんだ」

 言いながらキョロキョロと視線を動かしてみれば、確かに積まれてる果物や野菜の中にも知らない物がたくさん混ざってるみたいだ。

「あ、あれは初めて見たかも」
「ん?どれ?」
「あのトゲトゲしてる黄色のやつ」
「あーあれはね…」

 味から由来まで詳しく説明してくれたハルは、気になるなら寄っていく?と笑顔で言ってくれた。少しだけ考えてから、俺はふるふると首を振った。

「興味はあるけど、今日はハルの家族に会うのが一番大事な予定だから」
「…っ!そう…だね。また改めて見に来ようか」
「うん、約束しよ」

 差し出された手をきゅっと握って、また歩き出す。ハルと手を繋いで歩けるのはすごく嬉しいんだけど…やっぱり気になるな、幽霊。

 なんでこんなにいっぱいいるんだろう。

 ちらりと視線を動かしてみれば、キョロキョロと周りを見渡しているまだ幼いこどもの幽霊二人組が目に止まった。顔は全く似てないから、別に兄弟とかでは無いんだろうな。

「いない…」
「いないねぇ」

 少し年上に見える少年の言葉に、年下の少年がしょんぼりと肩を落として答える。

「つぎはあっちにいってみよっか」
「ん、あきらめない」
「ぜーったい、みつけようね」
「がんばる」

 会話の内容からしてきっと誰かを探してるんだろうなとは分かるんだけど、さすがにこれだけ人目があると何を探しているの?と尋ねる事もできないよね。幽霊が見えない人からしたら、こいつは何故突然空中に向けて話しだしたんだって思われちゃう。

 少年たち二人が市場を抜けて大通りの方へと去って行くのを、俺はなすすべもなく見送った。
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