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835.【ハル視点】アキトの体質の話
素直で優しく礼儀正しいアキトは、俺の家族にも気に入られた。まあそうなるとは思っていたから、そこは予想通りではあるんだが。
アキトと話したいとみんながあれこれと話題を探しているせいで、いつまでたっても話が終わらない。しかもアキトは迷惑そうにするわけでもなく、あちこちに飛んでいく話題にもキラキラと目を輝かせている。
それならとまた話題を探すという悪循環だ。
恥ずかしそうにしながらもキースまで話しかけているのにはすこし驚いたが、嬉しそうにアキトと話す弟の姿はなんとも微笑ましかった。
そうして色々な話題が出たなかで、俺が密かにひやりとしたのはアキトの幽霊が見える体質についての話だった。
「なあ、アキトの幽霊が見えるっていうその体質は、生まれつきのものなのか?」
話のきっかけは、不意に母がそう尋ねた事だった。
あまりに不意打ちの質問に、俺はぎくりと身体を揺らした。気になるのは分かる。分かるけれど、正直に言えばそこはもっと気を使って欲しかった。
繊細なアキトがその体質を受け入れられていないのかもと考えたらどうするんだ。そう心配する俺の隣で、アキトはあっさりと答えた。
「はい、見えるのは生まれつきですね」
表情にも無理した所は無いし、俺の気にしすぎだったか。そう思って視線をあげれば、何故か俺とアキト以外の全員が沈鬱な表情を浮かべていた。
そんな表情になるような質問だったか?
あまりに急な表情の変化にアキトと二人で戸惑っていたら、みんなも慌てた様子ですぐに説明はしてくれたんだがな。
なんでも俺の送った手紙を読んでアキトの体質について知った後、ここにいる全員で一部屋に集まって話をする時間が設けられたそうだ。まあうちではよくある、いわゆる家族会議だな。
そこで最初に話題になったのが、アキトのその幽霊が見える体質が一体いつからのものなのかという事だったらしい。
もし後天的に身に着いたものなら、まずは急に見えるようになった事実を受け入れるのが大変だろうし、きっと視界に入る幽霊にも恐怖するだろう。
けれどこちらはまだ隠そうと思えば、隠し通せる可能性はある。
逆にもしその能力が生まれつきのものだとしたら、幼い頃から見える事を隠し通す事なんて絶対にできないだろう。何が見えて何が見えないのが普通なのかなんて、赤子に区別がつくわけがない。
その場合は、周りから恐れられたり敬遠されたりするかもしれない。
そんな想像をしてしまったらしい。
ああ、なるほど。その気持ちは分かる。それにそれを確認したくて話題に出したのなら、母を責める事はできないな。
「アキトくん…つらい思いをたくさんしてきたんじゃないか…?」
父は心配そうに顔をゆがめながら、アキトの目を見てそう尋ねる。
「うまれつきか――特に幼い頃は大変だっただろ」
そう呟いた母は、まるで実の母親のような温かい視線でアキトを見つめている。
「俺達はもう体質の事は知っているんだし、何も隠さなくて良いからな」
そう告げたファーガス兄さんは、どんな事でも相談してくれとうっすらと笑みを浮かべた。作った笑みじゃない、心からの笑顔だな。
「そうそう。俺達はその体質ごとアキトくんを受け入れるからさー何も気にせずハルの正式な伴侶になってね」
おどけるようにそんな言葉を告げたのは、ウィル兄さんだ。さらりと正式な伴侶にと口にしているが、そこは俺が改めて言うからやめてくれ。そんな気持ちで思わずじろりと見つめれば、ウィル兄はごめんと目くばせを返してきた。
「ぼくはアキトさん、すごいとおもいます」
やっぱりキラキラの目をしたキースは、アキトを見上げてそう呟いた。生まれつきの体質を受け入れているアキトへの尊敬の眼差しといった所だろうか。
「あ、えっと…まずは…心配してくれてありがとうございます」
アキトはお礼の言葉を口にしてから、そこですこしだけうつむいた。どうしたんだろうとそっと顔を覗き込もうとするよりも先に、アキトは顔をあげた。心なしか潤んだ目で、ゆっくりとみんなを見つめてから口を開く。
もしかして…泣きそうなのか?
