904 / 1,561
903.枯れない花
「どうぞー遠慮なく好きなように見て回ってね」
ニコニコ笑顔のケンにそう言われた俺とハルは、木彫りに服のすそが触れないようにと慎重に慎重にまずは真ん中にあるテーブルへと近づいた。
繊細な作りの木彫りがたくさん並んでいる部屋なんだから、それぐらい気をつけないと怖い。
こんなたくさん並んでる中を、ケンはよくあんなに無造作に歩いていけたなと感心してしまうぐらいの木彫りの量だ。
「うわぁ…」
「これはすごいな…」
まじまじとテーブルの上の木彫りの像を観察した俺達は、思わずそんな声を洩らしてしまった。
さっき遠くから見た時も繊細だなとは思ったんだよ。思ったんだけど、近くで見ると本当に息を呑むほど細かい細工が施されている。
「これとか本当に生きてるみたい」
俺がそういって指差したのは、今にも動き出しそうな生き物の木彫りだ。
これは猫科の何か…かな。ふさふさの長い尻尾をくるりと巻いたその生物は、優雅に伸びをしているところみたいだ。
その隣に置かれているのは、パッと見た感じでは犬っぽい生物だ。なんで犬っぽいかと言うと、背中に鳥らしき羽が生えてるんだよね。だから絶対にこれは犬じゃないと断言できてしまう。
羽つきワンコは上目遣いにこちらを見上げながら、小さく舌を出している。うーん、あざと可愛い仕草で、犬好きならすぐに買ってしまう見た目だな。
さらにその横にはふわふわの長い耳をぴんっと立てた、うさぎらしき生き物の像も並んでいる。
「この辺りは、普通の動物と害のない魔獣だよ」
「え、そうなの?」
「危険な魔物の像は駄目って言われたから、作れないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ、これはどの領でもそうだと思うよ」
なんでも危険な魔物を身近に感じるようになってはいけないからと、魔物を像や絵に描く事は禁止されているらしい。唯一の例外が魔物図鑑の絵だというから、徹底されているんだな。
「ちなみにこの辺りのは、意外にも冒険者とか騎士団員に人気だね」
「え、冒険者とか騎士団員に?」
こんなに可愛らしい像が?と思わず首を傾げた俺に、ケンは本当だよと笑って教えてくれた。癒しが欲しいけど、家で生き物を育てる余裕は無いというのがその理由らしい。
冒険者も騎士団員も、依頼や任務で家を開ける事も多いだろうからね。
「これが欲しいとかあれが欲しいとか要望を聞いてたら、増えてきたんだー」
しかも彫るのが楽しくなってくると、生物ごとに色々な種類を作ったりもしちゃうらしい。
ちなみにあの猫科の生き物は、お客さんの要望は寝てるとこだったんだって。でもどうせなら伸びも作りたいなって作ってみたそうだ。猫と言えば伸びも作りたくなる気持ちは分かる。
「俺はこれが特にすごいと思ったな」
ハルがそう言ってそっと手を向けたのは、まるで本物のように見える葉脈まで彫り込まれた美しい花々だ。
「うわーこれもすごいね!」
「ああ、これはあまり人気は無いんだけど、俺の趣味でねー」
こだわりが詰まってるんだよーとケンは自慢げに続けた。
「人気は無いのか?」
不思議そうに尋ねるハルに、ケンは生花の方が安く手に入るからねと苦笑を洩らした。
「俺は贈り物や部屋の飾りに、枯れない花というのも良いと思ったんだが…」
「ハロルド様!」
ついさっきまで静かだったレイさんが急に何の前触れもなく叫んだので、俺達は三人揃ってビクッと身体を揺らしてしまった。
「枯れない花という言葉、すごく良いですね!」
「そ、そうか…?」
あ、珍しくハルもちょっと引いてる。
「その路線で売り込みをさせて頂いても良いでしょうか?」
「ああ、別に構わないよ。ただの思いつきだし」
「お礼を考えておきますね」
「それは必要無いよ」
「いえ、これは確実に売れます!」
物々と何かを呟きながらあれこれと考え始めた様子のレイさんに、ケンは苦笑を洩らした。
「あーごめんね、レイが」
「いや、彼は販売担当なのか?」
参考になったなら嬉しいと笑ったハルに、ケンはふるふると首を振ってから答えた。
「販売も担当だね」
「も…という事は他にも何か彼が担当している事がある…と?」
「へへーそれが俺の店の一番の売れ筋に関わってくるんだよー」
ケンは悪戯っぽく笑うと、こっちこっちと俺達を手招いた。
