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935.【ハル視点】辺境の街道は
三人からの感謝の言葉をたくさん受け取ったアキトと俺は、部屋に戻ると手早く用意をしてそのまま領主城を出発した。
もたもたしていたら、母との約束には含まれていないなんて理由で執事長のボルトや料理人のラスがついていくとも言い出しかねないからな。
このままアキトと一緒に二人きりでのダンジョン探索だ。
「みんなでダンジョンも楽しそうだけど、ハルと二人でってのも嬉しいな」
ぽつりとそう言ってくれたアキトの嬉しい言葉に、自然と笑みがこぼれてしまう。
「俺はどちらかと言うと二人きりの方がより嬉しいかな」
家族のことももちろん大事には思っているし特別なんだが、アキトは更にその上をいく特別だからな。
呆れられるかと思いながらこぼした本音に、アキトは幸せそうに笑って嬉しいと答えてくれた。
領主城前の森を最短距離で無事に通り抜けた俺達は、大勢の人で賑わっている大通りも通過して、そのまま街の入口にあたる大門を目指した。
辿り着いた大門前で、アキトはぽかんと口を開いて上を見上げている。大きな口がアキトの戸惑いを伝えてくるな。こどものような反応も可愛らしいなと微笑ましく見守っていると、不意にアキトが俺を振り返った。
「はー近くで見てもやっぱりおっきいね」
「ああ、ここの門の大きさは、確かに他の街とは違うからなかなか見慣れないかもな」
「あの開いてる扉も、他の街よりも厳つくて格好良いね」
辺境の名産であるヴァコクの木材が使われている扉は、どうやらアキトからすると格好良いものに分類されるようだ。
別の地域から来た旅人は物々しいと嫌がったり怖がる事もあるんだが、さすがアキトだな。
「アキトが気に入ったなら良かった」
アキトは初めて近くで見るウェルマール領の大門がよほど興味深かったのか、ウロウロと視線を動かしている。
楽しそうで何よりだなと微笑ましく見守りながら歩いていると、不意にアキトの視線が止まった。すこしだけ驚いた様子でまじまじと何かを見つめる姿に、そっと視線の先を追ってみる。
アキトが見つめているのは、俺達が魔法陣で転移してきた時にも出迎えてくれた衛兵だった。たしかアキトは根性があると褒めていたのは彼だろう。
そう考えながらぼんやりと見つめていると、その衛兵がちらりとこちらを見た。俺とアキトと目が合った瞬間、彼はニッと口元だけの笑みを浮かべる。
「ああ、あの人がいたのか」
「うん、こないだの人だよね」
そんな会話を交わしながらアキトが小さく手を振れば、さらに衛兵の笑みが深くなった。さすがに大門の警戒中に手を振り返すわけにもいかないからな。
にこやかに見送ってくれる衛兵に目礼を送って、俺とアキトは揃って大門を出た。
辺境領の街道は、他の地域と比べてもかなりの広さが確保されている。
他の街の街道も馬車が二台すれ違えるぐらいの幅はあるが、ここでは馬車三台が余裕ですれ違う事ができる広さだ。さらに街道の両脇には地面が剥き出しになった場所をわざと作ってあり、その向こう側に鬱蒼とした森が広がっている。
アキトはそんな見慣れない謎の空間に目敏く気づくと、不思議そうに観察している。
「これはね、魔物の不意打ち防止でこうしてあるんだ」
昔は街道の横がすぐに森だったが、その状態ではどうしても魔物の不意打ちを受けやすい。どんどん改良されていった結果、現在の形に落ち着いた。
「まあ辺境の生活の知恵だよ」
笑ってそう続ければ、アキトは感心した様子で何度もうなずいていた。。
ダンジョンを目指しての移動中、森の中を動いている魔物の気配は何度も感じたが、ほとんどの魔物は近寄ってこなかった。
街道に出ればすぐに狩られてしまうから街道は危険だ。そんな考えが魔物にも浸透しているのか、それともただアキトの運が良いからだろうか。
――どちらにしても、これならアキトに怖い思いをさせる事もなさそうだな。
そう考えていた油断が良くなかったのか、不意にこちらに向かって一直線に魔物の気配が近づいてきていることに気が付いた。
だがまあ、中型の魔物程度なら何の問題も無いか。
そんな俺の考えは、長い爪と鋭い牙を見せつけるように威嚇してきたセルシュベアを見て吹っ飛んだ。
