生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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851.多い理由

 しばらく抱きしめて落ち着いたのか、不意にハルは俺を解放すると、何事も無かったかのようにケイリーさんに視線を向けた。

 ここで照れたりとか言い訳したりしないのは、伴侶に甘いウェルマール一家だから…なのかな。もしかしたら、こういういきなり目の前で抱き合うとかに…慣れてるの?

 俺は人前で抱き合ってしまった事が、ちょっと恥ずかしい。だから多分まだ頬が赤いと思う。

 でも周りの皆は普通に真剣な顔に戻っているんだよね。うーん、切り替えが早い。すごいなと感心している間に、ハルが尋ねた。

「…それで、ここに異世界人がたくさんいるっていうのはどういう事なんだ?」
「あー…最近はだいぶ落ち着いたんだが…その…隣国が、異世界人の召喚を頻繁にしてたんだよ」
「隣国って…どっちだ?」

 ハルは険しい顔をしたまま、低い声でぼそりとそう尋ねた。

「ドノレット王国の方だ」
「ドノレット王国…ねぇ」
「あ、待ってくれ、ハル。最近は代替わりして王家がまともになったから、召喚はちゃんと禁じられているぞ?…なあ、グレース」

 慌てた様子のケイリーさんに急に話を振られたグレースさんは、まあなと頷きながら続けた。

「あの頃のドノレット王国は、異世界人の事を召喚してはその知識をただ一方的に利用するだけだった。この世界の事を知って自国から出ていくのが怖かったらしくてな…」

 ろくにこの世界の事も教えず、ただ一カ所に閉じ込めていたんだと、グレースさんは心配そうにチラチラと俺を見ながら続けた。

 自分と同じ異世界人が、そんな目にあった話なんて聞きたくないだろう。そう思って心配してくれているんだろうな。

 もし俺もその国に召喚されていたら、ただ閉じ込められてたって事だもんな。確かに面白い話では無い。

「へぇ……それで?」
「先代の頃もまともな貴族が数人はいてな、時期を見て死んだと報告してからここに逃がしていたんだ」

 そっか、助けてくれる人もいたんだ。それだけでもすこしは良かったと思える。あくまですこしだけね。

「そうか…それは良かったが…何故わざわざ隣国に逃がしたんだ?」

 少しだけ怒りが和らいだらしいハルは、今度は不思議そうに首を傾げつつ尋ねた。

「ああ、たとえ死んだ事にしても、自国では守り切れないからってな」
「…それもそうか」
「しかもなー義父さん…あーハルにとっての爺さんにな、わざわざ国境まで頭を下げにきたんだってよ」

 グレースさんはそう言って、なかなかに根性があるよなと楽しそうに笑った。

「そうだったな。父上はあの通りの人だったから、全員引き受けるってあっさりと受け入れたんだ」

 ケイリーさんも懐かしそうに目を細めて笑っている。

 即座にそんな判断ができるあたり、すごく格好良い人だったみたいだな。さすがハルのお爺さんだと勝手に納得してしまった。

 ケイリーさんとグレースさんの説明によると、そのまま異世界人たちを受け入れ暮らす場所と知識を与えているうちに、ここが気に入ったと落ち着く人たちもでてきたらしい。

 もちろんもっと安全な場所が良いとか憧れの地を探すとか言って他の領へと流れていく人や、自分から貴族に囲われたいと出ていった人なんてのもいるらしいけどね。

 そういう人たちは、個人の自由だからと邪魔はせずに送り出してきたそうだ。

「まあそういうわけで、うちの領には結構異世界人はいるんだよ」

 だからアキトくんも歓迎だよと、ケイリーさんとグレースさんはそう話を締めくくった。

 うーん、歓迎してくれるのはすごく嬉しいけど、軽い。

「なあ…ファーガス兄さんも、ウィル兄さんも…キースも知ってたのか?」

 順番に三人を見つめながら、ハルは不意にそう尋ねた。

「ああ、知っていた。うちの騎士団にも何人かいるからな」
「あ、うちの隊にもいるねー」
「僕の友達にもいるよ」
「俺は…全く知らなかったんだが…」

 戸惑った様子でうなだれたハルの髪を、近づいてきたファーガスさんが乱暴にかき混ぜた。力が強いせいかハルの頭はがくがくと揺れている。

「以前のお前は、あまり人に興味が無かったからなぁ」
「ああ、確かに」

 昔の俺はそうだったと反省しているハルに、ウィリアムさんが笑って声をかける。

「まあでも、特別扱いしないハルに救われたって行ってた人もいたからさー悪い事ばかりじゃないよ」
「そう…なのか?」
「僕もね、教えてもらったけどふつうの友達扱いしてるよ?」

 ハル兄みたいにねとにっこりと笑うキースくんは、やっぱり天使だと思う。
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