生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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919.読書会

 ウェルマール領主城に滞在してから五日目には、ジルさんとキースくん、それにハルと一緒に読書会を開催する事になった。

 俺も本を読むのは好きだって言いきれるけど、読書会なんてした事がないんだよね。

 具体的には一体何をするんだろう?

 楽しめるかなと始まる前は少しだけ心配だったんだけど、いざ始まってしまえばとっても楽しい時間だった。



 ハルの家族のいう読書会というのは、まずそれぞれが好きな本を何冊かずつ持ち寄って部屋の棚に置くところから始まる。

 誰が持ってきた本かは、その時点では秘密なんだよね。受け取って棚に置いてくれるのはメイドさん達だから、本当に誰の本かは分からないんだ。

 棚を見て回ってもし気になるものがあったら、とりあえず最初の数ページだけ読んでみるんだ。

 それでもしもっとちゃんと読みたいと思った本があったら、持ち主と交渉して貸し借りするんだって。

 この世界では本が高価だから、辺境領ではこうやってたくさんの本に触れられるようにしてるらしい。

 正直貴族かつ領主一家の人なら、本ぐらいはポンポン買えるだろうけどね。でもこうやって貸し借りするのを楽しんでいるみたいだ。



「アキトさん、気になる本はありましたか?」

 ある程度の時間が過ぎた所で、俺にそう声をかけてくれたのはジルさんだ。

「あ、俺はこれがちゃんと読みたいなと思いました」

 手あたり次第に何冊か読んでみたんだけど、特に俺が気に入ったのは薬草採取を趣味としているすこし変わった商人さんが主人公のお話だ。

「ああ、シオーヌの薬草探索ですね。私の本です」

 これ、ジルさんの本なのか。

 ちょっと目を通した序盤だけでも、知ってる薬草の名前がいくつか出てきたんだよね。しかもハルに聞いた葉の形とか、採取の仕方まできっちり合ってる。

 もしかして、これって実在してる薬草をきちんと調べて書いてるのかな?

「あの…薬草の説明がすっごく細かいんですけど…これってもしかして全部実在の薬草なんですか?」
「ええ、実在している薬草しか登場しないように、こだわって書かれている作品なんですよ」

 じゃあ読むだけで薬草の勉強にもなるって事か。

 主人公の商人シオーヌさんは特に戦闘が得意なわけでもないのに、珍しい薬草があると聞けばどんな危険な場所にも飛び込んで行ってしまう。凄腕の護衛の兄弟からは、いつももっと自分の身の安全を考えろと怒られている。

 でもごめんごめんと謝りながら、また繰り返すんだけどね。

 ずっと笑顔を浮かべていて楽しそうに薬草について語る姿が、不思議と憎めない魅力的なキャラだ。

「この本って、薬草の勉強にもなりそうですね」
「なると思いますよ。実際私も勉強になりましたから」

 ふふと笑ったジルさんは、ぜひ読んでみてくださいねと笑顔で本を貸し出してくれた。

 ハルが選んだ本は、どうやらキースくんの秘蔵の魔物図鑑だったみたいだ。

「これは特に寒い地域の魔物について書かれてるんだ」

 この辺りでは滅多に出てこない魔物も多いんだけど、知っておくのは良い事でしょう?と笑ったキースくんの頭を、ハルの手が優しく撫でている。

「借りて良いのか?」
「うんっ!読んでみて!もし見た事のある魔物がいたら僕に教えてね」
「ああ、もちろんだ」

 俺の持ってきたセスミアの旅行手記の続編は、前作が大好きだというキースくんが大興奮で貸してくださいと言ってくれた。

 ちなみにジルさんは、ハルの持ってきていた入手困難な素材が載った本を嬉々として借りてたよ。自分の隊で手に入れた素材を、上手く売りさばけそうだと笑ってた。



 それから、ジルさんが用意してくれていた読みやすい短編を全員で読んで、感想を言い合ったりもしたよ。

 ラスさんが腕を振るった飲み物やお菓子、軽食まで用意されていたから、まるでお茶会みたいなのんびりとした時間だった。

 それにしてもジルさんの頭が良いのは知ってたけど、キースくんも驚くほど頭の回転が早いんだな。こどもだって事をつい忘れてしまいそうなぐらい、しっかりとした感想だった。

 うん、さすがハルの兄弟だな。

 会が終わりかけの頃にはウィリアムさんも来てくれた。

「ジル、俺間に合った?」
「…もうそろそろ終わりにする時間ですよ」
「もうそろそろって事はつまり…ぎりぎりで間に合ったんだな!」

 パッと笑顔になったウィリアムさんに、まったくとジルさんは苦笑してた。

 でも皆であれこれと本の話をするのは、本当に楽しかった。
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