ニコニコ笑顔のケンにそう言われた俺とハルは、木彫りに服のすそが触れないようにと慎重に慎重にまずは真ん中にあるテーブルへと近づいた。
繊細な作りの木彫りがたくさん並んでいる部屋なんだから、それぐらい気をつけないと怖い。
こんなたくさん並んでる中を、ケンはよくあんなに無造作に歩いていけたなと感心してしまうぐらいの木彫りの量だ。
「うわぁ…」
「これはすごいな…」
まじまじとテーブルの上の木彫りの像を観察した俺達は、思わずそんな声を洩らしてしまった。
さっき遠くから見た時も繊細だなとは思ったんだよ。思ったんだけど、近くで見ると本当に息を呑むほど細かい細工が施されている。
「これとか本当に生きてるみたい」
俺がそういって指差したのは、今にも動き出しそうな生き物の木彫りだ。
これは猫科の何か…かな。ふさふさの長い尻尾をくるりと巻いたその生物は、優雅に伸びをしているところみたいだ。
その隣に置かれているのは、パッと見た感じでは犬っぽい生物だ。なんで犬っぽいかと言うと、背中に鳥らしき羽が生えてるんだよね。だから絶対にこれは犬じゃないと断言できてしまう。
羽つきワンコは上目遣いにこちらを見上げながら、小さく舌を出している。うーん、あざと可愛い仕草で、犬好きならすぐに買ってしまう見た目だな。
さらにその横にはふわふわの長い耳をぴんっと立てた、うさぎらしき生き物の像も並んでいる。
「この辺りは、普通の動物と害のない魔獣だよ」
「え、そうなの?」
「危険な魔物の像は駄目って言われたから、作れないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ、これはどの領でもそうだと思うよ」
なんでも危険な魔物を身近に感じるようになってはいけないからと、魔物を像や絵に描く事は禁止されているらしい。唯一の例外が魔物図鑑の絵だというから、徹底されているんだな。
「ちなみにこの辺りのは、意外にも冒険者とか騎士団員に人気だね」
「え、冒険者とか騎士団員に?」
こんなに可愛らしい像が?と思わず首を傾げた俺に、ケンは本当だよと笑って教えてくれた。癒しが欲しいけど、家で生き物を育てる余裕は無いというのがその理由らしい。
冒険者も騎士団員も、依頼や任務で家を開ける事も多いだろうからね。
「これが欲しいとかあれが欲しいとか要望を聞いてたら、増えてきたんだー」
しかも彫るのが楽しくなってくると、生物ごとに色々な種類を作ったりもしちゃうらしい。
ちなみにあの猫科の生き物は、お客さんの要望は寝てるとこだったんだって。でもどうせなら伸びも作りたいなって作ってみたそうだ。猫と言えば伸びも作りたくなる気持ちは分かる。
「俺はこれが特にすごいと思ったな」
ハルがそう言ってそっと手を向けたのは、まるで本物のように見える葉脈まで彫り込まれた美しい花々だ。
「うわーこれもすごいね!」
「ああ、これはあまり人気は無いんだけど、俺の趣味でねー」
こだわりが詰まってるんだよーとケンは自慢げに続けた。
「人気は無いのか?」
不思議そうに尋ねるハルに、ケンは生花の方が安く手に入るからねと苦笑を洩らした。
「俺は贈り物や部屋の飾りに、枯れない花というのも良いと思ったんだが…」
「ハロルド様!」
ついさっきまで静かだったレイさんが急に何の前触れもなく叫んだので、俺達は三人揃ってビクッと身体を揺らしてしまった。
「枯れない花という言葉、すごく良いですね!」
「そ、そうか…?」
あ、珍しくハルもちょっと引いてる。
「その路線で売り込みをさせて頂いても良いでしょうか?」
「ああ、別に構わないよ。ただの思いつきだし」
「お礼を考えておきますね」
「それは必要無いよ」
「いえ、これは確実に売れます!」
物々と何かを呟きながらあれこれと考え始めた様子のレイさんに、ケンは苦笑を洩らした。
「あーごめんね、レイが」
「いや、彼は販売担当なのか?」
参考になったなら嬉しいと笑ったハルに、ケンはふるふると首を振ってから答えた。
「販売も担当だね」
「も…という事は他にも何か彼が担当している事がある…と?」
「へへーそれが俺の店の一番の売れ筋に関わってくるんだよー」
ケンは悪戯っぽく笑うと、こっちこっちと俺達を手招いた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。