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806.【ハル視点】長い階段
辺境領の魔法陣がある地下室は他の領に比べてもかなり深い所に存在しているため、外に出るには長い長い階段をひたすら上る必要がある。
曾祖父の代からこの深さだったと聞いた事があるし、俺も何度も上ったことがある慣れた道だ。
幼い頃から俺の周りにいるのは体力に自信がある人とか、戦うのが生きがいな人とかばかりだった。だから普通の人にとってこの長い階段がどれだけ大変かなんて、考えた事も無かったんだ。
「アキト、大丈夫?」
荒い息を吐きながらそれでも一段ずつ足を進めるアキトに、俺はそっと声をかけた。アキトはぱちりと俺と視線を合わせると、うっすらと笑みを浮かべてこくりと頷いた。
「ここの階段は長いからなぁ」
「何段あるんだろうな、ここの階段って」
「あー、毎回何段あるか数えようとは思うんだが、長すぎて途中で飽きるんだよな」
「気持ちは分かる」
「ここはアキトくんにはつらいだろう」
「大丈夫か?」
「無理はするなよ?」
「座ってのんびり休憩するって手もあるぞ」
口々にそう声をかけるのは、先導してくれている衛兵たちだ。心配そうに声をかけているが、アキトはぶんぶんと首を振った。
「まだ…行けます!」
うん、アキトはここでもう無理だとは言わないよな。周りが普通の顔をしてるから余計に、頑張ろうとしてるんだろう。
「アキト、アキトさえ良ければ抱き上げて歩くけど…どうかな?」
きっと断られるだろうなと思いつつもそう尋ねてみれば、アキトではなく周りがわっと一気に盛り上がった。
「おっ、それは良いな!」
「アキトくん、甘えたら良いぞ」
「ハルなら余裕でいけるだろ」
「自分の伴侶候補のためなら、俺だってできるわ」
「ああ、それは良い鍛錬になりそうですね」
ん?師匠だけすこしずれてないか?
「ありがとう。でも、まだ大丈夫!」
予想通りの返事に、俺は微笑みながらそうかと呟いた。足がふらついてるとか今にも倒れそうだとかなら、有無を言わさずに抱き上げるんだけどな。
「無理はしないようにね?」
腕輪の収納から取り出したアキトの好きな果実水をそっと手渡せば、律儀にお礼を言ってから受け取ってくれた。
何人かにはじっと腕輪を見つめられたが、ここにいる人達には別に知られても困らないからな。
ゴクゴクと喉をならして果実水を飲み干すと、アキトは目をキラキラさせながらおいしいと呟いた。果実水の味を感じて美味しいと思えるなら、まだ大丈夫だな。
「まああともうちょっとだよ」
「そうそう、頑張れ」
みんなに励まされながら、アキトは最後まで自力で階段を上りきった。
「アキトは見た目よりも根性あるな」
「ああ、途中で諦めて運んでもらう奴も多いんだぞ?」
「え、そうなんですか?」
アキトは驚いたように目を大きく見開いている。
「…運んでもらう奴っているのか?」
初耳だと近くにいた人にこっそりと小声で尋ねれば、苦笑しながら答えが帰ってきた。
「結構いるぞ」
「そうそう、普通の護衛とかなら荷物みたいに肩にかついで歩くんだ」
「貴族用は二人で持ち上げる椅子がある」
ここになと魔導収納鞄を叩いた手を、思わずじっと見つめてしまった。
「…なんでアキトには言わなかったんだ?」
「お前の伴侶候補を俺達が運ぶって言って――良かったのか?」
「あーうん、それは…嫌だな」
「あとはあれだ、アキトくんがやる気だったから言えなかったってのもある」
なるほど。やる気があるのに邪魔はできなかったって事か。
「そうか、アキトへの気づかいありがとう」
「ハル、お前変わったなぁ」
ぐしゃぐしゃと乱暴に髪をかき混ぜられた俺は、まあなと言いつつ苦笑を返した。
辺境領にいる間にまた会おうなーと明るく声をかけてくる衛兵たちに笑顔で手を振って、アキトと俺は建物を後にした。
一歩外にでればトライプールとは比べものにならないほど巨大で頑丈そうな城壁が、視界に飛び込んでくる。
「うわぁ…おっきな城壁…」
「ここまで大きいのは、この国でもここぐらいかな。初めて見ると圧倒されると評判だよ」
「うん、これはすごいね」
「アキト、ようこそ辺境領都ウェルマールへ」
にこっと笑ってそう声をかければ、アキトもにこにこと笑顔を返してくれた。
アキトの愛読書であるあの本の中でもこの街については色々と説明されている筈だが、本で読むのと実際に見るのとはまた違うだろう。
きちんと案内しようと密かに決意しながら、俺は口を開いた。
「辺境領の衛兵詰所は、大門が見える位置にあるんだ。これから街中を通って、領主城へと向かうよ」
「うん、分かった。ハル、案内お願い」
「まかせて」
すこしでもこの街を好きになって欲しいなと考えながら、俺は街へと足を向けた。
まさかウェルマールの街がこんな事になっているとは――想像もしていなかった。
