生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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860.目覚め

 青空に浮かぶふわふわした雲の上に、ハルと二人並んで寝転がっている夢を見た。

 夢の中の俺はこの雲って綿菓子みたいで美味しそうだなーなんて考えて、目の前にある雲をひとくち分ちぎって口に放り込んでいた。

 ふわりと広がって消えていく甘みに、美味しいよ、ハルも食べてと声をあげた所で目が覚めた。



 まだ眠い目を手で擦りながら、俺はむくりと起き上がった。ついさっきまで見ていた夢と、目の前の景色がなかなかしっくりこない。

 寝ぼけたままの頭で、見慣れない部屋だけどここはどこだっけ?と考えつつ、俺は部屋の中をぐるりと見回してみた。

 最初に目にとまったのは、繊細な彫刻が美しいテーブルだった。そのテーブルの上には、透明感のある涼し気な花瓶に入った色とりどりの花々が品よく飾られている。

 朝にぴったりのビタミンカラーの花をぼんやりと眺めてからふと窓辺へと視線を向ければ、そこには重厚感のあるデスクがあった。美しい木目がすごく目立っている。書類仕事とかをするためのものなのか、備え付けの羽のついたペンがなんだかすごくファンタジーだ。

 続いて視線を向けたのは、驚くほど広い窓だ。

 何重にもかけられている細やかな刺繍がされた薄い布は、たぶんカーテンがわりなんだろうな。もし何もなかったらきっとかなり眩しいと思うんだけど、その布のおかげで外からの光を和らげてくれている。

 うーん、どれを見ても高級感がすごい。特に詳しくない俺の、寝起きの頭でも分かるぐらいの高級感だ。

 そんな家具の数々をぼんやりと見つめているうちに、そういえばハルの実家にいるんだったなとようやく頭が働き出した。

――えーっと…昨日、食事の後どうやってこの部屋まで来たか覚えてないんだけど、またハルに迷惑をかけてしまったのかな?

 部屋の中にハルはいないみたいだし、謝るのは後だな。とりあえずベッドから出て身支度でもしようかな。そう思って立ち上がろうと手をついた俺は、自分のいたベッドのあまりのふわふわさに目を見開いた。

 わーすっごいふわふわだ。無心で何度も押してしまうほどのふわふわさに、俺はハッと気づいてしまった。さっきの夢の原因って絶対にこれだよね。

 あれ?でも俺夢の中でわたがしみたいって食べてたような…?本当に食べようとしたとか無いよね?

 少しだけ心配になってしまったから一応念のためにとベッドの中を確認してみたけど、齧りついたような跡は見つからなかった。

 良かったとホッと息を吐いた瞬間、視線の先にあったドアがそっと音もなく開いた。

 反射的に思わず警戒しながら見つめてしまったけれど、入ってきたのはハルだった。

「アキト、おはよう。もう起きたの?」
「おはよう、ハル。うん、よく寝たからすっきり目が覚めたよ」

 寝心地の良いベッドをわたがしと勘違いして齧ってないか、ついさっきまで気にしてたとはさすがに言えないよね。

 まあハルなら、可愛いとか言って笑ってくれる気もするけどね。

「ハル、ごめん。俺昨日ここまで移動したの覚えてないんだけど…」
「ああ、確かに眠そうではあったけど、昨日はここまで自分の足で移動したよ?」
「え、そうなの?」

 どうやらハルのご家族の前で恋人抱きで運ばれたわけじゃないみたいだ。

「ラスが、俺の両親に説教してたのは覚えてる?」
「あー…うん。それはちゃんと覚えてる」

 最強夫婦と呼ばれているらしい辺境領領主夫妻を捕まえて、雇われてる側の料理長であるラスさんがまさか説教を始めるとは思わなかったからね。本当に驚いたんだ。

 まあ叱られたお二人が、反論するでもなく神妙な顔で聞いてるのにも実はちょっと驚いたんだけど。

 ラスさんが叱ったのは、一点だけ。訳ありだと予想がついていたなら俺の出身地の話になった時点でラスさんを退出させるべきだった。そういう話だったんだけどね。

 俺のために怒ってくれてるんだなーとちょっと感動しながら聞いていたら、ラスさんはくるりと振り返って俺に向かって口を開いたんだ。

「アキトくん、俺は自分の孫の秘密を誰かに話したりはしないと。愛用の包丁に誓う」

 わざわざ料理人の命と言われる事もある包丁に誓ってくれたラスさんは、また息子たちの話を聞かせてくれと笑顔を見せてくれたんだ。

 さすがレーブンさんとローガンさんのお父さんだなってしみじみ思ったから、よく覚えてる。

「その後はすぐに解散になったから、まっすぐこの部屋に戻ってきたよ?」
「そっか、それなら良かった」

 どうやら今回はハルに迷惑はかけてなかったみたいだ。お酒を選ばなかった昨日の俺、偉いぞと脳内で褒めながら、俺は差し出されたハルの手に手を伸ばした。
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