生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
854 / 1,561

853.【ハル視点】頼もしい味方

「アキトくんは、チーラが気に入ったのかい?」
「はい、シャキッとしてるのにみずみずしくて、すごく美味しいです」

 幸せそうに満面の笑みでそう答えたアキトに、父さんは嬉しそうに笑っている。領内で採れた特産の野菜を褒められれば、笑顔にもなるか。

「あ、アキトくん、そっちのソースをつけて食べても美味しいよー」

 俺はソースありの方が好きなぐらいと、ウィル兄さんはニコニコ笑顔でアキトに教えている。その隣ではジルさんもコクコクと頷いているから、どうやらジルさんもソース付きがお勧めらしい。

 素直なアキトは、言われるがままにソースをつけてチーラを口に運んだ。

「どう?どう?」
「んっ!ソースをつけたのも確かに美味しいです!」

 うん、確かにこのソースをつけて食べるのも美味しいな。俺はどちらかというとソースありの方が好きかもしれない。

 料理長であるラスの作った料理を食べるのは久しぶりだが、どうやらまた腕をあげているみたいだ。

「良い反応だ、口には合ったようだね」

 ファーガス兄さんはそう言うと、部屋の隅に控えていた侍従にそっと目くばせを送った。ぺこりと一礼して部屋から出ていった侍従を、アキトはすこし不思議そうに見つめている。

「彼は料理長に伝えに行ったんだよ」

 そうアキトの耳元でこっそりと説明すれば、アキトはえっと驚いた様子を見せた。

「こういう時は、客の反応を見て少しずつ味を変えたりするものなんだ。普段はもっと目立たないようにこっそりと出ていくんだよ」

 ファーガス兄さんは、今日はわざと分かりやすく目くばせをしただけだ。アキトがもし出ていく人に気づいても不審に思わないように、そして俺がこの話をアキトに説明できるようにだろう。

 こういう時に、ファーガス兄さんには敵わないなと思うんだよな。

「それにしても、今日の食事にこの形式の料理が出てくるとは思わなかったよ」

 すこしだけ苦笑しながら、俺は父さんに向かってそう尋ねた。

 俺の予想では、今日はもっと気軽な料理を出してくると思っていたからな。少なくともアキトがもうすこしこの領に慣れてから、今回の形式の料理を出すだろうと予想していたんだ。

「まあなーこの形式にしなくても良いんじゃないかって、私は言ったんだぞ?」

 俺の質問に答えたのは、父さんではなく母さんだった。

「味は確かに美味いけど、どうしても堅苦しい雰囲気になるし、慣れてないと疲れるだろう?」
「ああ、きっと母さんならそういうだろうと思ってたからね…」

 だから予想外だったんだと視線を向ければ、父さんは少し申し訳なさそうに答えた。

「それは駄目だと、私がグレースに断ったんだ」
「そうなのか?それはまたどういう理由で?何か理由が無いと父さんが母さんの提案を拒否なんかしないだろう?」

 こう見えて父はかなり母に弱いからな。そう思って尋ねれば、父は苦笑しながら答えた。

「まあすごく単純な理由だよ。アキトくんとの初対面の食事でそれをしてしまうと、もしかしたら辺境領は彼を歓迎していないという意味に取られるかもしれないだろう?」
「ああ、なるほど」

 我が王国ではそんな慣習はないとはいえ、実際にそういう慣習がある国も存在している。歓迎している時は今回のような料理の形式で、歓迎していない時はそれ以外の料理を出すらしい。

 何人かの厄介な他国の貴族の顔が浮かんでは消えていく。

「もちろん、私たちがアキトくんを歓迎している気持ちは本物だが――」

 父さんはそこで言葉を切ると、じっとアキトと俺を見つめた。

「もしそう考えた誰かから文句をつけられたりしたら、ハルとアキトくんが困るだろうと思ってな…?」

 これは私の考えすぎかもしれないが、邪魔が入らないようにと考えたんだ。父さんは、苦笑しながらも、そう説明してくれた。

 そうか。わざわざこの形式での食事にしてくれたのも、アキトと俺のためだったのか。

「そう言う事か。父さんの配慮に、心から感謝します」

 目礼しながら告げた俺の横で、アキトも一緒になって目礼をしてくれた。

「俺からもありがとうございます」
「どういたしまして」

 ニコッと笑った父さんの横から、またしても顔を出した母さんは楽し気に笑いながら続けた。

「まあ、もしここまでしてそれでも変なやつに絡まれたりしたら、ハルか…せめて私達の誰かには教えてくれ」

 そこはきっちり私が話を通すからなと呟いた声は、聞き取り難いぐらいに低かった。

 こう見えて母は戦闘だけじゃなく、話術も交渉術もうまい。敵に回せば厄介な相手だが、味方にするならこれほど頼もしい相手もいないだろう。

 母は全力を出してアキトを守るつもりのようだから、きっと問題は起きないだろう。

 ありがとうと視線だけで伝えれば、母はまかせろと頼もしい笑みを見せた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。