生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
831 / 1,561

830.ファーガスさんとマチルダさん

「え、マチルダさんって…冒険者なんですか?」

 反射的にそう聞き返してしまったけれど、マチルダさんは嬉しそうに頷いてくれた。

「ああ、今も現役で冒険者をしてるよ。アキトくんは前衛かな?後衛かな?」

 まっすぐに目を見つめながらそう尋ねられた俺は、予想していなかった質問にすこしだけ驚いてしまった。

 今まで前衛かって聞かれた事って、一度も無いんだよね。

 たぶんだけど、俺の筋肉の少なさが関係してるんだと思う。前衛の人は一部の例外はあっても、基本的に体格が良い人が多いからね。

 まあそこははっきりさせてもショックを受けるだけだから、詳しく追及はしないようにしてるんだけどね。深く考えたら駄目なやつだ。

「あ、後衛の魔法使いをやってます」

 素直にそう答えれば、そうか魔法使いなのかと返ってきた。

「前衛のハルとの相性も良いな。ちなみに私は前衛の戦士なんだ。基本的には大剣を使ってる」

 さらりと大剣と言われて驚いたけど、大剣を持つマチルダさんを想像してみたらやけにしっくりと来た。

「アキト、こう見えてマチルダさんはかなり強いよ」
「え、ハルがわざわざ言うぐらい…?」

 思わずそう返した俺に、マチルダさんは楽し気に声をあげて笑った。

「ハルにそう言ってもらえるのは光栄だな。もし良ければまた手合わせしてくれると嬉しいよ」

 そう答えたマチルダさんには、特に気負った様子もない。普通に笑いながらそう声をかけられるぐらい、本当に強い人なんだな。

「もちろん。こちらからお願いしたいぐらいです」
「あ、ハル、マティと手合わせをする時は、私もいる時にしてくれよ?」

 俺達の交流をずっと黙って見守っていたファーガスさんが、不意にそう声をあげた。

「…なんだ…?もしかして、私の事を心配してるのか?」

 不服そうに眉間にしわを寄せて睨みつけたマチルダさんに、ファーガスさんは大慌てで首を振った。

「まさか、違うよ。マティの戦う所を、俺が見たいだけさ」

 うわぁ…ファーガスさんの声、今まで聞いた事がないぐらい甘いんだけど。マチルダさんを見つめる目もとろりと蕩けているのが、横で見ている俺にまで分かってしまった。

 本当にマチルダさんの事が大好きなんだな。

「そうか、それなら良いんだが…あ、そうだ、ファーグ!」

 そういえばさっきからちょっと気になってたんだけど、マチルダさんはファーガスさんの事をファーグって呼んでてるんだな。他の人からはファグ兄呼びだったけど、もしかして伴侶の特別な呼び方ってやつだろうか。

 ちょっとそういうのにも憧れはあるけど、ハルはハル以外に思いつかないんだよね。たまにはハロルドって呼んで欲しいって言われてたし、特別な呼び方は考えなくても良いんだろうか。

 それとも今度ハルに聞いてみようかな。

 そんな事を俺が考えている間に、ファーガスさんはにっこりと笑みを浮かべて答えた。

「なんだい、マティ?」
「さっき、初対面のアキトくんの前なのに、威圧しただろう?」

 ぎくりと一瞬だけ肩を揺らしたファーガスさんは、困り顔のまま不思議そうに尋ねた。

「…確かに威圧は、したが…なんで知ってるんだい、マティ?」

 対するマチルダさんは、艶やかに美しい笑みを浮かべた。

「ドアの外まで威圧が漏れてたからだよ。執事長も苦笑してたぞ」

 え、執事長さんって俺達を案内してくれたあの人だよね。あの威圧感を前にしても、苦笑するだけですませられるってすごいな。それぐらいでないと、辺境領では働けないんだろうか。

「部屋の外まで漏れていたのか…」
「そうだよ。ファーグの威圧感はすごい威力なんだからな?もしも怖がらせてしまったら、どう責任を取るつもりだったんだ?」

 幸いアキトくんは全く気にしていないみたいだが、もっと気をつけろとマチルダさんはファーガスさんに注意を促している。

「ああ、考えなしだった。すまない、マティ」
「謝る相手が違うだろう?」
「うん、そうだな…アキトくん、威圧してしまってすまなかった」
「い、いえ、俺に向けたものじゃなかったですし…」

 正直に言えばこの場から逃げたいと思うぐらいの威圧だったけど、こんなにしょんぼりしているファーガスさんを前にしてそんな事は言えない。

「ファーグ、弟には謝らないのか?」
「いやハルは気にもしていないんだから、必要ないだろう?」
「ああ、俺への謝罪の必要は無いが…マティさん、アキトの事を気づかってくれてありがとうございます」

 お礼の言葉を口にしたハルの隣で、俺もありがとうございますと声をかけた。

 よく考えたらあの恐ろしいほどの威圧を、すごいんだからで終わらせられるマチルダさんって、間違いなく強い人だよね。

 うん、強烈な人ってのは本当だった。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。