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829.マチルダさんという女性
あまりにも存在感を放つその女性に圧倒されてしまって、俺はその場から動く事すらできなかった。隣にいるハルが、心配そうにこちらを見ているような気配だけは感じたよ。
「あー、そうだ、マティ!」
不意にそんな声をあげて沈黙を破ったのは、グレースさんだった。
「さっき決まったんだけど、アキトの前では礼儀は気にしなくて良い事になったんだ!」
にこやかに笑いながら続けられたグレースさんの言葉に、マティと呼ばれた女性は大きく目を見開いた。そんな表情でも美しいんだからすごい人だななんて、的外れな事をつい頭の片隅で考えてしまった。
「だから、もうそれ以上演技は続けなくて良いからな!」
赤毛の女性は何度か瞬きを繰り返してから、部屋の中にいる皆に順番に視線を向けていた。そうしてそれぞれが頷くのを確認した次の瞬間には、にっこりと笑いながらグレースさんに話しかけた。
「それは嬉しいが、本当に良いのか?」
「ああ、ハルの伴侶候補はそういう細かい事を気にするタイプじゃないみたいだからな」
なーと言いたげに笑みを見せてくれるグレースさんに、俺もぎこちなく笑みを返した。むしろそういう礼儀とかは無しにして貰えたら助かります。
なんと言ってもそこまでこの世界の常識に詳しくないからね。ハルとかレーブンさん、それにローガンさんから習った事だけしか知らないから。
「そうなのか?」
「ああ、それに、私の変わりっぷりを見ても動じないような子なんだぞーアキトは!」
何故か自慢げにそう説明してくれているグレースさんに、女性もふふと声をあげて笑っっている。そうやって笑うと硬い印象がなくなって、なんだか優し気になるんだな。
「グレースが彼の事を随分気に入ったって事は分かったよ」
「ああ、すっごく気に入ったぞ!」
ぽんぽんと会話を続ける二人は、身長も同じぐらいのせいかなんだか仲の良い姉妹のように見えてくる。
そう、この女性も俺よりも身長が大きいんだよね。まあ、この世界では俺よりも背の高い成人女性の方が多いからね。そろそろ慣れてきた気がするよ。
「では、私も彼に挨拶をさせて貰おうかな」
ぽつりと呟いてからこちらを向いたその女性と、パチリと視線が合った。
今は自然な笑顔を浮かべているからか、それともグレースさんいわくの演技をしていないからか。どちらが正しいのかは分からないけど、登場した時ほどの強烈さは、今は感じない。
――うん、これなら俺もなんとか普通に挨拶が出来そうだ。
「アキト、大丈夫そう?」
まだ距離がある女性の方を気にしながらも、ハルは俺の顔を覗き込みながら囁くようにして尋ねてきた。
「うん、大丈夫」
心配してくれてありがとうの意味をこめてハルを見上げて微笑めば、優しい笑みが返ってくる。そっと伸びてきた手の温もりに、さらに緊張が解けていく気がする。
「マティ、お手をどうぞ」
ドアの方から聞こえてきたファーガスさんのそんな声に、俺は慌てて視線をあげた。
えっと驚きながら見つめる先には、エスコートのためにだろう腕を差し出して立っているファーガスさんの姿があった。
えっと…ファーガスさん、いつの間にあんな所まで移動したんだろう…?ついさっきまでハルを威圧してたんだから、あっちの暖炉の前に立ってた筈…だよね。
一体どうやれば一瞬であそこまで移動できるんだ?
あれ、もしかしてファーガスさんって転移魔法が使える人なんだろうか?