「生まれつきですけど、父も同じ体質だったし、母は見えないけれど…その、理解はしてくれている人でしたから…」
ああ、そうか。これは悲しい涙じゃないのか。体質を受け入れて本気で心配してくれるのが、嬉しくて泣きそうなんだな。
そう理解した俺は、あえて何も言わずにみんなの反応を待った。
俺とアキトが見つめる先、言葉を理解した瞬間みんなはわっと一気に盛り上がった。
「そうか、それは良かった!体質を理解してくれる人が身近にいたのか!」
「うーん、遺伝だったのかー。その可能性は全然考えなかったな!」
まだまだ想像が足りなかったかと、父さんと母さんは顔を見合わせてからホッと安堵の息を吐いた。
「ご両親が受け入れてくれているというのは、やはり大きいな」
「あー確かにこどもにとってそれは大きいよね」
「アキトさんがつらくなくてよかったー」
仲の良い俺の兄弟たちは、本当に嬉しそうにニコニコと笑い合っている。
ちらりと視線を向ければ、アキトの目の際にキラリと光るものが見えた。
別にここでアキトが泣いてしまったとしても、俺の家族はきっと気にしない。むしろ今以上に可愛がられるような気がするぐらいだが、アキトはきっと気にするだろう。
くいっと優しくアキトの肩を引く。ぽすりとされるがままにもたれかかってくる身体をふわりと受け止めて、俺はそっとアキトの瞳を覗き込んだ。
「アキト…大丈夫?」
尋ねた瞬間、アキトはぐいっと涙の滲んだ目を拭った。身長のせいでよく見えなかっただろうキース以外の全員が、アキトの仕草を見てぎくりと身体を強張らせたのが分かった。泣かせてしまったのかと思っているんだろうな。
だがアキトは強がるようにまっすぐに俺の目を見つめ返してから、そっと口を開いた。
「うん、大丈夫。悲しいわけじゃないからね」
むしろ嬉しいと小さな声で続けるのは、きっとみんなにも聞こえていたんだろう。キース以外の全員がホッと息を吐いたのが分かった。
アキトと話したいとみんながあれこれと話題を探しているせいで、いつまでたっても話が終わらない。しかもアキトは迷惑そうにするわけでもなく、あちこちに飛んでいく話題にもキラキラと目を輝かせている。
それならとまた話題を探すという悪循環だ。
恥ずかしそうにしながらもキースまで話しかけているのにはすこし驚いたが、嬉しそうにアキトと話す弟の姿はなんとも微笑ましかった。
そうして色々な話題が出たなかで、俺が密かにひやりとしたのはアキトの幽霊が見える体質についての話だった。
「なあ、アキトの幽霊が見えるっていうその体質は、生まれつきのものなのか?」
話のきっかけは、不意に母がそう尋ねた事だった。
あまりに不意打ちの質問に、俺はぎくりと身体を揺らした。気になるのは分かる。分かるけれど、正直に言えばそこはもっと気を使って欲しかった。
繊細なアキトがその体質を受け入れられていないのかもと考えたらどうするんだ。そう心配する俺の隣で、アキトはあっさりと答えた。
「はい、見えるのは生まれつきですね」
表情にも無理した所は無いし、俺の気にしすぎだったか。そう思って視線をあげれば、何故か俺とアキト以外の全員が沈鬱な表情を浮かべていた。
そんな表情になるような質問だったか?
