806 / 1,561
805.顔合わせのご挨拶
「お会いできて光栄です」
本物だーなんて考えながらも、咄嗟にそう返せたのは運が良かったかもしれない。
「ねえ、礼儀作法にのっとったやりとりはもう終わりにしませんか?」
不意にそう声をあげたのは、ケイリーさんの隣に並んで立っているドレスを着た女性だった。赤茶色の髪を美しく結い上げているその女性は、太陽に照らされた木々のような緑の瞳で俺とハルをじっと見つめている。
あれって、グレースさん…だよね?さっきまではショートカットに鎧だったのに、今はドレスに結い上げた髪、うっすらとお化粧まで施されている。こうして見るとすごく美人な人だったんだな。
声と話し方もさっきと違ってすごく女性的だ。
ケイリーさんは驚いた様子で、大きく目を見開いてグレースさんを見つめていた。
「グレース…?」
「アキトは別にそういう作法とかにうるさくないから」
大丈夫大丈夫と笑って答えたグレースさんは、もうさっき会った時と同じようなくだけた喋り方だった。見た目は美しい女性なのに、喋り方は男性的ですこしだけ違和感がある。
「…ちょっと待て、グレース。なぜ君がそれを知ってるんだ?」
「えー?」
「ハル、もしかして…」
ケイリーさんは困り顔でハルに視線を向ける。
「ああ、来たよ、俺の腕試しに」
「あ、バラすなよ、ハル!」
グレースさんが口止めをしようとするけれど、ハルはバラすに決まってるだろと普通に返している。
「今回は伴侶候補が一緒に来るんだから、腕試しは挨拶の後にって皆で決めただろう?」
「決めたけどさーそう考える裏をかかないと意味が無いだろ?」
「裏をかくって…」
「実際、ハルもそう考えてたから油断しきってたし」
「あー…うん。確かに油断はしてたな」
「一番油断した所を狙った方が、意味があるだろ」
「いや、そうは言っても、アキト君の立場になって考えたら…」
「そうだよ、俺は良いけど、アキトがいるんだからもう少しぐらい考えてくれても…」
厳しい視線を向けて文句を言うハルと、怖い顔で叱るケイリーさんに詰め寄られても、グレースさんはニコニコと笑って流している。
「二人とも怪我はしなかったんだから良いじゃないか」
あの迫力を前にしてそう言いきれるって、すごいな。グレースさんは強い人だ。ハルだけを狙って攻撃してきた事に腹を立ててたけど、あれが家族では当たり前の腕試しだって言われたら文句なんて言えないし。
そんな事を考えなからハルとご両親のやりとりを眺めていると、後ろからそっと声をかけられた。
「アキトくん、騒がしくてすまないね」
穏やかな声に慌てて振り返れば、そこにはハルとそっくりな風貌の男性が立っていた。身長はたぶんハルと同じぐらいだけど、身体の厚みはハルよりもありそうだ。キリリと引き締まった表情が、クールな雰囲気によく似合っている。
「はじめまして。私はファーガス、ハルの一番上の兄だ」
「はじめまして、アキトと言います」
この人が五歳も上なのにたまに双子に間違われるってハルが言ってたお兄さんか。
「ハルの伴侶候補に会える日が来るとは思ってなかったよ、これからよろしく」
ファーガスさんはそう言うなり、ふわりと笑みを浮かべた。あ、ハルと同じ笑い方だ。
「こちらこそよろしくおねがいします」
「あ、ファ―ガス兄さんが抜け駆けしてるー!アキト君、久しぶり」
ひょこっとファーガスさんの後ろから顔を出しながら軽い口調で声をかけてくれたのは、船の上でも会ったハルの二番目のお兄さんウィリアムさんだ。
「ウィリアムさん、お久しぶりです!」
「船で会った時から、君がハルの伴侶候補になってくれたら良いのにーって思ってたんだ」
あの後すぐに伴侶候補になったんだって?とニコニコ笑顔で尋ねられた俺は、照れながらもこくりと頷いた。
「はい、あの船の上で…」
「そっかそっかー」
「兄様たち、僕も挨拶したい…です」
聞こえてきた小さな声にそっと視線を下げれば、ウィリアムさんの腰に後ろから抱き着くようにして立っている少年の姿が見えた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
顔の見えない少年にとりあえずそう挨拶をしてみれば、照れくさそうに笑いながら少年は顔を見せてくれた。
うわーすっごい美少年だ。
金髪の髪の毛はすこし癖があるのかふわふわとあちこちにはねていて、上目遣いに見つめてくる目はグレースさん譲りの新緑の色だ。絵画とかで天使を描く時のモデルができそうな美少年って言ったら、通じるかな。
「はじめまして、アキトです」
できるだけ優しい声で話しかければ、少年は嬉しそうに笑みを返してくれた。
「僕はキースといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
きっと照れ屋なんだろうなと分かるのに、それでも頑張って挨拶してくれたのが嬉しい。可愛いなぁと微笑みながら見つめていると、ファーガスさんとウィリアムさんの手が優しくキースくんの頭を撫でた。