辺境領は強い魔物も多いし、ダンジョンも近くにある。それにスタンピードも何度も起きている危険な場所だ。今までのスタンピードや魔物の襲撃では、残念ながら死者も多かった。
それにしてもこんなに幽霊が多いなんて思わないだろう。
曾祖父の代からこの深さだったと聞いた事があるし、俺も何度も上ったことがある慣れた道だ。
幼い頃から俺の周りにいるのは体力に自信がある人とか、戦うのが生きがいな人とかばかりだった。だから普通の人にとってこの長い階段がどれだけ大変かなんて、考えた事も無かったんだ。
「アキト、大丈夫?」
荒い息を吐きながらそれでも一段ずつ足を進めるアキトに、俺はそっと声をかけた。アキトはぱちりと俺と視線を合わせると、うっすらと笑みを浮かべてこくりと頷いた。
「ここの階段は長いからなぁ」
「何段あるんだろうな、ここの階段って」
「あー、毎回何段あるか数えようとは思うんだが、長すぎて途中で飽きるんだよな」
「気持ちは分かる」
「ここはアキトくんにはつらいだろう」
「大丈夫か?」
「無理はするなよ?」
「座ってのんびり休憩するって手もあるぞ」
口々にそう声をかけるのは、先導してくれている衛兵たちだ。心配そうに声をかけているが、アキトはぶんぶんと首を振った。
「まだ…行けます!」
うん、アキトはここでもう無理だとは言わないよな。周りが普通の顔をしてるから余計に、頑張ろうとしてるんだろう。
「アキト、アキトさえ良ければ抱き上げて歩くけど…どうかな?」
きっと断られるだろうなと思いつつもそう尋ねてみれば、アキトではなく周りがわっと一気に盛り上がった。
「おっ、それは良いな!」
「アキトくん、甘えたら良いぞ」
「ハルなら余裕でいけるだろ」
「自分の伴侶候補のためなら、俺だってできるわ」
「ああ、それは良い鍛錬になりそうですね」
ん?師匠だけすこしずれてないか?
「ありがとう。でも、まだ大丈夫!」
予想通りの返事に、俺は微笑みながらそうかと呟いた。足がふらついてるとか今にも倒れそうだとかなら、有無を言わさずに抱き上げるんだけどな。
「無理はしないようにね?」
腕輪の収納から取り出したアキトの好きな果実水をそっと手渡せば、律儀にお礼を言ってから受け取ってくれた。
何人かにはじっと腕輪を見つめられたが、ここにいる人達には別に知られても困らないからな。
ゴクゴクと喉をならして果実水を飲み干すと、アキトは目をキラキラさせながらおいしいと呟いた。果実水の味を感じて美味しいと思えるなら、まだ大丈夫だな。
「まああともうちょっとだよ」
「そうそう、頑張れ」
みんなに励まされながら、アキトは最後まで自力で階段を上りきった。
「アキトは見た目よりも根性あるな」
「ああ、途中で諦めて運んでもらう奴も多いんだぞ?」
「え、そうなんですか?」
アキトは驚いたように目を大きく見開いている。
「…運んでもらう奴っているのか?」
初耳だと近くにいた人にこっそりと小声で尋ねれば、苦笑しながら答えが帰ってきた。
「結構いるぞ」
「そうそう、普通の護衛とかなら荷物みたいに肩にかついで歩くんだ」
「貴族用は二人で持ち上げる椅子がある」
ここになと魔導収納鞄を叩いた手を、思わずじっと見つめてしまった。
「…なんでアキトには言わなかったんだ?」
「お前の伴侶候補を俺達が運ぶって言って――良かったのか?」
「あーうん、それは…嫌だな」
「あとはあれだ、アキトくんがやる気だったから言えなかったってのもある」
なるほど。やる気があるのに邪魔はできなかったって事か。
「そうか、アキトへの気づかいありがとう」
「ハル、お前変わったなぁ」
ぐしゃぐしゃと乱暴に髪をかき混ぜられた俺は、まあなと言いつつ苦笑を返した。
辺境領にいる間にまた会おうなーと明るく声をかけてくる衛兵たちに笑顔で手を振って、アキトと俺は建物を後にした。
一歩外にでればトライプールとは比べものにならないほど巨大で頑丈そうな城壁が、視界に飛び込んでくる。
「うわぁ…おっきな城壁…」
「ここまで大きいのは、この国でもここぐらいかな。初めて見ると圧倒されると評判だよ」
「うん、これはすごいね」
「アキト、ようこそ辺境領都ウェルマールへ」
にこっと笑ってそう声をかければ、アキトもにこにこと笑顔を返してくれた。
アキトの愛読書であるあの本の中でもこの街については色々と説明されている筈だが、本で読むのと実際に見るのとはまた違うだろう。
きちんと案内しようと密かに決意しながら、俺は口を開いた。
「辺境領の衛兵詰所は、大門が見える位置にあるんだ。これから街中を通って、領主城へと向かうよ」
「うん、分かった。ハル、案内お願い」
「まかせて」
すこしでもこの街を好きになって欲しいなと考えながら、俺は街へと足を向けた。
まさかウェルマールの街がこんな事になっているとは――想像もしていなかった。
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