生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
828 / 1,561

827.抱擁

 優しく声をかけて抱きしめてくれたハルの機転のおかげで、ハルのご家族の前でみっともなく泣き顔を晒す事は何とか避ける事ができた。

 さすがに初対面の場なのにここで泣くのは、ちょっとね。成人男性としてはかなり恥ずかしい事だし、きっと周りの人達も戸惑うと思うんだ。

 あー本当に泣き出さずに済んで良かったな、こういう所がさすがハルだよね。しみじみとそんな事を噛み締めながら、まだ俺はすっぽりとハルの腕の中におさまっていた。

 いやだってさ、ハルの腕の中ってすごく安心するし、何よりすごく落ち着くんだよね。一回入ってしまったら、自分からもう良いから離してなんてなかなか言えないんだ。良い香りもする、それはもう魔性の腕の中なんだよ。

 ここから抜け出さないと駄目だとは分かってるけど、もう少しだけここにいたい。

 そんな気持ちでのんびりしてしまっていた間に、どうやら俺とハルの抱擁はみんなに気づかれてしまったらしい。

「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」

 揶揄うような明るい声でそう言っているのは、まず間違いなくウィリアムさんだよね。

「あ、本当だ!」
「なんだ、どうかしたのか?」

 笑い混じりのグレースさんの声に続いて、心配そうなケイリーさんの声も聞こえてきた。

 ここで『俺が泣きそうだったので』とは言わないだろうなと思いながら聞いてたんだけど、ハルの返事は予想外のものだった。

「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」

 あのー、ハル?本当にそんな理由で良いの?というかそれは理由になるのかな?

「そうか、足りなくなったんだな」

 ファーガスさんが真剣な声でそう答えているのが聞こえてくる。あー、そっか。それはこの家族の間では、普通に理由として成立するんだね。本当に伴侶に甘い人達なんだ。

「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」

 愛しい人との抱擁は大事な時間だからと、ファーガスさんはあまりにもさらりと続けた。そこをさらりと言えるの、格好良いな。落ち着いた大人感を感じてしまう。

「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」

 あ、キースくんの可愛い感想が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきた。きっとこれは羨ましそうなさっきの発言を聞いたご兄弟がご両親が、キースくんを抱きしめたんだろうな。

 恥ずかしくてここから出にくいような状況ではあるけど、その光景はちょっとだけ見たい。

 そんな事を考えていると、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。人が来たと大慌てでハルの腕の中から飛び出せば、キースくんがご両親に左右から抱きしめられているのが見えた。

 照れくさそうにしつつも嬉しそうなキースくんが、すごく可愛い。

「どうぞ」

 幸せそうなキースくんを抱きしめたまま、ケイリーさんは普通にそう答えた。

 部屋に入ってきたのは、俺達をここまで案内してくれた執事さんだった。

 この家族には普段からよくある事なのか、キースくんに抱き着いているお二人を見ても、執事さんは眉一つ動かさなかった。

「皆様のご用意ができました」
「そうか」

 ケイリーさんはうむとひとつ頷いて答えた。

「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」

 わざわざ俺に確認をとってくれる律儀なケイリーさんに、俺は笑顔で答えた。

「もちろんです」
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」

 すっと見惚れるほどに優雅な礼をみせた執事さんは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。

「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」

 思わず閉まったドアを見つめていた俺に、にっこりと笑ったハルがすかさずそう教えてくれた。誰が来るんだろう?と心配していると思われたんだろうか。

 執事さんのドアの閉め方って音が何もしないのがすごいよなーって、ただ観察してただけだとはさすがに言えない。

「うん、ありがとう」

「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」

 ファーガスさんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。あまりにも申し訳なさそうな顔をするファーガスさんに、俺はぶんぶんと慌てて首を振った。

「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」

 ファーガスさんがあれだけ大事にしている伴侶さんは、どんな人なのか興味が湧いてきた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。