生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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917.【ハル視点】異世界の話

 先導するように歩いていたケンさんは、部屋の壁に作りつけられている棚の前でぴたりと立ち止まった。

 木製のドアは今はきっちりと閉められていて、中に何が入っているかまではまだ分からない。

「これがうちの主力商品なんだ」

 ケンさんの手によって、棚のドアがゆっくりと開かれていく。中に並んでいたのは、色鮮やかな細かい着色が施された木彫りだった。

 元々染められている木を彫ったものなら見た事があるが、こんなに色鮮やかに着色されている木彫りは初めて見たな。

「わーカラフルで綺麗!」

 アキトは嬉しそうに声をあげた。

「なんでかこっちの木彫りの置物って木目そのままだからさー色つけてみたくて、試行錯誤したんだよ」

 なんでも最初は、木彫りの上にとりあえず色を塗ってみたらしい。だが上から色を塗っただけでは、木彫りの良さまで無くなってしまったそうだ。

「何ていうかのっぺりした印象になっちゃってさー」
「あーなるほど」
「そこからは塗料の改良をしつつ、木目もあるけど色をつけるっていう方向性になったんだ」
「でもこれ見れば見るほどすごいね」

 アキトは口を抑えたままそっと近づくと、至近距離からまじまじと眺めている。

 確かにこれはすごいな。よくよく見ると木目も見えるぐらいの淡い色合いで、けれどしっかりと色が着けられている。

「これの着色が、レイの担当なんだ」
「えーレイさんすごい!」
「ああ、ありがとう。最初は絶対に無理だと拒否してたんだが、ケンと一緒に作品を作れると言われるとな…」

 ああ、それを言われると弱いな。俺ももしアキトと一緒に何かをしようと誘われたら、不可能だと思う事でも全力で挑戦するだろう。

「あーそれは自分でできる限りの力を振り絞ってでも頑張ろうと思うな」
「ですよね…何でも叶えたくなると言うか」

 苦笑しながらそう続けたレイさんに、俺はうんうんと頷いた。

「すごくよく分かるよ」

 特別な人のお願いなら、全力で叶えるに決まっている。

「色付きのお花は無いの?」

 アキトはキョロキョロと棚の上を見回してから、ケンさんにそう尋ねた。

「あ、そういえば無いな。レイ、なんで花は塗ってないの?」

 これを塗って欲しいとケンさんが言うわけではなく、ケンが彫ったものの中からレイさんが塗りたいものを選んで色を塗っているらしい。

「ああ、そうだな。枯れない花のためには、花も塗るべきだな…」

 塗るとしたらどの花から塗るべきだろうかと、レイさんはまたブツブツと呟き始めた。

 レイさんは言葉にして考えを整理する人なんだなと思っただけだが、ケンさんは少し申し訳なさそうに俺とハルを見つめた。

「あーごめん、またブツブツ言い出しちゃった…」
「気にするな」
「うん、気にしなくて良いよ」
「ありがとう。よし、普段は見せないのも見せよっかな」
「え、良いの?」
「良いよ良いよ、二人ともこっち来てー」

 ケンさんはそう言うなり、いそいそと住居部分へと戻り始めた。まだレイさんは店内に立ったままなんだが、良いんだろうか。

「ああ、ひと段落したら来るから気にしなくて良いよ」



 そうして辿り着いたのは、二階の隅にある部屋のドアの前だった。普通の家には不釣り合いなほど、厳重な鍵がいくつも掛けられている。

「この鍵は…」
「ここはね、見せたら俺が異世界人だってバレる部屋だから。まあ二人は問題ないから気にしないで」

 ガチャリと音を立てて、部屋の鍵が開く。ケンさんはさっと入っていくと、今回もすぐに灯りをつけてくれた。

 それほど広くないその部屋には、壁一面にたくさんの棚が作りつけられている。その棚に並んでいるのは、美しく着色された人や動物の像だ。

「これはまた精巧な木彫りだな」

 確かに見た事のない生物の木彫りもいくつかあるが、それ以外は普通の木彫りに見える。

 どうしてこれで異世界人だとバレるんだろうか?

「うわーこれスライム!?」

 不意にアキトが声をあげながら指差したのは、頭の隅がとがった不思議な形状の物体だった。気の抜ける顔が彫られているそれを、アキトはスライムと呼んだ。

 俺の知っているスライムとは全く違うものだ。

 アキトの世界に魔物はいないと言っていたがと首を傾げていると、ケンさんが俺達の世界にあるゲームに出てくる想像上の魔物だよと教えてくれた。

 なるほど、そういう事か。

「これって木彫りっていうより…フィギュアだね!」
「そうなんだよ!こっちは元の世界の俺の好きな作品のやつなんだ。覚えてる間に作りたくて作ったは良いけど、外に出したら色々バレるからさ」

 ケンさんは苦笑しつつも、真剣な目になって続けた。

「自分が異世界人ってバレるのも問題だけど、誰かがそれに釣られてバレてしまうのはもっともっと問題だろ」

 ケンさんはそう考えた結果、異世界の物を彫った木彫りは全てここに隠しているらしい。

「あ、これ知ってる」

 トゲトゲのついた植物のような物を指差したアキトに、ケンさんは嬉しそうに答えた。

「お、こっちはどうだ?」
「これって…上手に焼けましたーのやつ?」
「そうそう!伝わって良かったー」

 二人は異世界の思い出を辿るかのように、楽しそうにゲームの話を続けている。

「こんなに楽しそうなケンは久しぶりに見ます」

 静かに追いついてきていたレイさんは、俺の隣に立つとぽつりとそう呟いた。

「俺もアキトのこんなにはしゃいだ姿は久しぶりだよ」
「もし良ければ、これからもケンと仲良くしてやってください」
「もちろん。多分アキトはもうケンさんとは友達だって言うと思うよ」
「ケンもきっと親友だとか言い出しますよ」

 楽しそうな二人のやり取りを邪魔しないように小声で言い合ってから、俺達はふわりと笑みを浮かべた。
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