生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
864 / 1,561

863.食前の言葉

 運ばれてきた二枚のお皿の上には、俺が選んだ料理が美しく盛り付けられていた。あんなに短時間で取り分けたのに、この出来栄えってすごすぎない?

 大皿に乗った状態でも美味しそうだとは思ったけど、今は更に美味しそうに見える。

 メイドさんってこんな事もできるの?

 びっくりして思わず料理をまじまじと見つめていると、向かい側からふふと笑い声が聞こえた。ぱっと視線を上げれば、ぱちりと目が合ったハルは悪戯っぽい笑みを浮かべながら口を開いた。

「今のアキトの気持ち、当ててみせようか?」
「うん、言ってみて?」
「こんな一瞬で、こんなに綺麗に盛り付けてくれてすごい!」

 俺っぽい言い方まで真似したハルは、続けてどう?あってる?とゆるりと首を傾げた。

「うん、あってる!ハルすごいね。何で分かったの?」
「んー、盛りつけられた料理をみてびっくりして、それからまじまじと観察してたからね。感動したか感心したかどっちかだろうなと思って」

 たしかにそんな反応はしてたかもしれないけど、それだけの事で感情まで読みとれるってすごいよね。

 ハル相手に隠し事はできなさそうだな。まあする予定は無いから良いんだけど。

「用意は良さそうかな?」

 全員の前に料理が並んだ事を確認してから、ケイリーさんは笑顔で続けた。

「それじゃあ食べようか」

 ニコニコと笑みを浮かべる皆と一緒に、こうして朝食を食べられるっていうのは嬉しいな。そんな事を考えながら俺は自然と口を開いた。

「「いただきます」」

 あ、ちょうどハルも同じタイミングだったな。そう思ってパッとハルを見れば、蕩けるような甘い目で俺を見つめていた。

 あー…ハル、その目はちょっと朝食の場には相応しくないんじゃないかな?俺の事を大好きだって伝えてくれてるようなものだから、嬉しいんだけどね?嬉しいけど、さすがにご家族の前でそんな目をされても困る。

 今日もハルは格好良いんだから、自分の格好良さを自覚して欲しい。

「いただき、ます…?」

 ハルの甘い視線に勝手に慌てていた俺は、たどたどしく繰り返されたケイリーさんの言葉にふと周りを見た。

 もう食べ始めても良いはずなのに、誰も動いていない。いや、それどころか、その場にいるハルの家族全員が、不思議そうに俺たちを見つめている。

「なあ、さっきのいただきますって何だ?」

 率直にそう尋ねてくれたのは、グレースさんだ。どこから説明すれば良いんだろうと考えてる所だったから、話題を振ってくれるのはすごく助かる。

「あ、えっといただきますっていうのは…俺の故郷での食前の挨拶なんです」

 室内にはまだメイドさんや侍従さんもたくさんいるから、異世界とは言わずに故郷と表現してみた。

 別にここの人達を信じてないってわけじゃないんだけどね。でも、ハルから常に用心はしておいた方が良いって、何度も言われてるからね。

 ちなみに俺にそう教え込んだハルは、きちんと用心できていて偉いねと言いたげに視線だけで褒めてくれた。

 ああ、そういえば俺もハルの視線とか仕草だけでも、何が言いたいのか分かるようになってきたな。

「あーそういえばなんか聞いたことあるなー」

 ウィリアムさんはそう言うと、ふわりと俺に向かって笑みを浮かべた。

 これって本当に聞いたことがあるのかな。それとも周りの人たちに不信感を与えないために、わざとそう言ってくれたんだろうか。うん、その可能性もありそうだな。

 どちらが正解なのかは分からないけど、俺はウィリアムさんに目礼を送った。ありがとうの気持ちを込めた目礼に、どういたしましてと言いたげなウィンクが返ってきた。

「さっきハルも言っていたよな?」
「ああ、うん。俺もアキトと一緒にいるうちにすっかり癖になっちゃってね」

 隣り合わせに座っているファーガスさんとハルが、こそこそと話している声が聞こえてくる。

「なるほど…」

 じっと俺とハルを順番に見比べていたグレースさんは、ケイリーさんをまっすぐ見つめて尋ねた。

「なあ、そういえばうちには食前の挨拶って習慣が無いよな?」
「ああ、確かに無いな」

 先代の頃から無かったからなとあっさりと頷いたケイリーさんに、グレースさんはパッと笑顔になった。悪戯っ子のような笑顔が、ハルにそっくりだ。さすがお母さん。

「無いなら、アキトの故郷の挨拶を取り入れたら良いんじゃないか?」

 え、さすがにそれはちょっと急展開すぎない?気持ちは嬉しいけど無理はしなくて良いのでと慌てる俺の隣で、グレースさんはどう思う?と皆に尋ねた。

「ああ、それは良いな」
「食べようと声をかけるより良いかもしれませんね」
「俺も賛成ー」
「僕も言ってみたい!」
「私も賛成しよう」

 どんどん出てくる賛成の声に、俺は慌ててハルに視線を向けた。

「アキト、ごめんね。こうなったら、多分止めても無駄だから」

 無意識でいただきますって言っただけなのに、まさかの辺境領のルールに追加されてしまったよ。これって、本当に良いんだろうか。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。