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869.【ハル視点】抱擁
差し出した俺の手を掴んで、アキトはゆっくりとベッドから降りた。
何か思うところでもあったのか、じーっと降りたばかりのベッドを眺めているのは何故だろう。アキトの好きそうな、寝心地の良いベッドだと思うんだが。
まあ良いかと切り替えて、俺はアキトに向かって尋ねた。
「あ、そうだ。もし良ければ今朝の朝食を一緒にどうだろうかと聞かれているんだけど、どうする?」
ウィル兄さんとジルさんは普段は領主城のなかにある別邸に住んでいるが、昨日は泊まりだったからまだここにいる。昨日顔合わせをしたみんなが朝から全員揃うというめったにない機会だよと説明すれば、アキトは分かりやすく目を輝かせた、
「もちろん、参加したいな!」
笑顔を浮かべながら即答してくれたアキトに、俺は笑って頷きを返した。入ってきたばかりのドアをもう一度開ければ、プーカはすぐにこちらに近づいてきてくれた。
「アキトも俺も、朝食に参加すると伝えてもらえるかな」
「はい、かしこまりました」
穏やかな声で答えたプーカは、足音も立てずに去っていった。
「よし、伝言はできたし用意をしようか」
今日も浄化魔法を全力で駆使し、ささっと手早く身支度を整えていく。
今朝の食事は改まった場というわけでは無いから、無理に昨日のような礼服を着る必要は無い。どうせ他の家族も、いつも通りの普段着で来るだろうしな。
普段の採取や街に行く時とさほど変わらない軽い恰好に着替えれば、用意は完了だ。
案内役のメイドの背中を追って、二人並んで廊下を歩いていく。
今から向かうのは昨日の飾り付けられた広間ではなく、顔合わせをしたあの部屋だ。あそこは家族のための応接室なんだよとアキトに説明しながら歩けば、すぐに部屋の前へとたどり着いた。
「ちょっと待って」
ドアに手をかけたメイドに声をかけた俺は、くるりとアキトに向き直った。ここで言っておかないと、アキトを困らせてしまうかもしれないからな。
「アキト、先に言っておきたいんだけど…この部屋に入ったら、きっと…その、いっぱい抱き着かれる事になると思うんだ…」
俺の家族は、抱擁や肩や腕に触れるようなそういうちょっとした触れ合いが好きだ。とは言っても誰かれ構わずするというわけではない。あくまでも家族や友人に対して、普通の人よりも距離が近いというだけだ。
さすがに昨日の顔合わせの場ではアキトを驚かせるからと我慢していたようだが、今日はもう身内だろう?と一気に距離を詰めてくると思うんだ。
まっすぐに目を見つめて説明すれば、アキトはうんと軽く頷いてくれた。
「今はちゃんと分かってるから大丈夫だよ」
「よし、それじゃあアキト、心の準備は良い?」
もう一度確認するように尋ねれば、アキトはすぐにこくりと頷いてくれた。
「もし無理だってなったら、いつでも言ってね」
心配ではあるが、いつまでもここにいるわけにもいかないよな。そーっと俺がドアを開いた瞬間、目にも止まらぬ早さで中からウィル兄が飛び出してきた。
驚いた表情のアキトは、あっという間にむぎゅーっと両腕を使って抱きしめられている。
「ウィル兄!急に抱き着くな!アキトが驚くだろう!」
注意されていてもこの勢いで来られては驚くと睨みつければ、ウィル兄は面白そうに笑みを浮かべた。
「えー昨日は顔合わせだからって我慢したんだよ?伴侶候補ならもう家族も同然だから良いでしょー」
「――ウィル兄、ジルさんが妬くぞ?」
そう言えば手を離すだろうと考えた言葉だったが、答えたのはウィル兄ではなく部屋の中から現れたジルさんだった。
「妬かないですよ。私もアキトさんを抱きしめても良いですか?」
上からアキトの顔を覗き込むジルさんは、律儀にも言葉にしてそう尋ねた。いきなり抱き着かないあたりに、ジルさんの配慮を感じるな。
アキトは照れくさそうにしながらも、コクリとひとつ頷いた。途端に動いたジルさんに、ウィル兄ごと優しく抱きしめられている。
「あー、ずるい!私も抱き着きたい!」
そう叫んだのは母さんだ。ジルさんとウィル兄さんが離れた瞬間、母さんは素早く近づいてきてアキトに抱き着いた。
「僕もー!」
そんな声を上げながら控え目に腰の辺りに抱き着いたのは、今朝もやっぱり可愛い、弟のキースだ。人見知りなのにすっかりアキトに慣れたんだなと思えば、なんとも微笑ましい光景だ。
「ハル」
名前を呼びながら控え目に腕を広げた父さんに、俺はそっと近づくと軽く抱きしめ返した。
「体調は大丈夫そうだったのか?」
耳元でこそりと尋ねられたその言葉に、俺は笑って答える。
「大丈夫じゃなかったら、ここに連れてきてないよ」
「そうか」
「よく眠れたみたいだよ」
「それは良かった」
笑って俺を解放した父さんは、アキトに抱き着く母さんとキースの後ろにすっと並ぶようにして立った。そこで待つのか?と眺めていると、あっという間にファーガス兄さんが、さらにその後ろにマティさんが並んでいく。
「グレース、キース、まだ終わらないのかい?」