思わず真剣にそんな事を考えてしまうぐらいには、驚くべき素早さだった。
「ありがとう、ファーグ」
エスコートのために差し出された腕に、伴侶の女性はすっと手を伸ばした。そのまま二人揃ってこちらへと歩き出すのを、俺とハルは姿勢を正して見守った。
「はじめまして、私の名前はマチルダ。皆にはマティと呼ばれている」
もう分かってるとは思うが、ファーガスの伴侶だとマチルダさんは笑顔で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、アキト ヒイラギです。よろしくお願いします」
「アキトくんと呼んでも?」
「もちろんです」
「私の事はマティでもマチルダでも好きに呼んでくれ」
「えっと、じゃあマチルダさんでお願いします」
喋ってみて分かったけど、グレースさんの言う演技をしていないマチルダさんは、思った以上に喋りやすい人みたいだ。
なんでだろう。こんなに美人な女性なのに、まるで冒険者仲間と喋ってるような気分になってくる。
「マティさん、お久しぶりです」
「やあ、ハル。素敵な伴侶候補だな」
私の演技を見ても素の姿を見ても本当に動じないんだもんなと、マチルダさんは楽し気にコロコロと笑っている。
「ええ、アキトはこう見えて冒険者ですからね」
「なんだ冒険者なのか?お仲間じゃないか!」
そう言い放ったマチルダさんは、今日一番の笑顔を見せてくれた。
「あー、そうだ、マティ!」
不意にそんな声をあげて沈黙を破ったのは、グレースさんだった。
「さっき決まったんだけど、アキトの前では礼儀は気にしなくて良い事になったんだ!」
にこやかに笑いながら続けられたグレースさんの言葉に、マティと呼ばれた女性は大きく目を見開いた。そんな表情でも美しいんだからすごい人だななんて、的外れな事をつい頭の片隅で考えてしまった。
「だから、もうそれ以上演技は続けなくて良いからな!」
赤毛の女性は何度か瞬きを繰り返してから、部屋の中にいる皆に順番に視線を向けていた。そうしてそれぞれが頷くのを確認した次の瞬間には、にっこりと笑いながらグレースさんに話しかけた。
「それは嬉しいが、本当に良いのか?」
「ああ、ハルの伴侶候補はそういう細かい事を気にするタイプじゃないみたいだからな」
なーと言いたげに笑みを見せてくれるグレースさんに、俺もぎこちなく笑みを返した。むしろそういう礼儀とかは無しにして貰えたら助かります。
なんと言ってもそこまでこの世界の常識に詳しくないからね。ハルとかレーブンさん、それにローガンさんから習った事だけしか知らないから。
「そうなのか?」
「ああ、それに、私の変わりっぷりを見ても動じないような子なんだぞーアキトは!」
何故か自慢げにそう説明してくれているグレースさんに、女性もふふと声をあげて笑っっている。そうやって笑うと硬い印象がなくなって、なんだか優し気になるんだな。
「グレースが彼の事を随分気に入ったって事は分かったよ」
「ああ、すっごく気に入ったぞ!」
ぽんぽんと会話を続ける二人は、身長も同じぐらいのせいかなんだか仲の良い姉妹のように見えてくる。
そう、この女性も俺よりも身長が大きいんだよね。まあ、この世界では俺よりも背の高い成人女性の方が多いからね。そろそろ慣れてきた気がするよ。
「では、私も彼に挨拶をさせて貰おうかな」
ぽつりと呟いてからこちらを向いたその女性と、パチリと視線が合った。
今は自然な笑顔を浮かべているからか、それともグレースさんいわくの演技をしていないからか。どちらが正しいのかは分からないけど、登場した時ほどの強烈さは、今は感じない。
――うん、これなら俺もなんとか普通に挨拶が出来そうだ。
「アキト、大丈夫そう?」
まだ距離がある女性の方を気にしながらも、ハルは俺の顔を覗き込みながら囁くようにして尋ねてきた。
「うん、大丈夫」
心配してくれてありがとうの意味をこめてハルを見上げて微笑めば、優しい笑みが返ってくる。そっと伸びてきた手の温もりに、さらに緊張が解けていく気がする。
「マティ、お手をどうぞ」
ドアの方から聞こえてきたファーガスさんのそんな声に、俺は慌てて視線をあげた。
えっと驚きながら見つめる先には、エスコートのためにだろう腕を差し出して立っているファーガスさんの姿があった。
えっと…ファーガスさん、いつの間にあんな所まで移動したんだろう…?ついさっきまでハルを威圧してたんだから、あっちの暖炉の前に立ってた筈…だよね。
一体どうやれば一瞬であそこまで移動できるんだ?
あれ、もしかしてファーガスさんって転移魔法が使える人なんだろうか?
思わず真剣にそんな事を考えてしまうぐらいには、驚くべき素早さだった。
「ありがとう、ファーグ」
エスコートのために差し出された腕に、伴侶の女性はすっと手を伸ばした。そのまま二人揃ってこちらへと歩き出すのを、俺とハルは姿勢を正して見守った。
「はじめまして、私の名前はマチルダ。皆にはマティと呼ばれている」
もう分かってるとは思うが、ファーガスの伴侶だとマチルダさんは笑顔で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、アキト ヒイラギです。よろしくお願いします」
「アキトくんと呼んでも?」
「もちろんです」
「私の事はマティでもマチルダでも好きに呼んでくれ」
「えっと、じゃあマチルダさんでお願いします」
喋ってみて分かったけど、グレースさんの言う演技をしていないマチルダさんは、思った以上に喋りやすい人みたいだ。
なんでだろう。こんなに美人な女性なのに、まるで冒険者仲間と喋ってるような気分になってくる。
「マティさん、お久しぶりです」
「やあ、ハル。素敵な伴侶候補だな」
私の演技を見ても素の姿を見ても本当に動じないんだもんなと、マチルダさんは楽し気にコロコロと笑っている。
「ええ、アキトはこう見えて冒険者ですからね」
「なんだ冒険者なのか?お仲間じゃないか!」
そう言い放ったマチルダさんは、今日一番の笑顔を見せてくれた。
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