生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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903.枯れない花

「どうぞー遠慮なく好きなように見て回ってね」

 ニコニコ笑顔のケンにそう言われた俺とハルは、木彫りに服のすそが触れないようにと慎重に慎重にまずは真ん中にあるテーブルへと近づいた。

 繊細な作りの木彫りがたくさん並んでいる部屋なんだから、それぐらい気をつけないと怖い。

 こんなたくさん並んでる中を、ケンはよくあんなに無造作に歩いていけたなと感心してしまうぐらいの木彫りの量だ。

「うわぁ…」
「これはすごいな…」

 まじまじとテーブルの上の木彫りの像を観察した俺達は、思わずそんな声を洩らしてしまった。

 さっき遠くから見た時も繊細だなとは思ったんだよ。思ったんだけど、近くで見ると本当に息を呑むほど細かい細工が施されている。

「これとか本当に生きてるみたい」

 俺がそういって指差したのは、今にも動き出しそうな生き物の木彫りだ。

 これは猫科の何か…かな。ふさふさの長い尻尾をくるりと巻いたその生物は、優雅に伸びをしているところみたいだ。

 その隣に置かれているのは、パッと見た感じでは犬っぽい生物だ。なんで犬っぽいかと言うと、背中に鳥らしき羽が生えてるんだよね。だから絶対にこれは犬じゃないと断言できてしまう。

 羽つきワンコは上目遣いにこちらを見上げながら、小さく舌を出している。うーん、あざと可愛い仕草で、犬好きならすぐに買ってしまう見た目だな。

 さらにその横にはふわふわの長い耳をぴんっと立てた、うさぎらしき生き物の像も並んでいる。

「この辺りは、普通の動物と害のない魔獣だよ」
「え、そうなの?」
「危険な魔物の像は駄目って言われたから、作れないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ、これはどの領でもそうだと思うよ」

 なんでも危険な魔物を身近に感じるようになってはいけないからと、魔物を像や絵に描く事は禁止されているらしい。唯一の例外が魔物図鑑の絵だというから、徹底されているんだな。

「ちなみにこの辺りのは、意外にも冒険者とか騎士団員に人気だね」
「え、冒険者とか騎士団員に?」

 こんなに可愛らしい像が?と思わず首を傾げた俺に、ケンは本当だよと笑って教えてくれた。癒しが欲しいけど、家で生き物を育てる余裕は無いというのがその理由らしい。

 冒険者も騎士団員も、依頼や任務で家を開ける事も多いだろうからね。

「これが欲しいとかあれが欲しいとか要望を聞いてたら、増えてきたんだー」

 しかも彫るのが楽しくなってくると、生物ごとに色々な種類を作ったりもしちゃうらしい。

 ちなみにあの猫科の生き物は、お客さんの要望は寝てるとこだったんだって。でもどうせなら伸びも作りたいなって作ってみたそうだ。猫と言えば伸びも作りたくなる気持ちは分かる。

「俺はこれが特にすごいと思ったな」

 ハルがそう言ってそっと手を向けたのは、まるで本物のように見える葉脈まで彫り込まれた美しい花々だ。

「うわーこれもすごいね!」
「ああ、これはあまり人気は無いんだけど、俺の趣味でねー」

 こだわりが詰まってるんだよーとケンは自慢げに続けた。

「人気は無いのか?」

 不思議そうに尋ねるハルに、ケンは生花の方が安く手に入るからねと苦笑を洩らした。

「俺は贈り物や部屋の飾りに、枯れない花というのも良いと思ったんだが…」
「ハロルド様!」

 ついさっきまで静かだったレイさんが急に何の前触れもなく叫んだので、俺達は三人揃ってビクッと身体を揺らしてしまった。

「枯れない花という言葉、すごく良いですね!」
「そ、そうか…?」

 あ、珍しくハルもちょっと引いてる。

「その路線で売り込みをさせて頂いても良いでしょうか?」
「ああ、別に構わないよ。ただの思いつきだし」
「お礼を考えておきますね」
「それは必要無いよ」
「いえ、これは確実に売れます!」

 物々と何かを呟きながらあれこれと考え始めた様子のレイさんに、ケンは苦笑を洩らした。

「あーごめんね、レイが」
「いや、彼は販売担当なのか?」

 参考になったなら嬉しいと笑ったハルに、ケンはふるふると首を振ってから答えた。

「販売も担当だね」
「も…という事は他にも何か彼が担当している事がある…と?」
「へへーそれが俺の店の一番の売れ筋に関わってくるんだよー」

 ケンは悪戯っぽく笑うと、こっちこっちと俺達を手招いた。
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