まさか列まで作られるとは思っていなかったのか、アキトはびっくり顔でこちらを見ている。驚いた表情も可愛いな。
何か思うところでもあったのか、じーっと降りたばかりのベッドを眺めているのは何故だろう。アキトの好きそうな、寝心地の良いベッドだと思うんだが。
まあ良いかと切り替えて、俺はアキトに向かって尋ねた。
「あ、そうだ。もし良ければ今朝の朝食を一緒にどうだろうかと聞かれているんだけど、どうする?」
ウィル兄さんとジルさんは普段は領主城のなかにある別邸に住んでいるが、昨日は泊まりだったからまだここにいる。昨日顔合わせをしたみんなが朝から全員揃うというめったにない機会だよと説明すれば、アキトは分かりやすく目を輝かせた、
「もちろん、参加したいな!」
笑顔を浮かべながら即答してくれたアキトに、俺は笑って頷きを返した。入ってきたばかりのドアをもう一度開ければ、プーカはすぐにこちらに近づいてきてくれた。
「アキトも俺も、朝食に参加すると伝えてもらえるかな」
「はい、かしこまりました」
穏やかな声で答えたプーカは、足音も立てずに去っていった。
「よし、伝言はできたし用意をしようか」
今日も浄化魔法を全力で駆使し、ささっと手早く身支度を整えていく。
今朝の食事は改まった場というわけでは無いから、無理に昨日のような礼服を着る必要は無い。どうせ他の家族も、いつも通りの普段着で来るだろうしな。
普段の採取や街に行く時とさほど変わらない軽い恰好に着替えれば、用意は完了だ。
案内役のメイドの背中を追って、二人並んで廊下を歩いていく。
今から向かうのは昨日の飾り付けられた広間ではなく、顔合わせをしたあの部屋だ。あそこは家族のための応接室なんだよとアキトに説明しながら歩けば、すぐに部屋の前へとたどり着いた。
「ちょっと待って」
ドアに手をかけたメイドに声をかけた俺は、くるりとアキトに向き直った。ここで言っておかないと、アキトを困らせてしまうかもしれないからな。
「アキト、先に言っておきたいんだけど…この部屋に入ったら、きっと…その、いっぱい抱き着かれる事になると思うんだ…」
俺の家族は、抱擁や肩や腕に触れるようなそういうちょっとした触れ合いが好きだ。とは言っても誰かれ構わずするというわけではない。あくまでも家族や友人に対して、普通の人よりも距離が近いというだけだ。
さすがに昨日の顔合わせの場ではアキトを驚かせるからと我慢していたようだが、今日はもう身内だろう?と一気に距離を詰めてくると思うんだ。
まっすぐに目を見つめて説明すれば、アキトはうんと軽く頷いてくれた。
「今はちゃんと分かってるから大丈夫だよ」
「よし、それじゃあアキト、心の準備は良い?」
もう一度確認するように尋ねれば、アキトはすぐにこくりと頷いてくれた。
「もし無理だってなったら、いつでも言ってね」
心配ではあるが、いつまでもここにいるわけにもいかないよな。そーっと俺がドアを開いた瞬間、目にも止まらぬ早さで中からウィル兄が飛び出してきた。
驚いた表情のアキトは、あっという間にむぎゅーっと両腕を使って抱きしめられている。
「ウィル兄!急に抱き着くな!アキトが驚くだろう!」
注意されていてもこの勢いで来られては驚くと睨みつければ、ウィル兄は面白そうに笑みを浮かべた。
「えー昨日は顔合わせだからって我慢したんだよ?伴侶候補ならもう家族も同然だから良いでしょー」
「――ウィル兄、ジルさんが妬くぞ?」
そう言えば手を離すだろうと考えた言葉だったが、答えたのはウィル兄ではなく部屋の中から現れたジルさんだった。
「妬かないですよ。私もアキトさんを抱きしめても良いですか?」
上からアキトの顔を覗き込むジルさんは、律儀にも言葉にしてそう尋ねた。いきなり抱き着かないあたりに、ジルさんの配慮を感じるな。
アキトは照れくさそうにしながらも、コクリとひとつ頷いた。途端に動いたジルさんに、ウィル兄ごと優しく抱きしめられている。
「あー、ずるい!私も抱き着きたい!」
そう叫んだのは母さんだ。ジルさんとウィル兄さんが離れた瞬間、母さんは素早く近づいてきてアキトに抱き着いた。
「僕もー!」
そんな声を上げながら控え目に腰の辺りに抱き着いたのは、今朝もやっぱり可愛い、弟のキースだ。人見知りなのにすっかりアキトに慣れたんだなと思えば、なんとも微笑ましい光景だ。
「ハル」
名前を呼びながら控え目に腕を広げた父さんに、俺はそっと近づくと軽く抱きしめ返した。
「体調は大丈夫そうだったのか?」
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「大丈夫じゃなかったら、ここに連れてきてないよ」
「そうか」
「よく眠れたみたいだよ」
「それは良かった」
笑って俺を解放した父さんは、アキトに抱き着く母さんとキースの後ろにすっと並ぶようにして立った。そこで待つのか?と眺めていると、あっという間にファーガス兄さんが、さらにその後ろにマティさんが並んでいく。
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