生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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817.感謝の言葉

「いやぁ、こんなハルの姿を見れる日が来るとは、思ってもみなかったなー」

 そう口にしたグレースさんは、ニコニコと楽し気に笑っている。グレースさんの隣に並んでいたケイリーさんも、温かい目でハルを見つめながらこくりと頷いた。

「本当にな。喜ばしい事だ」
「確かに――それにしても、ウィリアムの話は誇張表現じゃなかったんだな?」

 ファーガスさんがぼそりとそんな事を呟いた途端、ウィリアムさんは大きく身体を揺らした。

「えぇーファグ兄ってば、俺の話を全然信じてくれてなかったの?あんなに色々話したのに?」

 本当に悲しそうに聞こえる声色で嘆きだしたウィリアムさんは、今はしょんぼりと肩を落としている。まあ俺の所からだと、口元が笑ってるのが見えてるんだけどね。

「俺、傷付いたよ…」

 迫真の演技を続けるウィリアムさんに、ファーガスさんは特に謝るでも無く苦笑しているだけだ。ちらっと視線を向けてみれば、ハルも無言のまま呆れ顔で見守っている。グレースさんとケイリーさんなんて、一瞬視線を向けただけで普通に会話を続けている。

 なるほど。ウィリアムさんがこういうオーバーリアクションをするのは、きっといつもの事なんだろうな。

 あれ、でもじゃあこれ何のためにしてるの?そう思った瞬間、キースくんが動いた。

「ウィル兄さん、元気だして!僕はちゃんと信じてたからね!」

 肩を落としているウィリアムさんに、キースくんは大慌てで声をかけ続けている。必死で慰めようとする姿が可愛らしい。

「キース、それ本当?」
「うん、本当だよ、ウィル兄!」

 ハル兄とアキトさんの事いっぱいお話してくれて嬉しかったよと、キースくんは笑顔で答えた。

 うん、キースーくんは見ためだけじゃなくて、中身も天使かもしれないね。こんな反応をしてくれる弟がいたら、オーバーリアクションだって取りたくなると思う。

「キース、ありがとう!元気でたよ!」

 笑顔を浮かべたウィリアムさんに頭を撫でられて、キースくんは嬉しそうに目を細めた。



「あ、そうだ、アキトくん。ひとつだけ話しておきたい事があるんだが、ちょっと良いかな?」
「はい、なんでしょうか?」

 ケイリーさんの急な呼びかけに、俺はすこしだけ首を傾げながらも答えた。

「ここにいるみんなは、全員が目が覚めたハルから届いた手紙を読んだんだ」
「はい」

 そりゃあ久しぶりに目覚めた家族からの手紙だから、全員が読むに決まってるよね。

「つまり、今ここにいる5人は、君の体質の事についても知っている事になる」

 たしかハルは、家族にも俺が異世界人である事は言ってないんだよね。幽霊が見える体質については説明させて欲しいって言われて、もちろん良いよって答えたのは覚えてる。

「それを踏まえて聞いて欲しいんだが…」
「…はい」

 一体何を言われるのかは、全く分からない。でも、さっきまでのあの歓迎っぷりを味わった後だから、不思議と怖いとは思わなかった。真剣な表情をしたケイリーさんの目を、俺はまっすぐ見つめ返す。

「俺達の悲願であるリスリーロの花を見つけてくれた事、そして俺達のところへと送り届けてくれた事に、心からの感謝を贈りたい」

 ケイリーさんはそう言うとさっと頭を下げた。

「ありがとう、アキトくん」

 えっと思う間も無く、グレースさんが、ファーガスさんが、ウィリアムさんさんが、そしてキースくんがそれぞれありがとうと口にしながら頭を下げる。

 どういう事と思わず視線を向ければ、ハルはニコッと笑みを浮かべた。

 あーなるほど。リスリーロの話になるってハルは予想できてたんだな。

「あの、顔をあげてください。私の体質を知っているなら分かってもらえると思うんですが、あれはハルが見つけたもので――」

 だから俺はそんな風に言われるほどの事はしてないですと主張しようとしたけれど、最後まで言い終える前にハルに止められてしまった。

「いいや、あれはあの時の俺には届ける事ができなかったものだからね?もしアキトがいなかったら、俺はきっとまだあのリスリーロの前で立ち尽くしていたよ」

 あのすこし不気味で危険な森の中で一人きり立ち尽くすハルを想像してしまって、ぞっとした。俺はハルを助けるためにこの世界に来たのかもしれない。そんな考えが、ふと頭を過った。

「そうだよ、アキトくん。あの時のハルに気づく事ができたのは君だけだった。だから心からの感謝を言わせて欲しかったんだ」

 受け入れて欲しいと言われれば、俺の答えは決まっている。

「…えっと、どういたしまして」

 すぐさまお礼の言葉を受け入れた俺に、顔をあげた皆は揃って笑顔を見せてくれた。
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