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896.自己紹介
俺達がウェルマ市場の散策や買い食いを楽しんでいる間に、大通りはたくさんの人たちで溢れていた。
少し早めに依頼を終えたのか冒険者達の集団がいたり、良いものが手に入ったと嬉しそうに話している買い物客達がいたりとなかなかに賑やかだ。
そんなたくさんの人で溢れている大通りを、前を進むケンとレイさんの背中を追って進んでいく。
「すごい人だね」
「ああ、早朝と今ぐらいが一番混むからね」
そんな事をのんびりと話しながら歩いていると、不意に前を行く二人の足が止まった。
一緒になって立ち止まって見てみれば、そこには大通りに面しているにしてはすこし小ぶりなお店があった。あ、でも両隣の店が大きなお店だから、そう見えてるだけかもしれないな。
建物自体はこの街でよく見かけるヴァコクの黒い木を使った建物なんだけど、大きな窓にかけられているカーテンがわりの布は濃いめの赤色だ。
黒と赤が映えるせいか、不思議と洗練された格好良さだ。
「アキト、ハルさん、こっち」
そう言って案内されたのは、店の横にある狭い狭い路地だ。店の関係者以外通ろうとはしないだろうなと思うほど狭い道を、横向きになって歩いて通る。
「ごめんな、定休日は表を開けると面倒だから」
ケンは裏口にあたるドアの鍵を開けながら、そう口にした。
「ううん、格好良いお店だね」
「お、あの格好良さが伝わったかー」
謙遜するでも無く自慢げに笑うケンに、レイさんは呆れた顔をして俺達に視線を向けた。
「先に入ってくれ」
レイさんの言葉に、ハルはすぐにこくりと頷いた。
「ああ、失礼」
「お邪魔しまーす」
促されるまま、ハル、俺の順番で建物の中へと入る。入ったらすぐにお店というわけでは無く、まるで普通のおうちのキッチンのような場所だった。
「はいはい、みんな座ってーお茶ぐらいは入れるから」
「その前に防音結界を張っても良いだろうか?」
「ああ、もち…」
「ケン、ちょっと黙って」
ハルの提案にケンが答えようとした瞬間、レイさんが言葉の続きを遮った。
「すまないが、防音結界を張る前に、失礼を承知で尋ねたい」
「ああ、なんだ?」
「君たちの正式な名前を聞きたいんだ」
失礼なのは分かっているが、俺はケンの安全を何よりも優先したいと続けたレイさんは、もし答えられないならこのまま追い出すと宣言した。
「なんだ、そんな事か」
そう答えるなり、ハルはあっさりともちろん答えようと頷いた。レイさんは本気かと言いたげな表情だったけど、ハルは気持ちは分かるからなとさらりと続けた。
あーうん、ハルの家族もハルも、伴侶を大事にする気持ちへの理解力が高そうだったもんな。伴侶愛が重めの一家みたいだったし。
むしろ今の質問で、ハルの中のレイさんへの好感度がすこし上がったのすら感じちゃったよ。
「俺の名前はハロルド・ウェルマールだ」
「ハロルド…だから愛称がハルなのかー」
納得したと楽しげに笑っているケンは、どうやら名前だけで領主一家の一人だとは分からなかったみたいだ。別に分からなくても全然良いんだけどね。
逆にレイさんは、大きく目を見開いたまま固まってしまっている。
「あれ?レイはどうした?」
不思議そうに尋ねたケンは、今は大丈夫かとレイさんの顔を覗き込んでいる。
「ケン!お前…名前を聞いても…何も気づかないのか…?」
嘘だろうと今にも叫びそうな表情を浮かべながらも器用にも小声で囁いたレイさんに、ケンはえーハロルドさんでしょ?と答えている。
「そっちじゃなくて!家族の名前の方だよ!」
「えっと…ウェルマール…て、あれ…領主様の名前って…ウェルマール?」
急に気づいてしまったらしいケンは、あわあわと口を開いたり閉じたりを繰り返している。
「え、でも本名?偽名って事はないか?」
慌て過ぎてハル本人の目の前でそんな事をこぼしたケンに、レイさんは絶望の表情で続けた。
「いや、俺遠目になら顔見た事あるんだよ…この色合いは、三男のハロルド様で間違いない…」
「えええ、そんな人を、こんな小さな店に連れ込んで大丈夫だったのかよ?」
ハッと気づいた様子の二人が、揃って俺とハルに視線を向けた。
「「失礼しました!」」
息がぴったりなのは分かったけど、そんなに焦らなくて大丈夫なのに。