あまりに急な表情の変化にアキトと二人で戸惑っていたら、みんなも慌てた様子ですぐに説明はしてくれたんだがな。
なんでも俺の送った手紙を読んでアキトの体質について知った後、ここにいる全員で一部屋に集まって話をする時間が設けられたそうだ。まあうちではよくある、いわゆる家族会議だな。
そこで最初に話題になったのが、アキトのその幽霊が見える体質が一体いつからのものなのかという事だったらしい。
もし後天的に身に着いたものなら、まずは急に見えるようになった事実を受け入れるのが大変だろうし、きっと視界に入る幽霊にも恐怖するだろう。
けれどこちらはまだ隠そうと思えば、隠し通せる可能性はある。
逆にもしその能力が生まれつきのものだとしたら、幼い頃から見える事を隠し通す事なんて絶対にできないだろう。何が見えて何が見えないのが普通なのかなんて、赤子に区別がつくわけがない。
その場合は、周りから恐れられたり敬遠されたりするかもしれない。
そんな想像をしてしまったらしい。
ああ、なるほど。その気持ちは分かる。それにそれを確認したくて話題に出したのなら、母を責める事はできないな。
「アキトくん…つらい思いをたくさんしてきたんじゃないか…?」
父は心配そうに顔をゆがめながら、アキトの目を見てそう尋ねる。
「うまれつきか――特に幼い頃は大変だっただろ」
そう呟いた母は、まるで実の母親のような温かい視線でアキトを見つめている。
「俺達はもう体質の事は知っているんだし、何も隠さなくて良いからな」
そう告げたファーガス兄さんは、どんな事でも相談してくれとうっすらと笑みを浮かべた。作った笑みじゃない、心からの笑顔だな。
「そうそう。俺達はその体質ごとアキトくんを受け入れるからさー何も気にせずハルの正式な伴侶になってね」
おどけるようにそんな言葉を告げたのは、ウィル兄さんだ。さらりと正式な伴侶にと口にしているが、そこは俺が改めて言うからやめてくれ。そんな気持ちで思わずじろりと見つめれば、ウィル兄はごめんと目くばせを返してきた。
「ぼくはアキトさん、すごいとおもいます」
やっぱりキラキラの目をしたキースは、アキトを見上げてそう呟いた。生まれつきの体質を受け入れているアキトへの尊敬の眼差しといった所だろうか。
「あ、えっと…まずは…心配してくれてありがとうございます」
アキトはお礼の言葉を口にしてから、そこですこしだけうつむいた。どうしたんだろうとそっと顔を覗き込もうとするよりも先に、アキトは顔をあげた。心なしか潤んだ目で、ゆっくりとみんなを見つめてから口を開く。
もしかして…泣きそうなのか?
「生まれつきですけど、父も同じ体質だったし、母は見えないけれど…その、理解はしてくれている人でしたから…」
ああ、そうか。これは悲しい涙じゃないのか。体質を受け入れて本気で心配してくれるのが、嬉しくて泣きそうなんだな。
そう理解した俺は、あえて何も言わずにみんなの反応を待った。
俺とアキトが見つめる先、言葉を理解した瞬間みんなはわっと一気に盛り上がった。
「そうか、それは良かった!体質を理解してくれる人が身近にいたのか!」
「うーん、遺伝だったのかー。その可能性は全然考えなかったな!」
まだまだ想像が足りなかったかと、父さんと母さんは顔を見合わせてからホッと安堵の息を吐いた。
「ご両親が受け入れてくれているというのは、やはり大きいな」
「あー確かにこどもにとってそれは大きいよね」
「アキトさんがつらくなくてよかったー」
仲の良い俺の兄弟たちは、本当に嬉しそうにニコニコと笑い合っている。
ちらりと視線を向ければ、アキトの目の際にキラリと光るものが見えた。
別にここでアキトが泣いてしまったとしても、俺の家族はきっと気にしない。むしろ今以上に可愛がられるような気がするぐらいだが、アキトはきっと気にするだろう。
くいっと優しくアキトの肩を引く。ぽすりとされるがままにもたれかかってくる身体をふわりと受け止めて、俺はそっとアキトの瞳を覗き込んだ。
「アキト…大丈夫?」
尋ねた瞬間、アキトはぐいっと涙の滲んだ目を拭った。身長のせいでよく見えなかっただろうキース以外の全員が、アキトの仕草を見てぎくりと身体を強張らせたのが分かった。泣かせてしまったのかと思っているんだろうな。
だがアキトは強がるようにまっすぐに俺の目を見つめ返してから、そっと口を開いた。
「うん、大丈夫。悲しいわけじゃないからね」
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