生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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934.【ハル視点】アキトの機転

 オ・アレシュのダンジョンは、この街の壁を出てしばらく街道沿いを歩くだけで着くぐらいの極めて近い位置に存在している。

 そう告げれば、アキトは驚いた様子を隠さなかった。

 他の場所のダンジョンはもっと山深い場所や、森の奥にあったりするからな。もし街から遠い場所にあれば、俺達も楽だったのかもしれない。

「そこに行くまでの道はどのぐらい危険なの?」

 冷静にまず初めにそう尋ねてくるアキトは、すっかり一人前の冒険者だな。

「途中で魔物に遭遇する可能性はあるんだが、街道沿いの魔物は優先的に倒されているからそれほど危険な道というわけでもないよ」

 むしろ街道から反れて森に入るよりは安全だからと、冒険者になりたてのうちはオ・アレシュのダンジョンで鍛えるというのがこの辺りの常識だ。そう伝えればアキトはまたしてもキラキラと目を輝かせた。

「ダンジョン…!」

 これはすごく興味がありますって顔だな。

「せっかくだし、アキトが気になるなら、これからすぐに向かおうか?」

 笑顔でそう提案してみれば、アキトはすぐさま頷いた。そうと決まれば用意でもするかと考えていると、不意にウィル兄さんがはーいと元気に手をあげた。

「ねえ、そのダンジョン探索、俺も一緒に行きたいなー?」

 今日は仕事が休みなんだけど、残念ながらジルは仕事だから退屈なんだよねーと、本当につまらなさそうな顔で続ける。

「ふむ…それなら、私も急ぎの書類仕事は既に終わったから、同行したいな」

 楽しそうだなと呟いたファーガス兄さんも、私も一緒に行きたいと主張し始めてしまった。

「それは良いな」

 背後から聞こえてきた声にアキトと揃って振り返れば、そこでは父さんが笑顔を浮かべていた。

 兄さん達はともかく、父さんまで来るのか?しかもオ・アレシュのダンジョンに?

「久しぶりにダンジョンに行くのも楽しそうだ」
「まさか全員で来るつもりですか?」

 わざと呆れ顔で尋ねてみたが、全員揃ってコクコクと頷かれてしまった。オ・アレシュのダンジョンを提案したのは父さんだし、アキトと二人きりが良いから来るなとも言い難いな。

 アキトを気に入っているからこその申し出だと分かるから、拒否もし難い。対応に悩んでいる間に、アキトが不思議そうに口を開いた。

「あー…あの…一緒にダンジョンに入ったら、もちろん途中で魔物と戦う事になりますよね?」
「ああ、そうだね」
「大丈夫だ。オ・アレシュのダンジョンの中には、そこまで強い魔物は出ない」
「そうそう。ハルがいれば20階層まで余裕で潜れるのに、俺達も行くなら過剰戦力なぐらいだよ」

 トライプール周辺に出る魔物とそう変わらないからと優しく教えているウィル兄さんに、アキトはそうじゃないんですとゆるりと首を振った。

「皆さんと一緒にダンジョンに行くのは楽しそうですが…俺が魔法を使うのを見てしまったら、それは魔法披露にはあたらないんでしょうか?」

 既に俺の魔法を知ってるハルはさすがに例外だと思うんですけどとそう付け加えたアキトに、父と兄達は全員揃ってぐっと黙り込んだ。

 あーうん、そうだな。それは間違いなく魔法の披露にあたるだろう。

 アキトと一緒にダンジョンデートと浮かれていたせいで、俺も全く気づいていなかった。

「…はぁ…うん、そうだな」

 しばらく経ってから、ぽつりとそう呟いたのは父さんだ。 

「ああ、母ならきっと、それは魔法披露だと言うだろうな」

 ファーガス兄さんは、いや、きっとじゃなくて確実に言うなと疲れた様子で続けた。

「アキトくん、教えてくれてありがとう!危ない所だったよー」

 ウィル兄さんは、助かったとしきりにお礼を言っている。俺以外の皆も、誰一人として気づいていなかったらみたいだ。

 もしアキトの機転がなかったら、危ない所だったな。

「アキト、母との約束を気にかけてくれてありがとう」

 多分母は怒るよりも拗ねると思うから気づいてくれて良かったと、俺はそっとアキトの頭を撫でた。いやこれは褒めたくてというよりも、ただ撫でたかっただけなんだが。

「いや、拗ねたグレースもそれはもう可愛いんだぞ?普段と違ってすこしこどもっぽくなってたまらない可愛さがあるんだ」

 さらりとそう惚気た父さんは、だがと言葉を続けた。

「許してもらえるまでが非常ーに長いんだ…本当にありがとう、アキトくん」
「い、いえ…」

 アキトの言葉のおかげで助かった助かったと言い合う皆の姿に、アキトは苦笑しながら何度も頷いていた。
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