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808.【ハル視点】案内と幽霊と
声をかけられなかったけれど、気落ちしていないだろうか。心配になってそっと視線を向けてみれば、ちょうどアキトもこちらを向いた所だった。
口を開こうとした所で、まっすぐ俺の目を見つめているアキトにふと気がついた。人目があるから話題には出さないでと、視線だけで注意された気分だ。
よし、ここはあえて明るく声をかけるか。
「アキト、行こうか」
「うん」
どうやら俺の反応は正解だったらしく、アキトは安心した様子ですぐに歩き出してくれた。
市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いている。階段でかなり体力を使っただろうアキトの様子をそっと伺ってみたけれど、キョロキョロと視線を行き来させながら楽し気に歩いている。
今は道に敷かれている大きな石をじっと観察中のようだ。時折くいっと手を引いて人にぶつからないように誘導しながら歩いていけば、遠くに冒険者ギルドの建物が見えてきた。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
周りの邪魔にならない場所で立ち止まって指を差せば、アキトはさっと目線を動かした。この街のギルドはちょっと変わっているから、どんな反応をしてくれるかが楽しみだ。ワクワクしながら見つめていれば、アキトはぼそりと呟いた。
「いかつい…」
思わずこぼれた素の感想がいかついだったのか。俺は思わずふふと声を出して笑ってしまった。
「トライプールと比べたらね」
トライプールの冒険者ギルドはかなり街に溶け込んでいるからなと笑って頷けば、アキトはへへと照れくさそうに笑ってみせた。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に戦う拠点にするための建物なんだと説明すれば、アキトはなるほどと納得してくれた。すごいなと呟いたアキトはもう一度冒険者ギルドへと視線を向けたけれど、ぎこちなくその動きが止まった。
あー、うん。あれはさすがにアキトでも無視はできないよな。
俺はギルドの建物を見る振りをしながら、道の真ん中に佇んでいる妙に存在感のある幽霊をちらりと見つめた。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
ここまで騒々しい幽霊は、俺も初めてみたな。そう言いたくなるぐらい全力で叫んでいるのは、装備からして元冒険者らしき筋肉質な男の幽霊だった。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
予想外の行動に思わずじっと見つめてしまっていたが、男は俺の視線には微塵も気づかなかった。そのまま全力で叫びながらぐんぐんと走り去っていく。声がどんどん遠ざかっていくのがなんとも奇妙だ。
それにしても周りの幽霊にもこの叫び声は聞こえているだろうに、誰一人として反応しないんだな。いつもあれぐらい叫んでいる幽霊なんだろうか。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
えらく存在感のある幽霊を気にしながらも、俺はなんとか案内を続けようと口を開いた。
「う、うん」
さすがにアキトも戸惑っているみたいだ。うん、俺だけが戸惑っているわけじゃなくて良かった。
二人で手を繋いで更に通りを歩いていくと、今度は商業組合の建物が見えてきた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言って指差せば、アキトは視線をあげてから驚いた様子で俺を振り返った。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
ここもギルドと同じくらいいかつい建物ではあるが、両脇には模様の入った大きな布がかけられている。
「これは辺境領の名産の布なんだ。あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物だよ」
強度も強いし、何より肌ざわりが良いと人気の織物だ。建物の中にはその織物を使った布や服、布製品などがたくさん売られていると教えれば、アキトは分かりやすく目を輝かせた。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品の店に果物の店、それに市場と布製品の商業組合。アキトと行きたい所がどんどん増えていくのが嬉しい。
すこしでも辺境領を気に入って欲しいからな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、アキトはちらりと視線だけを動かした。俺も一緒になって視線だけを動かして様子を伺う。
ああ、予想通りだが、やっぱりまた幽霊か。
ぽつりとそう呟いた女性の幽霊は、愁いを帯びた表情を浮かべて視線を伏せた。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
隣に寄り添うように佇んでいた男性の幽霊は、落ち着いた態度で女性を慰めている。聞いているだけでも悲しくなるような、深い悲しみに満ちた声だった。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早に商業組合の建物を後にした。
そこを離れてからも、それはもう色んな幽霊に遭遇した。
姉さんと呼ばれている女性に率いられた数人の男の霊や、商人らしき頭の良さそうな幽霊の集団、それに無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊もいたな。
さすがにこれだけの幽霊を見ていると、少しは対応にも慣れてくるな。今では飛び出してきた幽霊の姿を見ても一切反応をせずに、案内を続けられるようになってきた。
大通りを上りきれば、ついに目的地である領主城へと繋がる森の入口へと辿り着いた。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