本物だーなんて考えながらも、咄嗟にそう返せたのは運が良かったかもしれない。
「ねえ、礼儀作法にのっとったやりとりはもう終わりにしませんか?」
不意にそう声をあげたのは、ケイリーさんの隣に並んで立っているドレスを着た女性だった。赤茶色の髪を美しく結い上げているその女性は、太陽に照らされた木々のような緑の瞳で俺とハルをじっと見つめている。
あれって、グレースさん…だよね?さっきまではショートカットに鎧だったのに、今はドレスに結い上げた髪、うっすらとお化粧まで施されている。こうして見るとすごく美人な人だったんだな。
声と話し方もさっきと違ってすごく女性的だ。
ケイリーさんは驚いた様子で、大きく目を見開いてグレースさんを見つめていた。
「グレース…?」
「アキトは別にそういう作法とかにうるさくないから」
大丈夫大丈夫と笑って答えたグレースさんは、もうさっき会った時と同じようなくだけた喋り方だった。見た目は美しい女性なのに、喋り方は男性的ですこしだけ違和感がある。
「…ちょっと待て、グレース。なぜ君がそれを知ってるんだ?」
「えー?」
「ハル、もしかして…」
ケイリーさんは困り顔でハルに視線を向ける。
「ああ、来たよ、俺の腕試しに」
「あ、バラすなよ、ハル!」
グレースさんが口止めをしようとするけれど、ハルはバラすに決まってるだろと普通に返している。
「今回は伴侶候補が一緒に来るんだから、腕試しは挨拶の後にって皆で決めただろう?」
「決めたけどさーそう考える裏をかかないと意味が無いだろ?」
「裏をかくって…」
「実際、ハルもそう考えてたから油断しきってたし」
「あー…うん。確かに油断はしてたな」
「一番油断した所を狙った方が、意味があるだろ」
「いや、そうは言っても、アキト君の立場になって考えたら…」
「そうだよ、俺は良いけど、アキトがいるんだからもう少しぐらい考えてくれても…」
厳しい視線を向けて文句を言うハルと、怖い顔で叱るケイリーさんに詰め寄られても、グレースさんはニコニコと笑って流している。
「二人とも怪我はしなかったんだから良いじゃないか」
あの迫力を前にしてそう言いきれるって、すごいな。グレースさんは強い人だ。ハルだけを狙って攻撃してきた事に腹を立ててたけど、あれが家族では当たり前の腕試しだって言われたら文句なんて言えないし。
そんな事を考えなからハルとご両親のやりとりを眺めていると、後ろからそっと声をかけられた。
「アキトくん、騒がしくてすまないね」
穏やかな声に慌てて振り返れば、そこにはハルとそっくりな風貌の男性が立っていた。身長はたぶんハルと同じぐらいだけど、身体の厚みはハルよりもありそうだ。キリリと引き締まった表情が、クールな雰囲気によく似合っている。
「はじめまして。私はファーガス、ハルの一番上の兄だ」
「はじめまして、アキトと言います」
この人が五歳も上なのにたまに双子に間違われるってハルが言ってたお兄さんか。
「ハルの伴侶候補に会える日が来るとは思ってなかったよ、これからよろしく」
ファーガスさんはそう言うなり、ふわりと笑みを浮かべた。あ、ハルと同じ笑い方だ。
「こちらこそよろしくおねがいします」
「あ、ファ―ガス兄さんが抜け駆けしてるー!アキト君、久しぶり」
ひょこっとファーガスさんの後ろから顔を出しながら軽い口調で声をかけてくれたのは、船の上でも会ったハルの二番目のお兄さんウィリアムさんだ。
「ウィリアムさん、お久しぶりです!」
「船で会った時から、君がハルの伴侶候補になってくれたら良いのにーって思ってたんだ」
あの後すぐに伴侶候補になったんだって?とニコニコ笑顔で尋ねられた俺は、照れながらもこくりと頷いた。
「はい、あの船の上で…」
「そっかそっかー」
「兄様たち、僕も挨拶したい…です」
聞こえてきた小さな声にそっと視線を下げれば、ウィリアムさんの腰に後ろから抱き着くようにして立っている少年の姿が見えた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
顔の見えない少年にとりあえずそう挨拶をしてみれば、照れくさそうに笑いながら少年は顔を見せてくれた。
うわーすっごい美少年だ。
金髪の髪の毛はすこし癖があるのかふわふわとあちこちにはねていて、上目遣いに見つめてくる目はグレースさん譲りの新緑の色だ。絵画とかで天使を描く時のモデルができそうな美少年って言ったら、通じるかな。
「はじめまして、アキトです」
できるだけ優しい声で話しかければ、少年は嬉しそうに笑みを返してくれた。
「僕はキースといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
きっと照れ屋なんだろうなと分かるのに、それでも頑張って挨拶してくれたのが嬉しい。可愛いなぁと微笑みながら見つめていると、ファーガスさんとウィリアムさんの手が優しくキースくんの頭を撫でた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。