生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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913.【ハル視点】隣国への怒り

 ケンさんは遡る事十年ほど昔、当時異世界召喚を頻繁に行っていたあの隣国で召喚されたそうだ。

「いやーあの時はびっくりしたよ。電車で通勤中にうたたねしちゃってさー寝て起きたら複雑な魔法陣の上だったんだから。スーツ姿で召喚されたのは、神殿みたいな雰囲気の豪華な部屋の中だったよ」

 ケンさんは苦笑しながらそう続けた。

 電車とは俺達の世界でいう馬車のような移動手段で、スーツとは仕事時の一般的な正装だよとアキトが横から教えてくれた。俺とレイさんは感謝の目礼を送りながら、ケンさんに視線を戻した。

「いきなりだったからさ――ここはどこだって慌てる俺に、召喚を行ったらしい数人の男達は冷たい声で尋ねたんだ。お前には一体何ができるのか、今すぐに答えろって」

 隣に立っているレイさんの拳に、ぎゅっと思いっきり力がこもったのが見えた。

 ケンさんを大事に想っているレイさんからすれば、確かに許しがたい事だろう。たとえ過去の話だと分かっていても、割り切れるわけがない。

「なんだそれは…あまりにもひどいな…」

 断りもなくいきなり異世界から召喚しておいて、その質問は無い。そう思いながらボソリと呟いた俺に、ねーかなりひどいよねとケンさんは笑って答えた。

「一方的に勝手にこっちの世界に連れてきておいて、説明も無しにお前には何ができるーだよ?」

 まあ俺はゲームとか漫画とか小説とか色々好きなもののあるオタクだったから、すぐに異世界召喚だって察したけどさーとケンさんはさらりと続けた。

 ケンさんの話には意味のよく分からない言葉がいくつか混じっているが、今回はアキトも言葉の意味を教えている余裕は無かったようだ。

「召喚されて戸惑ってるのに、急にそんな事言われても…困るよね…」

 アキトはつらそうな顔で、ケンさんにそう声をかけた。

「あれはかなり困ったねー俺は別に何かができる腕の立つ職人だとか美味しい料理が作れる一流の料理人だとかじゃなかったから。だからこう分かりやすい、できる事って特になかったんだよ」

 二人はポンポンと異世界の単語を使って話しだした。俺もレイさんもよく分からないまま聞いているだけだが、ここで口を挟むわけにもいかない。

「ああー確かにパソコンが無いと、それは無理だね」

 ぱそこんというのが何かは分からないが、便利な魔道具か何かだろうか。

「だからパソコンがあれば色々できるけど、ここにパソコンはあるのか?って答えたんだよ。ちなみにそれに対する答えは、この役立たずとか外れを引いたとかだったなー」

 ケンさんはあまりにも普通の声色でさらりとそう続けたが、レイさんはつらそうに眉間にぎゅっとしわを寄せた。

「それで…どうなったんだ?」

 直接関わりの無い俺ですら、聞いているだけでも腹が立つんだからつらいに決まっているよな。隣国のそいつらはきちんと処罰を受けているんだろうか。

「それがさー俺は結構運が良かったみたいで、召喚されて一週間しないぐらいで何人か一緒に逃がされたんだ」
「逃がされた?」
「そうそう、召喚に頼るのを良しとしてなかった隣国の貴族の人に連れられて、この領に来たってわけ」

 ああ、なるほど。つまりケンさんも俺の両親が言っていた、この領で保護された異世界人達の中の一人なのか。

「そうなんだ」
「あの時、俺達の保護を約束してくれた人って、多分ハルさんのお祖父さんだと思うんだけどね」
「え、どんな人だった!?」

 興味深そうに尋ねたアキトに、ケンさんは明るく答えた。

「ハルさんに似てたよ。あ、でももっと体格は良かったかな。圧倒されるぐらいすっごい強そうな人だったけど、俺達異世界人の頭を撫でてもう安心して良いよって言ってくれたんだ」

 もう成人してたのにあの優しくて温かい手にはちょっと泣いたと、照れくさそうに教えてくれた。

 そうか、お爺様が。

 お爺様が異世界人を保護していた事すら最近ようやく知った俺だが、そういえばお爺様はよく俺達兄弟の頭を撫でてくれていたな。

 温かい手だったと懐かしく思い出す。一体、今はどこを旅しているんだろうか。

「こっちの領で保護された後はね、何か得意な事が無いかって本当に色んな事に挑戦させてもらったんだ」

 そうして数年かけて色々と試している間に、元の世界にいた頃には自分でも知らなかった手先の器用さに気が付いたらしい。

「試しにと木彫りの像を作ってみたら、これはすごいってすっごい褒められたんだ」

 才能があるかもなんて初めて言われたから嬉しくて、ワクワクしながら彫り続けていたら気づいたらこんな店を持つまでになっていたそうだ。

「すごいね、ケン」

 アキトに褒められたケンさんは、うっすらと笑みを浮かべた。

「そうか?」
「ああ。自分で出来ることを見つけて店まで持ったんだ、自慢して良いだろう」

 俺も横から、そう言葉を添える。その努力は誇って良い事だと思う。

「…俺もそう思う」

 真剣な表情のレイさんにまでそう言われたケンさんは、照れくさそうに笑いながらもありがとうと呟いた。

「二人はいつ知り会ったんだ?」
「ああ、レイとの出逢いは五年前だね」

 なんでも異世界人を保護していた建物に迷い込んだまだ少年だったレイさんが、ケンさんに一目惚れして全力で口説き続けたらしい。

 恥ずかしいからとあまり詳しい話は聞けなかったが、二人して幸せそうな笑顔に良い出会いが出来て良かったなと心から思った。
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