まさかここでこいつが出てくるとは。
セルシュベアというこの魔物は、自分の気配を小さく見せる事に長けている。気配探知では中型程度にしか感知できないのに、実際には大型の魔物だという厄介な魔物だ。
俺とアキトが本気で挑めば余裕の相手ではあるが、今はあちらの方が既に攻撃態勢を取っているのが問題だ。
「セルシュベアだ!」
咄嗟に声を上げれば、アキトも反射的に身構えてくれた。さっと魔力を練ろうとするアキトの冷静さに感謝しながら剣に手をかけたが、それよりも先にちょうど前を歩いていた冒険者達が剣を抜いていた。
「お、ちょうど俺ベア系の爪素材が欲しかったんだよなー」
「俺は牙が欲しいな」
嬉しそうにそんな事を喋りながらあっさりと倒してしまった。うん、かなり良い腕だな。
「あ、もしかして獲物奪っちゃったか?」
身構えている俺達に気づいた彼らは、すこしだけ心配そうに尋ねてくる。なるほど、性格も良さそうだ。
アキトは少しだけ驚いた様子で、そんな冒険者達を見つめている。
「いや、問題ないよ。倒してくれてありがとう」
笑顔でそう答えれば、なら良かったと笑ってすぐさま解体を始めた。
あ、アキトの目の前で解体はと少しだけ焦ってしまったが、アキトはむしろ興味深そうにそんな彼らの動きを見つめていた。
「おや、セルシュベアですか」
不意に後ろから聞こえてきた声に振り返れば、そこには冒険者の護衛を連れた明らかに商人らしき男性が立っていた。
「そこの冒険者のお二人、もしよろしければ肉を売って頂けないですか?」
ニコニコ笑顔の男性は、この魔物のお肉はすごく美味しくて私の好物なんですと続けた。
「俺達は肉はいらないから良いよー」
「どのぐらい欲しいんだ?」
さくさくと解体を続けながら答えた冒険者たちに、商人の男性は相場よりも高い値段をつけたようだ。
「本当に良いのか?」
「ええ、鮮度が抜群ですからね!」
「あ、護衛ってお前か」
「ああ、久しぶり」
ああ、前を歩いていた奴らと、商人の護衛の冒険者は知り合いだったのか。
「護衛が馴染みのやつだって縁で…これぐらいかな?」
「こちらこそ本当に良いんですか?」
どちらも嬉しそうな取引に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
なんだかこのやり取りも、久しぶりに見たな。
もたもたしていたら、母との約束には含まれていないなんて理由で執事長のボルトや料理人のラスがついていくとも言い出しかねないからな。
このままアキトと一緒に二人きりでのダンジョン探索だ。
「みんなでダンジョンも楽しそうだけど、ハルと二人でってのも嬉しいな」
ぽつりとそう言ってくれたアキトの嬉しい言葉に、自然と笑みがこぼれてしまう。
「俺はどちらかと言うと二人きりの方がより嬉しいかな」
家族のことももちろん大事には思っているし特別なんだが、アキトは更にその上をいく特別だからな。
呆れられるかと思いながらこぼした本音に、アキトは幸せそうに笑って嬉しいと答えてくれた。
領主城前の森を最短距離で無事に通り抜けた俺達は、大勢の人で賑わっている大通りも通過して、そのまま街の入口にあたる大門を目指した。
辿り着いた大門前で、アキトはぽかんと口を開いて上を見上げている。大きな口がアキトの戸惑いを伝えてくるな。こどものような反応も可愛らしいなと微笑ましく見守っていると、不意にアキトが俺を振り返った。
「はー近くで見てもやっぱりおっきいね」
「ああ、ここの門の大きさは、確かに他の街とは違うからなかなか見慣れないかもな」
「あの開いてる扉も、他の街よりも厳つくて格好良いね」
辺境の名産であるヴァコクの木材が使われている扉は、どうやらアキトからすると格好良いものに分類されるようだ。
別の地域から来た旅人は物々しいと嫌がったり怖がる事もあるんだが、さすがアキトだな。
「アキトが気に入ったなら良かった」
アキトは初めて近くで見るウェルマール領の大門がよほど興味深かったのか、ウロウロと視線を動かしている。
楽しそうで何よりだなと微笑ましく見守りながら歩いていると、不意にアキトの視線が止まった。すこしだけ驚いた様子でまじまじと何かを見つめる姿に、そっと視線の先を追ってみる。
