生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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911.【ハル視点】警戒される理由は

「おふたりともどうぞこちらに座ってください」

 緊張感の残る硬い声でそう言うと、レイさんはぎこちない動きで椅子を勧めてくれた。よく見ると指先が震えているのが分かった。

「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 お礼の言葉を言って俺達は素直に横並びの椅子に座ったけど、レイさんはまだその場に立ったままだ。

 俺達と同じ時にケンさんはいそいそと座っていたから、室内に立っている人はレイさんだけという状態だ。

 執事のごとく背筋を伸ばして立ち尽くしているレイさんに、客である俺達から座って下さいというのも変だよな。

 どうしようかとアキトに視線を向けてみたが、アキトもどうすれば良いのか分からないようだ。こそこそと視線だけで会話を交わしていると、不意にケンさんが口を開いた。

「なぁ、レイ」
「ん?どうした、ケン」

 反射的に答えたらしいレイさんに、ケンさんは楽し気に続ける。

「さっき途中で待てって言われたから、実はまだ大事なお客さん達に飲み物の一つも出してないんだけど…」

 大丈夫なのかな?と言い出しそうな心配そうな顔をしたケンさんを見て、レイさんはハッとした表情に変わった。

「もちろん俺が用意しても良いんだけど、レイの方がお茶入れるの上手いよね?」

 さすが伴侶候補というべきか、レイさんを上手く誘導する姿にアキトと二人で感心してしまった。

「そうだな。すぐに用意する!」

 レイさんはそう言うなり、アキトと俺に失礼しますと声をかけてから奥の方へと入っていった。

 レイさんが去って行った方をじっと見守っていたアキトは、ちらりと厨房を見た。

「ああ、心配しなくても多分良い茶葉とお菓子でも探しに行っただけだよ」
「あ、そうなんだ」

 ホッとした様子のアキトの隣で、俺も一緒になってホッと息を吐いた。

「まさかあそこまで動揺させてしまうとは…レイさんには申し訳ない事をしたな」

 かといって偽名を名乗るなんていう選択肢は無かったから、どうしようも無いんだが。俺は苦笑しながら、ケンさんに向かってそう声をかけた。

「ああ、いや、それは気にしなくて良いよ…ただ…俺がねー貴族相手の対応とかそういうのすごく苦手なんだけど…大丈夫かな?」

 そういうの慣れてないからさーと苦笑しながらも真剣な表情で続けたケンさんに、俺はむしろ軽い口調で話してくれた方が嬉しいくらいだと即答した。

 貴族という身分が無い国出身だというのはアキトから聞いて知っているし、もしここで完璧に貴族に対する対応をされた方が、本当に異世界人なのかと疑ったかもしれない。

「あー良かった!敬語ぐらいは喋れるけどさ、貴族相手の対応とか知らないし。アキトの伴侶候補は優しいね?」
「え、うん、ハルは優しいよ」

 照れくさそうに笑いながら、でも即座に同意するアキトの可愛らしさときたら。

「ケンさんのおかげでアキトに褒められたよ」

 ありがとうと声をかけながら、自然と笑みがこぼれてしまった。

「だが俺はケンさんの伴侶候補のレイさんも、すごい人だと思うよ?」
「へ?あんなに分かりやすく緊張してたのに?」

 思わずと言った様子でそう尋ねたケンさんに、俺は笑ってコクリと頷いた。

「ああ。ここに到着するなり、俺の素性について尋ねただろう?」
「うん、そうだったね」
「それまでは移動中もずっと、常に俺とケンさんの間に立つように立ち回ってたからね」

 アキトについては特に危険視しなかったのは、ケンさんの同郷だと信じたからだろうか。

「え…そうなの?アキト気づいてた?」
「ううん、全く気づいてなかった」

 アキトは気づいてなかったのか。

「しかもきちんと気配探知をかけながらだったよ。それに俺が気づいたから、余計に警戒させたんだと思うんだ」
「あー…なるほど。普段はあんな聞き方をする奴じゃないから、ちょっと意外だったんだよね…」
「気配探知に気づいた事で俺の強さを察した上で、それでも直球で尋ねてしまうぐらいレイさんは君を守ろうとしているって事だからね」

 やっぱりすごい人だよ。そう続けた俺に、ケンさんは照れくさそうに、でも嬉しそうに満面の笑みを見せた。まるで無邪気なこどものような笑顔に、本当にアキトより俺との方が年齢が近いんだろうかと首を傾げてしまった。

「お待たせしました!茶葉とお菓子をお持ちしました!」

 慌てた様子でトレイを掲げて帰ってきたレイさんに、ケンさんはちらりと視線を向けた。アキトと俺はそんなケンさんの様子を、何も言わずに微笑ましく見守っていた。

「ん?どうした?」
「いや、なんでも?俺の伴侶候補は良い男だなーと思って?」

 ケンさんの言葉があまりに予想外だったのか、レイさんはボッと分かりやすく耳まで真っ赤になった。 

「は?何だ急に!」

 俺の名前を聞いた時よりもかなりの大慌てをしているレイさんに、俺とアキトは顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
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