生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
878 / 1,561

877.屋台のおじさん

 大通りから見たら人が少ないように見えたけど、中に入ってしまえば市場の中はたくさんの人で賑わっていた。

 ハルによると、この市場の名前はウェルマ市場というらしい。

 由来はもちろん辺境領主一家の名前なんだけど、街の名前がウェルマールなのに市場の名前も同じだと混乱するかもしれない。そんな理由で市場を立ち上げた商人さんが、短縮した名前をつけたんだって。

 ちょっと面白い由来だ。

「黒髪の兄ちゃん、そう説明されてるって事はもしかして初めて来たのかい!?」

 ハルに説明を真剣に聞いていると、不意に隣の屋台の筋肉質なおじさんがそう声をかけてきた。俺は急に声をかけられてちょっとびっくりしたけど、ハルは柔らかく笑いながら普通に答えた。

「ああ、俺の伴侶候補は初めて辺境に来たんだ」

 こういうやりとりもこの市場では普通なのかもしれないな。

「金髪の兄さんの方は、ここの出身なのかい?」

 おじさんは日焼けした顔に優しい笑みを浮かべて、そう尋ねてきた。まさかハルがここの領主一家の一人だなんて、想像もしていないんだろうな。

 さすがに現領主であるケイリーさんと次期領主であるファーガスさんは広く顔が知られているらしいけど、ハルとウィリアムさん、キースくんはあまり知られてないって言ってたもんな。

「ああ、そうだよ」

 わざわざ自分が領主一家の一員だなんて言うつもりは無いから、ハルもあっさりとそう答えた。

「そうかそうか!黒髪の兄ちゃん、金髪の兄さんも、もしよければこれもらってくれ」

 放物線を描いて俺の手元めがけて投げられたのは、綺麗な赤色をした両手にあまるサイズの果物だった。いやもしかしたら野菜なのかな?

「え、もらっちゃって良いんですか?」

 慌てて尋ねれば、おじさんは朗らかに笑って頷いた。

「店主、これはルプティじゃないか。本当に良いのか?」
「ああ、売り物にする程の数がねぇから、常連さんにおまけしてたんだが――初めて辺境に来た人に出逢うなんて滅多にねぇ事だしな」

 気にせず貰ってくれと言ってくれたおじさんは、甘くてうまいぞーと自慢げにそう続けた。やっぱり果物――かな。

「ありがとうございます!」
「ありがとう」

 ハルと二人でお礼を言えば、おじさんは照れくさそうにぶんぶんと手を振った。

「店主の屋台は、果物と野菜を取り扱ってるのか?」
「ああ、色々と取り扱ってるよ。鮮度にも自信があるぜ」

 屋台に並んでいるのは自分で育てたものと壁の向こうで採取してきたものが、ちょうど半々ぐらいらしい。辺境の壁の向こうで採取してこれるって、実はこのおじさんすごく強い人なのかもしれない。

「そうか…あ、アキト、あれ」

 ハルがそっと指差したのは、昨日市場を通りかかった時に見かけたあのとげとげした黄色の果物だった。俺があれは知らないって言ったら、ハルが詳しく説明してくれたんだよね。中身はトロッとした緑色の果肉だって言ってたやつだ。

「あ、昨日ハルに教えてもらった…えっと、リグールの実だっけ?」
「そうそう、折角だしいくつか買っていこうか」
「あー気を使ってるなら無理しなくて良いんだぜ?」

 おじさんは困り顔で、あれはただ辺境領にようこそって気持ちだから押し売りするつもりは無かったんだと続けた。

「押し売りされるなんて思ってないさ」
「気を使ってるわけじゃないです」
「そうかい?」
「昨日から気になってたんですよ。トライプールでは見かけない果物なので」

 そう言えば、おじさんはトライプールから来たのかと驚いていた。

「トライプールでは、うちの領主様の息子さんが働いているんだぜ」

 ハルと俺は思わず顔を見合わせてしまった。はい、目の前にいるのがまさにその人ですとは言わないけど、まさかの言葉すぎてすこし笑ってしまった。

「ああ、知ってるよ」
「有名ですからね」

 正体を明かさないならもうそう言うしかないなと二人して答えれば、おじさんは満足そうに頷いた。

「それじゃあリグールの実を、5つ頼む」
「はいよっ!」

 俺達が本当に欲しいものだと理解してくれたのか、おじさんは元気に返事をしてくれた。

 まあこの後、たくさんのおまけをつけようとしてくれるおじさんと、何とかおまけを回避しようとする俺とハルの攻防戦が繰り広げられたりしたんだけどね。

 両者ひきわけで終わりました。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。