「いや、まずは落ち着いてくれ。頼むから」
少し早めに依頼を終えたのか冒険者達の集団がいたり、良いものが手に入ったと嬉しそうに話している買い物客達がいたりとなかなかに賑やかだ。
そんなたくさんの人で溢れている大通りを、前を進むケンとレイさんの背中を追って進んでいく。
「すごい人だね」
「ああ、早朝と今ぐらいが一番混むからね」
そんな事をのんびりと話しながら歩いていると、不意に前を行く二人の足が止まった。
一緒になって立ち止まって見てみれば、そこには大通りに面しているにしてはすこし小ぶりなお店があった。あ、でも両隣の店が大きなお店だから、そう見えてるだけかもしれないな。
建物自体はこの街でよく見かけるヴァコクの黒い木を使った建物なんだけど、大きな窓にかけられているカーテンがわりの布は濃いめの赤色だ。
黒と赤が映えるせいか、不思議と洗練された格好良さだ。
「アキト、ハルさん、こっち」
そう言って案内されたのは、店の横にある狭い狭い路地だ。店の関係者以外通ろうとはしないだろうなと思うほど狭い道を、横向きになって歩いて通る。
「ごめんな、定休日は表を開けると面倒だから」
ケンは裏口にあたるドアの鍵を開けながら、そう口にした。
「ううん、格好良いお店だね」
「お、あの格好良さが伝わったかー」
謙遜するでも無く自慢げに笑うケンに、レイさんは呆れた顔をして俺達に視線を向けた。
「先に入ってくれ」
レイさんの言葉に、ハルはすぐにこくりと頷いた。
「ああ、失礼」
「お邪魔しまーす」
促されるまま、ハル、俺の順番で建物の中へと入る。入ったらすぐにお店というわけでは無く、まるで普通のおうちのキッチンのような場所だった。
「はいはい、みんな座ってーお茶ぐらいは入れるから」
「その前に防音結界を張っても良いだろうか?」
「ああ、もち…」
「ケン、ちょっと黙って」
ハルの提案にケンが答えようとした瞬間、レイさんが言葉の続きを遮った。
「すまないが、防音結界を張る前に、失礼を承知で尋ねたい」
「ああ、なんだ?」
「君たちの正式な名前を聞きたいんだ」
失礼なのは分かっているが、俺はケンの安全を何よりも優先したいと続けたレイさんは、もし答えられないならこのまま追い出すと宣言した。
「なんだ、そんな事か」
そう答えるなり、ハルはあっさりともちろん答えようと頷いた。レイさんは本気かと言いたげな表情だったけど、ハルは気持ちは分かるからなとさらりと続けた。
あーうん、ハルの家族もハルも、伴侶を大事にする気持ちへの理解力が高そうだったもんな。伴侶愛が重めの一家みたいだったし。
むしろ今の質問で、ハルの中のレイさんへの好感度がすこし上がったのすら感じちゃったよ。
「俺の名前はハロルド・ウェルマールだ」
「ハロルド…だから愛称がハルなのかー」
納得したと楽しげに笑っているケンは、どうやら名前だけで領主一家の一人だとは分からなかったみたいだ。別に分からなくても全然良いんだけどね。
逆にレイさんは、大きく目を見開いたまま固まってしまっている。
「あれ?レイはどうした?」
不思議そうに尋ねたケンは、今は大丈夫かとレイさんの顔を覗き込んでいる。
「ケン!お前…名前を聞いても…何も気づかないのか…?」
嘘だろうと今にも叫びそうな表情を浮かべながらも器用にも小声で囁いたレイさんに、ケンはえーハロルドさんでしょ?と答えている。
「そっちじゃなくて!家族の名前の方だよ!」
「えっと…ウェルマール…て、あれ…領主様の名前って…ウェルマール?」
急に気づいてしまったらしいケンは、あわあわと口を開いたり閉じたりを繰り返している。
「え、でも本名?偽名って事はないか?」
慌て過ぎてハル本人の目の前でそんな事をこぼしたケンに、レイさんは絶望の表情で続けた。
「いや、俺遠目になら顔見た事あるんだよ…この色合いは、三男のハロルド様で間違いない…」
「えええ、そんな人を、こんな小さな店に連れ込んで大丈夫だったのかよ?」
ハッと気づいた様子の二人が、揃って俺とハルに視線を向けた。
「「失礼しました!」」
息がぴったりなのは分かったけど、そんなに焦らなくて大丈夫なのに。
「いや、まずは落ち着いてくれ。頼むから」
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