837 / 1,561
836.【ハル視点】抱擁と愛おしさ
愛おしい気持ちが抑えられなくなった俺は、家族の前だからとかそう言う事を考える余裕までなくなってしまった。
感情の赴くままにアキトの身体を腕の中に捕らえてきゅっと抱きしめれば、アキトは嫌がるでもなく縋るように胸元に抱き着いてくる。
あーアキトは本当に可愛いな。
もしかしたら、泣き顔を見せないために抱きしめてくれたとでも思っているのかもしれないな。
もちろんアキトの泣き顔を俺以外に見せたくないという気持ちもあるんだが、それ以上にただ抱きしめたくなっただけだとは言わないでおこう。
普段のアキトなら、冷静になればすぐに恥ずかしいと腕の中から抜け出していく。それなのに今日は、まだ俺の腕の中に大人しくおさまってくれている。
安心しきった様子で俺を見上げてくれる。ただそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
離れがたい気持ちで抱き合い続けていれば、いつまでたってもアキトを解放しない俺に呆れたのかウィル兄が揶揄うように口を開いた。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
泣きそうになっていたアキトにも気づいていたんだから、もっと前から抱擁に気づいていただろうに、さも今気づいたような言い方だ。
アキトのために気を使ってくれてるんだから、もちろん俺も文句は言わないが。
「あ、本当だ!」
母は笑い混じりの声でそう叫び、心配そうな父の声が続く。
「なんだ、どうかしたのか?」
もしかして本格的に泣いてしまったか?と聞きたそうだが聞けずにいる父を、俺はちらりと見つめてから口を開いた。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
こう言えば、アキトが本格的に泣いてしまったわけじゃないと伝わるだろう。
「そうか、足りなくなったんだな」
俺の意図に気づいただろうファーガス兄さんは、真面目ぶった真剣な声でそう答えた。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからなと、ファーガス兄さんはさらりと続ける。
アキトは格好良いと言いたげなキラキラした目をして兄の方をちらりと見ていたが、おそらくあれは、自分がマティさんとの抱擁の邪魔をされたくないだけだぞ。
まあそれはアキトには言わなくて良いか。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
まだしつこくアキトを抱きしめたままでいる俺の耳に、キースがぽつりとこぼしたそんな言葉が聞こえてきた。キースらしいというか、なんとも微笑ましくて可愛らしい感想だな。
次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきたから、兄弟達が両親がキースを抱きしめたんだろう。
アキトが身じろぎだしたから、そろそろ抱擁を解かないと駄目かな。そんな事を考えていれば、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。
人が来たと大慌てで俺の腕の中から飛び出すアキトを、俺はそっと解放した。
どうやら今回キースを抱きしめているのは、両親の方だったらしい。
「どうぞ」
幸せそうにニコニコと笑うキースを抱きしめたまま、父さんは何でもないようにそう答えた。まあ見られて困る用な使用人はいないからな。
声に応じて部屋へと入ってきたのは、俺の予想通り執事長のボルテだった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
父さんはうむとひとつ頷いてから答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
「もちろんです」
即答したアキトは、もう涙の気配はなくニコニコと微笑んでいる。
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
昔から少しも変わらない優雅な礼をしたボルテは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。アキトだけがそのドアをじっと見つめているのに気づいた俺は、そっと控え目に声をかける。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
まあアキトの事だから誰が来ても動じないだろうとは思うけれど、心配ぐらいはさせて欲しい。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガス兄さんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。長男も次男もどちらもまだ学生だから、あまりに急に決まった俺とアキトの来訪に対応しきれなかったんだろう。
明らかに申し訳なさそうな顔をして説明をするファーガス兄さんに、アキトはぶんぶんと慌てた様子で首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
マティさんに会うのは、かなり久しぶりだな。
感情の赴くままにアキトの身体を腕の中に捕らえてきゅっと抱きしめれば、アキトは嫌がるでもなく縋るように胸元に抱き着いてくる。
あーアキトは本当に可愛いな。
もしかしたら、泣き顔を見せないために抱きしめてくれたとでも思っているのかもしれないな。
もちろんアキトの泣き顔を俺以外に見せたくないという気持ちもあるんだが、それ以上にただ抱きしめたくなっただけだとは言わないでおこう。
普段のアキトなら、冷静になればすぐに恥ずかしいと腕の中から抜け出していく。それなのに今日は、まだ俺の腕の中に大人しくおさまってくれている。
安心しきった様子で俺を見上げてくれる。ただそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
離れがたい気持ちで抱き合い続けていれば、いつまでたってもアキトを解放しない俺に呆れたのかウィル兄が揶揄うように口を開いた。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
泣きそうになっていたアキトにも気づいていたんだから、もっと前から抱擁に気づいていただろうに、さも今気づいたような言い方だ。
アキトのために気を使ってくれてるんだから、もちろん俺も文句は言わないが。
「あ、本当だ!」
母は笑い混じりの声でそう叫び、心配そうな父の声が続く。
「なんだ、どうかしたのか?」
もしかして本格的に泣いてしまったか?と聞きたそうだが聞けずにいる父を、俺はちらりと見つめてから口を開いた。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
こう言えば、アキトが本格的に泣いてしまったわけじゃないと伝わるだろう。
「そうか、足りなくなったんだな」
俺の意図に気づいただろうファーガス兄さんは、真面目ぶった真剣な声でそう答えた。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからなと、ファーガス兄さんはさらりと続ける。
アキトは格好良いと言いたげなキラキラした目をして兄の方をちらりと見ていたが、おそらくあれは、自分がマティさんとの抱擁の邪魔をされたくないだけだぞ。
まあそれはアキトには言わなくて良いか。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
まだしつこくアキトを抱きしめたままでいる俺の耳に、キースがぽつりとこぼしたそんな言葉が聞こえてきた。キースらしいというか、なんとも微笑ましくて可愛らしい感想だな。
次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきたから、兄弟達が両親がキースを抱きしめたんだろう。
アキトが身じろぎだしたから、そろそろ抱擁を解かないと駄目かな。そんな事を考えていれば、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。
人が来たと大慌てで俺の腕の中から飛び出すアキトを、俺はそっと解放した。
どうやら今回キースを抱きしめているのは、両親の方だったらしい。
「どうぞ」
幸せそうにニコニコと笑うキースを抱きしめたまま、父さんは何でもないようにそう答えた。まあ見られて困る用な使用人はいないからな。
声に応じて部屋へと入ってきたのは、俺の予想通り執事長のボルテだった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
父さんはうむとひとつ頷いてから答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
「もちろんです」
即答したアキトは、もう涙の気配はなくニコニコと微笑んでいる。
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
昔から少しも変わらない優雅な礼をしたボルテは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。アキトだけがそのドアをじっと見つめているのに気づいた俺は、そっと控え目に声をかける。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
まあアキトの事だから誰が来ても動じないだろうとは思うけれど、心配ぐらいはさせて欲しい。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガス兄さんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。長男も次男もどちらもまだ学生だから、あまりに急に決まった俺とアキトの来訪に対応しきれなかったんだろう。
明らかに申し訳なさそうな顔をして説明をするファーガス兄さんに、アキトはぶんぶんと慌てた様子で首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
マティさんに会うのは、かなり久しぶりだな。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。