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856.【ハル視点】止められない流れ
「あの…でも俺は別に料理に詳しいってわけじゃないんですけど…」
誉められて喜ぶというよりはすこし申し訳なさそうにそう告げたアキトに、ラスはいいやとすぐに首を振った。
「味覚が鋭くて素直な感想を教えてくれるのが一番だ」
むしろ料理の仕方とか味付けにあれこれと口出しされるのは、料理人の誇りに関わるからなと渋い顔をしている。ラス相手にそんな事をする奴が存在するのか…?
「だから安心して、バカ息子共の飯を楽しんでやってくれ」
ふわりと笑いながらそう言ったラスの笑顔は、レーブンとローガンにそっくりだった。うん、こうしてみるとさすがに親子だなと思えるな。
あんなに強面なのに、不思議な事に笑うと一気に柔らかい雰囲気になるんだよな。まあその笑みを浮かべる事が滅多に無いっていうのも、そっくりなんだが。
そんな事を考えながらアキトと笑い合っていると、不意にラスがハッと息を飲んだ。何だ、どうしたと視線を向けた先で、ラスは感動した様子で続けた。
「そうか…レーブンが息子扱いをしてるなら、俺の孫みたいなものじゃないか?」
「あー…ローガンと同じ理論だな…」
本当にそっくりだよと呆れながら答えた俺を綺麗に無視して、ラスはアキトを見つめて尋ねた。
「もちろんアキトくんが迷惑だと言うなら、孫扱いはやめておくが…どうだろう?俺の孫は嫌かい?」
もし断れずにいるだけで本当は嫌なら、レーブンとローガンにも俺から注意するぞ。そう続けたラスは、今は真剣な表情をしている。
ああ、一番言いたかったのはそれか。
こんなに素直で可愛いアキトがあの二人を相手にと想像したら、本気で心配になったんだな。
アキトは少しだけ考えてから、うんと一つ頷いてから口を開いた。
「いえ、あの…嬉しいです。祖父母は幼い頃に亡くなりましたし、両親とは…もう会えないかもしれないので……」
そこでアキトは言葉に詰まってしまった。
そうだよな。アキトはある日突然この世界に来たと言っていた。別れの言葉すら言えずに唐突に引き離されたんだ。会いたいとそう思うのは当然の事だろう。
何も言えなくなってじっとアキトを見つめていると、周りの視線が集まっているのに気づいた。しんと静まり返った部屋に、父の声が響いた。
「あー…アキトくん、ご両親は…その…」
「あ、いえ、両親は生きてます!」
誤解させてしまったと慌てた様子で声をあげたアキトに、みんなはホッと息を吐いた。この流れはもしかしたら、まずいかもしれない。
「ん?生きてるのに会えないのか?」
不思議そうに尋ねた母さんの質問に、アキトはこくりと頷いた。
「はい、えっと…故郷には、気軽に戻れないので」
そうだよな。そう聞かれたら素直なアキトはそう答えるよな。でも余計に流れがまずくなった気がする。
慌てる俺の視線の先、父と母が顔を見合わせた。
「こう見えて私は知り合いや友人はかなり多いんだ。伝手を使えば、たとえ異国であっても移動する事は可能だよ?」
父は滅多に使おうとしない英雄ケイリー・ウェルマールとしての伝手を、アキトを故郷に帰らせるためだけに使おうとしているみたいだ。
「アキトくん、俺の管轄にはダンジョンの管理も含まれているんだ。つまりダンジョンから出た珍しい魔道具もたくさん保管している」
中には簡易の転移魔法陣のような機能があるものもあるよと、ファーガス兄さんはさらりと続けた。悪用されないためにと保管している物だが、アキトのためなら使っても良いだろうと言いたげだ。
その魔道具で戻る事ができる場所なら、俺が何とかして手に入れているに決まっているだろう。そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、俺は周りの会話に耳を傾けた。
「えっと…でも…」
「もうすぐ私たちとも家族になるんだ。遠慮はしなくて良いからね」
「そうだぞ、どんどん頼ってくれ」
ああ、ついには母さんまで一緒になって、アキトを説得しようとし始めている。例え俺がここで何を言っても、もうこの流れは止められない。そんな気がする。
どうすればアキトが帰れるかを相談し始めた父と母、そしてファーガス兄さんをぼんやりと眺める事ぐらいしかできない。
「待ってください、皆さん落ち着いて。アキトさんが戸惑っていますから」
ジルさんの穏やかだが説得力のある声に、みんながぴたりと口を閉ざした。ありがとう、ジルさん。
「そうそう。みんなジルの言う通り落ち着いてー」
ウィル兄さんはニコニコ笑顔で周りを見回している。俺の伴侶は最高と今にも言い出しそうな自慢げな表情だ。ああ、確かにジルさんは素晴らしい人だな。
「もっとはっきりさせるべき事があるだろう?」
艶やかに笑ったマティさんは、アキトの方をちらりと流し見た。待て、待ってくれ。慌てる俺の予想に反して、一番重要な事を尋ねたのはキースだった。
「アキトさんって…どこの出身なんですか?」
キースの質問に、アキトはぎくりと固まった。
誉められて喜ぶというよりはすこし申し訳なさそうにそう告げたアキトに、ラスはいいやとすぐに首を振った。
「味覚が鋭くて素直な感想を教えてくれるのが一番だ」
むしろ料理の仕方とか味付けにあれこれと口出しされるのは、料理人の誇りに関わるからなと渋い顔をしている。ラス相手にそんな事をする奴が存在するのか…?
