生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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878.果物屋さん

 交渉して何とかおまけを減らしてもらったものの、ゼロにする事はできなかったんだよね。ハルの機転でそれならとこちらも買うものを追加した結果、何とか引き分けに持ち込む事ができた。

「金髪の兄ちゃんは交渉上手だな」

 悔しそうに顔を歪めながらそう言ったおじさんに、思わず俺は笑ってしまった。

 お店の人がおまけを増やそうとして、こっちはお金を払う額を増やそうとする。そんな商人と客らしくないやりとりが面白くなってしまったからだ。

「まあ黒髪の兄ちゃんが笑ってくれたから良いか。また来てくれよー」
「はい、また」
「また来るよ」

 笑顔で手を振ってくれるおじさんに俺とハルも小さく手を振り返して、市場の人混みの中へと足を踏み出した。



 たくさんの人で溢れている活気ある市場の中を、俺はハルの誘導でスルスルと進んでいった。

 ここで取り扱われているのは野菜とか果物とか食材が多いのかなと思っていたんだけど、奥に進めば進むほど見た事の無い屋台が増えてきた。

 果物の屋台の隣に冒険者向けの消耗品を置いている屋台があったり、かと思えば野菜らけの一画に無造作に魔物の爪や角などの素材が積み上げられた屋台があったりするんだ。

 統一感が無いといえばそうなんだけど、逆に飽きがこないワクワクするような面白さがある。

 この市場の雰囲気、俺はかなり好きだな。

「アキトそこの店なんだけど…」

 不意にハルがそう言って立ち止まったのは、店のなかにたくさんの果物が並んでいるお店だった。果物のお店、なのかな?

 さっきから屋台ばかり集まっていたから、市場の中は屋台しかないのかと思ってた。でもどうやら市場の中にも、場所によっては普通のお店もあるみたいだ。

 へー綺麗なお店だなと窓ごしにお店の中を観察していると、不意に顔をあげた女性店員がハッと大きく目を見開いた。

 呆然としたままのその女性の口が、ハル様と動いたのは読唇術なんてできないはずの俺にも分かった。

 ハルは苦笑しながらも俺の手をそっと引くと、そのまま迷いなく店のドアを開いた。途端にふわりと香ったのは甘い果物の香りだ。うわぁ良い香りだな。

「やあ、久しぶりだな、スーラ」

 中に入るなり笑ってそう声をかけたハルに、スーラと呼ばれた女性は深々と礼をしてから口を開いた。

「…お久しぶりです、ハル様。いらっしゃいませ」

 そう呼びかけたお姉さんはハルの後ろに立っている俺に気づくと、慌てた様子でお連れ様もと言葉を続けた。別にそんな風に気にしなくて良いのに。

 名前を呼んでいたし、どうやらハルの知り合いみたいだ。ただハルの親し気な様子と違って、女性は明らかに緊張している。どういう関係なんだろう。

「動揺してしまい申し訳ありませんでした」

 律儀にも俺に向かってそう謝ってくれるお姉さんに、俺はぶんぶんと首を振って答えた。

「いえ、気にしないでください」

 ハルの名前を呼べるって事は、ハルの身分を知ってるって事だもんね。前触れもなく店の前に領主一家の一人が立っていたら、それは驚くだろうなと想像がつく。

 安心させるように笑いかければ、お姉さんはやっと肩の力を抜いてくれた。

「あなたが父が言っていた、伴侶候補のアキト様ですね」
「えっと、お父さん…?」
「アキト、ここは昨日メンクがお勧めしてたお店だよ」

 メンクさんって言うと、果物屋を娘さんがやってるって言ってたあの衛兵さんか。

「え、って事は、メンクさんの娘さんなんですか?」
「ええ、ハル様とアキト様にしっかり宣伝しておいたぞなんて言うから、お忙しいお二人に迷惑だからそんな事しないでと叱っておいたんですが…」

 それなのにまさか昨日の今日でハルと俺が来るなんて思っていなくて、あんな反応になってしまったらしい。

「無理に立ち寄って頂いたのでは…?」
「いや、ここはメンクに聞いてすぐに来る予定に入れていたからな」
「…本当にご迷惑では無いんでしょうか?」

 俺の目をじっと見ながらもう一度念を押す用に尋ねてきたお姉さんに、俺は問題ないよと頷いた。

「俺が果実水が好きなので、ぜひ来たいって言ってたんです。ハルはだからここに案内してくれたんだと思います」

 この果物屋さんとメンクさんの娘さんが繋がってなかっただけで、最初から来る予定でしたと断言すれば、女性はようやく笑顔をみせてくれた。
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