俺はアキトを振り返って笑顔でそう声をかけた。
口を開こうとした所で、まっすぐ俺の目を見つめているアキトにふと気がついた。人目があるから話題には出さないでと、視線だけで注意された気分だ。
よし、ここはあえて明るく声をかけるか。
「アキト、行こうか」
「うん」
どうやら俺の反応は正解だったらしく、アキトは安心した様子ですぐに歩き出してくれた。
市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いている。階段でかなり体力を使っただろうアキトの様子をそっと伺ってみたけれど、キョロキョロと視線を行き来させながら楽し気に歩いている。
今は道に敷かれている大きな石をじっと観察中のようだ。時折くいっと手を引いて人にぶつからないように誘導しながら歩いていけば、遠くに冒険者ギルドの建物が見えてきた。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
周りの邪魔にならない場所で立ち止まって指を差せば、アキトはさっと目線を動かした。この街のギルドはちょっと変わっているから、どんな反応をしてくれるかが楽しみだ。ワクワクしながら見つめていれば、アキトはぼそりと呟いた。
「いかつい…」
思わずこぼれた素の感想がいかついだったのか。俺は思わずふふと声を出して笑ってしまった。
「トライプールと比べたらね」
トライプールの冒険者ギルドはかなり街に溶け込んでいるからなと笑って頷けば、アキトはへへと照れくさそうに笑ってみせた。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に戦う拠点にするための建物なんだと説明すれば、アキトはなるほどと納得してくれた。すごいなと呟いたアキトはもう一度冒険者ギルドへと視線を向けたけれど、ぎこちなくその動きが止まった。
あー、うん。あれはさすがにアキトでも無視はできないよな。
俺はギルドの建物を見る振りをしながら、道の真ん中に佇んでいる妙に存在感のある幽霊をちらりと見つめた。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
ここまで騒々しい幽霊は、俺も初めてみたな。そう言いたくなるぐらい全力で叫んでいるのは、装備からして元冒険者らしき筋肉質な男の幽霊だった。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
予想外の行動に思わずじっと見つめてしまっていたが、男は俺の視線には微塵も気づかなかった。そのまま全力で叫びながらぐんぐんと走り去っていく。声がどんどん遠ざかっていくのがなんとも奇妙だ。
それにしても周りの幽霊にもこの叫び声は聞こえているだろうに、誰一人として反応しないんだな。いつもあれぐらい叫んでいる幽霊なんだろうか。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
えらく存在感のある幽霊を気にしながらも、俺はなんとか案内を続けようと口を開いた。
「う、うん」
さすがにアキトも戸惑っているみたいだ。うん、俺だけが戸惑っているわけじゃなくて良かった。
二人で手を繋いで更に通りを歩いていくと、今度は商業組合の建物が見えてきた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言って指差せば、アキトは視線をあげてから驚いた様子で俺を振り返った。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
ここもギルドと同じくらいいかつい建物ではあるが、両脇には模様の入った大きな布がかけられている。
「これは辺境領の名産の布なんだ。あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物だよ」
強度も強いし、何より肌ざわりが良いと人気の織物だ。建物の中にはその織物を使った布や服、布製品などがたくさん売られていると教えれば、アキトは分かりやすく目を輝かせた。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品の店に果物の店、それに市場と布製品の商業組合。アキトと行きたい所がどんどん増えていくのが嬉しい。
すこしでも辺境領を気に入って欲しいからな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、アキトはちらりと視線だけを動かした。俺も一緒になって視線だけを動かして様子を伺う。
ああ、予想通りだが、やっぱりまた幽霊か。
ぽつりとそう呟いた女性の幽霊は、愁いを帯びた表情を浮かべて視線を伏せた。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
隣に寄り添うように佇んでいた男性の幽霊は、落ち着いた態度で女性を慰めている。聞いているだけでも悲しくなるような、深い悲しみに満ちた声だった。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早に商業組合の建物を後にした。
そこを離れてからも、それはもう色んな幽霊に遭遇した。
姉さんと呼ばれている女性に率いられた数人の男の霊や、商人らしき頭の良さそうな幽霊の集団、それに無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊もいたな。
さすがにこれだけの幽霊を見ていると、少しは対応にも慣れてくるな。今では飛び出してきた幽霊の姿を見ても一切反応をせずに、案内を続けられるようになってきた。
大通りを上りきれば、ついに目的地である領主城へと繋がる森の入口へと辿り着いた。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
俺はアキトを振り返って笑顔でそう声をかけた。
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