「だから安心して、バカ息子共の飯を楽しんでやってくれ」
ふわりと笑いながらそう言ったラスの笑顔は、レーブンとローガンにそっくりだった。うん、こうしてみるとさすがに親子だなと思えるな。
あんなに強面なのに、不思議な事に笑うと一気に柔らかい雰囲気になるんだよな。まあその笑みを浮かべる事が滅多に無いっていうのも、そっくりなんだが。
そんな事を考えながらアキトと笑い合っていると、不意にラスがハッと息を飲んだ。何だ、どうしたと視線を向けた先で、ラスは感動した様子で続けた。
「そうか…レーブンが息子扱いをしてるなら、俺の孫みたいなものじゃないか?」
「あー…ローガンと同じ理論だな…」
本当にそっくりだよと呆れながら答えた俺を綺麗に無視して、ラスはアキトを見つめて尋ねた。
「もちろんアキトくんが迷惑だと言うなら、孫扱いはやめておくが…どうだろう?俺の孫は嫌かい?」
もし断れずにいるだけで本当は嫌なら、レーブンとローガンにも俺から注意するぞ。そう続けたラスは、今は真剣な表情をしている。
ああ、一番言いたかったのはそれか。
こんなに素直で可愛いアキトがあの二人を相手にと想像したら、本気で心配になったんだな。
アキトは少しだけ考えてから、うんと一つ頷いてから口を開いた。
「いえ、あの…嬉しいです。祖父母は幼い頃に亡くなりましたし、両親とは…もう会えないかもしれないので……」
そこでアキトは言葉に詰まってしまった。
そうだよな。アキトはある日突然この世界に来たと言っていた。別れの言葉すら言えずに唐突に引き離されたんだ。会いたいとそう思うのは当然の事だろう。
何も言えなくなってじっとアキトを見つめていると、周りの視線が集まっているのに気づいた。しんと静まり返った部屋に、父の声が響いた。
「あー…アキトくん、ご両親は…その…」
「あ、いえ、両親は生きてます!」
誤解させてしまったと慌てた様子で声をあげたアキトに、みんなはホッと息を吐いた。この流れはもしかしたら、まずいかもしれない。
「ん?生きてるのに会えないのか?」
不思議そうに尋ねた母さんの質問に、アキトはこくりと頷いた。
「はい、えっと…故郷には、気軽に戻れないので」
そうだよな。そう聞かれたら素直なアキトはそう答えるよな。でも余計に流れがまずくなった気がする。
慌てる俺の視線の先、父と母が顔を見合わせた。
「こう見えて私は知り合いや友人はかなり多いんだ。伝手を使えば、たとえ異国であっても移動する事は可能だよ?」
父は滅多に使おうとしない英雄ケイリー・ウェルマールとしての伝手を、アキトを故郷に帰らせるためだけに使おうとしているみたいだ。
「アキトくん、俺の管轄にはダンジョンの管理も含まれているんだ。つまりダンジョンから出た珍しい魔道具もたくさん保管している」
中には簡易の転移魔法陣のような機能があるものもあるよと、ファーガス兄さんはさらりと続けた。悪用されないためにと保管している物だが、アキトのためなら使っても良いだろうと言いたげだ。
その魔道具で戻る事ができる場所なら、俺が何とかして手に入れているに決まっているだろう。そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、俺は周りの会話に耳を傾けた。
「えっと…でも…」
「もうすぐ私たちとも家族になるんだ。遠慮はしなくて良いからね」
「そうだぞ、どんどん頼ってくれ」
ああ、ついには母さんまで一緒になって、アキトを説得しようとし始めている。例え俺がここで何を言っても、もうこの流れは止められない。そんな気がする。
どうすればアキトが帰れるかを相談し始めた父と母、そしてファーガス兄さんをぼんやりと眺める事ぐらいしかできない。
「待ってください、皆さん落ち着いて。アキトさんが戸惑っていますから」
ジルさんの穏やかだが説得力のある声に、みんながぴたりと口を閉ざした。ありがとう、ジルさん。
「そうそう。みんなジルの言う通り落ち着いてー」
ウィル兄さんはニコニコ笑顔で周りを見回している。俺の伴侶は最高と今にも言い出しそうな自慢げな表情だ。ああ、確かにジルさんは素晴らしい人だな。
「もっとはっきりさせるべき事があるだろう?」
艶やかに笑ったマティさんは、アキトの方をちらりと流し見た。待て、待ってくれ。慌てる俺の予想に反して、一番重要な事を尋ねたのはキースだった。
「アキトさんって…どこの出身なんですか?」
キースの質問に、アキトはぎくりと固まった。
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