生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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883.【ハル視点】幸せな光景

 部屋に戻った俺達は、そのまますぐに街へ出るための準備に取り掛かる事になった。

「服はどうしたら良いのかな?」

 アキトはこのままで良い?と自分の着ている服を指差してそう尋ねてきた。

「うーん、大丈夫だとは思うんだけど、万が一に備えてある程度の準備はしておいたほうが良いかな」
「ある程度の準備って例えば…?」
「一般的には装備を身に着けて行くか、それとも魔導収納鞄の中に武器や装備を入れて持っていくかのどちらかかな」

 辺境領ではただ買い物目的の女性やこどもたちでも、魔導収納袋の中に武器や防具を持っているのが普通だと告げれば、アキトは驚いた様子だった。

 他の領ではたしかにあり得ない風習かもしれない。

「じゃあ冒険者装備でも良いんだ?」
「ああ、もちろん大丈夫だよ。ただもしアキトが身軽に見て回りたいって言うなら、装備を魔導収納鞄の中に入れておくのでも良いよ」
「んー…もうこの冒険者装備に慣れたから、むしろこれが身軽って感じがするんだよね」

 出逢ってすぐの頃と比べたら、アキトはすっかり立派な冒険者になったな。

「そっか、それなら今日は俺も冒険者装備で行こうかな。ただ、マントは無くても良いかもしれない」

 特に市場に行くならマントは邪魔になるかもしれないからな。

「うん、じゃあマントは外しておこうかな」

 素直なアキトはすぐにいそいそとマントを外してくれる。

「一応、鞄にしまっておこうか」
「分かった」
「これで準備終わりかな?」
「そうだな」
「ハルのふるさと見て回れるの、楽しみだ!」

 そう嬉しそうに笑って教えてくれたアキトが、たまらなく愛おしかった。



 二人並んで玄関を目指して廊下を歩いていると、数冊の本を抱えたジルさんとキースが向かい側から歩いてきた。

 もしかしたら昨日言ってた読書会を、これからするのかもしれないな。

「ああ、アキトさんとハルさんは今から出発されるんですか?」
「はいっ!」
「ああ、用意も出来たしな」
「ハルさんがいれば道案内は完璧でしょうし、アキトさんはのんびりと街歩きを楽しんでくださいね」

 ジルさんはにっこりと笑うと、優しい声でアキトに向かって話しかけた。どうやらアキトは、ジルさんにも気に入られているみたいだな。いや、船の上での挨拶の時点で既に気に入られていた、が正しいだろうか。

「はい、ハルに案内してもらって、思いっきり楽しんできます」
「そうだ、ハルさん。今の所、特に危険な情報は入っていません」

 なるほど。ジルさんはこれが言いたかったのか。もしかしたら、ここでジルさんとキースに出逢ったのすら計算のうちなのかもしれないな。

「たすかるよ。ありがとう、ジルさん。ついでに…一つ聞いても良いかな?」
「ええ、何でもどうぞ?」
「俺も久しぶりに街に出るから…大通りの店はだいぶ入れ替わってるかな?」

 そう尋ねれば、ジルさんはすぐに頷いてくれた。

「ああ、そうですよね…大通りの中でも有名店はそれほど変わっていませんね」

 指を折りながらいくつかの店の名前をあげると、ジルさんはたくさんの情報を提供してくれた。

 裏道にある俺が好きだった衣服を扱っていた店が閉店したとか、どこどこにできた魔道具のお店が最近は人気だとか――そういう話だ。

 誰が聞いても問題のない街の情報の中には、私たちはあまり好きじゃないんですがと前置きをされる店も混ざっている。なるほど、そこは避けた方が良い店だな。

 さすがに伝え方がうまいなと感心していると、キースの小さな声が聞こえてきた。

「あの…アキトさん」
「うん、なぁに、キースくん?」

 これは俺やジルさんの会話が終わってしまうと、キースが気にして黙ってしまうやつかもしれない。思わずジルさんをじっと見つめれば、すぐに小さな頷きが返ってきた。

「そういえばマティさんのお勧めのお店については、もう聞きましたか?」
「いや、今回はまだ聞いていないな」
「最近は大通りから一本入った場所にあるお店がお気に入りらしいんですよ。ただ店の詳細はまだ教えてもらえていないんです」

 実際に一緒に行こうと言われていてと、ジルさんは続けた。

「そうかそれは残念だな」
「マティさんに直接聞けば、アキトさんのためなら教えてもらえるかもしれませんよ」

 いつも通りの表情を意識して会話を続けながら、俺はそっと目だけを動かしてアキトとキースの様子を伺った。

「その…今度、僕も一緒に街におでかけ…したい、です!」

 どうやらキースは、勇気を振り絞って何とかアキトを誘う事ができたようだ。ただ口にした瞬間、我儘を言ってしまったと言いたげな表情を浮かべているのが気になる。

 アキトはきっと喜んでると思うぞと思わず口を挟みたくなってしまったが、ここはぐっと我慢だ。ジルさんからも黙っていて下さいと言いたげな視線をもらってしまったしな。

「うん、もちろん!」
「やったぁ!」

 嬉しそうにパァァッと笑ったキースの姿を見て、アキトがふわりと笑みを浮かべる。そうすると今度はアキトの笑顔を見たキースも、ニコニコとまた笑い返す。

 なんて幸せな光景だろう。ああ、でも会話を止めて見つめていたら、すぐにバレてしまうな。そう考えた俺は普通に声をかける事に決めた。

「何だか楽しそうだな」

 ジルさんと俺は、さも今気づいたような雰囲気でアキトとキースに視線を向けた。二人の会話をじっくり観察していたと言うつもりはないからな。

「今度、僕も連れていってくださいって言ったの」
「お、そうなのか」
「うん、アキトさんはもちろんって言ってくれたよ」
「それは良かったな。その時は兄さんも一緒に行って良いかな?」

 俺がそう質問すれば、キースは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。

「もちろんっ!」
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