アキトが見つめているのは、俺達が魔法陣で転移してきた時にも出迎えてくれた衛兵だった。たしかアキトは根性があると褒めていたのは彼だろう。
そう考えながらぼんやりと見つめていると、その衛兵がちらりとこちらを見た。俺とアキトと目が合った瞬間、彼はニッと口元だけの笑みを浮かべる。
「ああ、あの人がいたのか」
「うん、こないだの人だよね」
そんな会話を交わしながらアキトが小さく手を振れば、さらに衛兵の笑みが深くなった。さすがに大門の警戒中に手を振り返すわけにもいかないからな。
にこやかに見送ってくれる衛兵に目礼を送って、俺とアキトは揃って大門を出た。
辺境領の街道は、他の地域と比べてもかなりの広さが確保されている。
他の街の街道も馬車が二台すれ違えるぐらいの幅はあるが、ここでは馬車三台が余裕ですれ違う事ができる広さだ。さらに街道の両脇には地面が剥き出しになった場所をわざと作ってあり、その向こう側に鬱蒼とした森が広がっている。
アキトはそんな見慣れない謎の空間に目敏く気づくと、不思議そうに観察している。
「これはね、魔物の不意打ち防止でこうしてあるんだ」
昔は街道の横がすぐに森だったが、その状態ではどうしても魔物の不意打ちを受けやすい。どんどん改良されていった結果、現在の形に落ち着いた。
「まあ辺境の生活の知恵だよ」
笑ってそう続ければ、アキトは感心した様子で何度もうなずいていた。。
ダンジョンを目指しての移動中、森の中を動いている魔物の気配は何度も感じたが、ほとんどの魔物は近寄ってこなかった。
街道に出ればすぐに狩られてしまうから街道は危険だ。そんな考えが魔物にも浸透しているのか、それともただアキトの運が良いからだろうか。
――どちらにしても、これならアキトに怖い思いをさせる事もなさそうだな。
そう考えていた油断が良くなかったのか、不意にこちらに向かって一直線に魔物の気配が近づいてきていることに気が付いた。
だがまあ、中型の魔物程度なら何の問題も無いか。
そんな俺の考えは、長い爪と鋭い牙を見せつけるように威嚇してきたセルシュベアを見て吹っ飛んだ。
まさかここでこいつが出てくるとは。
セルシュベアというこの魔物は、自分の気配を小さく見せる事に長けている。気配探知では中型程度にしか感知できないのに、実際には大型の魔物だという厄介な魔物だ。
俺とアキトが本気で挑めば余裕の相手ではあるが、今はあちらの方が既に攻撃態勢を取っているのが問題だ。
「セルシュベアだ!」
咄嗟に声を上げれば、アキトも反射的に身構えてくれた。さっと魔力を練ろうとするアキトの冷静さに感謝しながら剣に手をかけたが、それよりも先にちょうど前を歩いていた冒険者達が剣を抜いていた。
「お、ちょうど俺ベア系の爪素材が欲しかったんだよなー」
「俺は牙が欲しいな」
嬉しそうにそんな事を喋りながらあっさりと倒してしまった。うん、かなり良い腕だな。
「あ、もしかして獲物奪っちゃったか?」
身構えている俺達に気づいた彼らは、すこしだけ心配そうに尋ねてくる。なるほど、性格も良さそうだ。
アキトは少しだけ驚いた様子で、そんな冒険者達を見つめている。
「いや、問題ないよ。倒してくれてありがとう」
笑顔でそう答えれば、なら良かったと笑ってすぐさま解体を始めた。
あ、アキトの目の前で解体はと少しだけ焦ってしまったが、アキトはむしろ興味深そうにそんな彼らの動きを見つめていた。
「おや、セルシュベアですか」
不意に後ろから聞こえてきた声に振り返れば、そこには冒険者の護衛を連れた明らかに商人らしき男性が立っていた。
「そこの冒険者のお二人、もしよろしければ肉を売って頂けないですか?」
ニコニコ笑顔の男性は、この魔物のお肉はすごく美味しくて私の好物なんですと続けた。
「俺達は肉はいらないから良いよー」
「どのぐらい欲しいんだ?」
さくさくと解体を続けながら答えた冒険者たちに、商人の男性は相場よりも高い値段をつけたようだ。
「本当に良いのか?」
「ええ、鮮度が抜群ですからね!」
「あ、護衛ってお前か」
「ああ、久しぶり」
ああ、前を歩いていた奴らと、商人の護衛の冒険者は知り合いだったのか。
「護衛が馴染みのやつだって縁で…これぐらいかな?」
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