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936.【ハル視点】アキトの初ダンジョン
俺にとっては見慣れたやり取りでも、アキトにとっては物珍しい光景だったようだ。
「このあたりの人って、すっごくたくましいんだね」
小さな声でそう呟いたアキトの言葉は、どうやら冒険者と商人の耳にも届いたらしい。言葉にして何かを言うわけではないが、彼らは揃って誇らし気にうっすらと笑みを浮かべている。
他の地域の人からは『辺境の住民は品が無い』とか『辺境の住民はやけに攻撃的だ』とか、そういう風に表現されるのはよく聞く。残念だがそれが現実だ。
そういう人たちからすれば、魔物を倒して即座に捌き出す冒険者も、そこに通りかかって肉を売ってくれと交渉をもちかける商人もあり得ないと眉をひそめる存在だろう。
それなのに、アキトの感想はたくましいなんだよな。本当に俺の伴侶候補様は、最高だ。
アキトに改めて惚れ直しているうちに、オ・アレシュのダンジョン入口へと辿り着いた。ここのダンジョンの入口は、まるで普通の洞窟のような見た目をしている。
他のダンジョンはいざという時のために要塞のような建物で覆ってあるんだが、ここだけは例外だ。
一応門番のように武器を持って警戒している衛兵達はいるが、警戒は最小限だ。
「ここがダンジョンの入口…?」
「ああ、そうだよ」
アキトはキョロキョロと周りを見渡した。
俺も一緒になって周りを見てみれば、これからダンジョンに入るのだろう荷物を整えている冒険者の集団や、今まさに洞窟から外へと出てきた冒険者達の姿が目に入った。
衛兵達は出てきた人達にダンジョンの中の様子を尋ねたり、入って行く人達に気をつけろよと声をかけたりとなかなかに忙しそうだ。
弱い魔物しかいないからと手を抜くような衛兵はうちの領にはいないと知ってはいたが、実際にその姿を見ると感心してしまう。
衛兵の素晴らしい仕事ぶりは、後でしっかりと父に報告しておこう。
「アキト、それじゃあ行こうか」
「うん!行こう!」
ワクワクした様子を隠せていないアキトだが、その表情に油断の色は無かった。きちんと周りを警戒しながら、ゆっくりとダンジョンの階段を下っていく。
その心構えはすごく良い事なんだが、もしかしたらがっかりするかもしれないな。
そうなったらどう説明しようかと考えながら歩いていくと、不意に魔物の気配を感じた。アキトも気配探知を少し出来るようになったのか、ハッとした様子で視線をあげている。
だが俺達が何かをする前に、一瞬にして魔物の気配が消えた。
「やった私にも倒せた!ねぇ、倒せたよ!」
「すごいな!よし、次は俺だ!」
まだ駆け出しだろう冒険者達がはしゃいでいる声が、魔物の気配を感じた近くから聞こえてくる。
ここのダンジョンは、湧いてくる魔物がそれほど強くない。それこそこの地域のダンジョンの外に出てくる魔物と比べれば、各段に弱い魔物ばかりだ。
だから駆け出しの冒険者や、衛兵や騎士を目指す者たちの修行の場として活用されている。特に浅い階層は、湧いてくる魔物よりもむしろ人の方が多いほどの人気の場所だ。
「なんか、想像と違う…」
困り顔で訴えてくるアキトに、俺は苦笑を返した。やっぱりがっかりさせてしまったか。
「ここは魔物がそれほど強くないから、むしろダンジョンの外よりも安全かもしれないんだ」
いや、かもじゃないか。ここは確実に外よりも安全だ。
「そうなんだ」
アキトは周りの人達をじっと見つめて、なるほどと言いたげに一つ頷いた。稀に混ざっているこのダンジョンには相応しくない強さの奴達にも、アキトはきちんと視線を向けていた。
いつの間にか、きちんと人の強さを測れるようになったんだな。
彼らは衛兵や騎士、または冒険者ギルドから初心者支援の依頼を受けた冒険者だろう
「うーん…」
複雑な表情で唸り声をあげたアキトに、俺は首を傾げて尋ねた。
「どうしたの?」
「これってさ、ハルの家族のみんなと来てたら、本当に過剰戦力だったんだね…」
ぼそりとそう呟いたアキトに、俺はブハッと思いっきり噴き出してしまった。
たしかに。もしこのダンジョンに英雄である父と騎士団長である兄二人を連れてやってきていたら大混乱になっていただろうな。
過剰戦力なのももちろんそうなんだが、まず威圧感を放つ父とファーガス兄さんに圧倒された冒険者達が動けなくなるだろう。騎士達はウィル兄さんを見れば不意打ちの査察かと警戒するだろうし、衛兵たちは憧れの父に見惚れて動けなくなる。
アキトがあそこで母のためにも駄目だと言ってくれて、良かったのかもしれないな。
おかげで周りに迷惑をかけずに済んだ。
「10階層まではこういう状態だから、どんどん進もうか」
そう声をかけてから、発見したばかりの階段へと足を進める。
「ね、ハル。ここ以外のダンジョンってどんな場所なの?」
アキトは周りを警戒して視線を動かしながらも、俺に向かってそう尋ねてきた。
「うーん…そうだな。ここは20階層までなんだが、もう一つは120階層まであるんだ」
「え、一気に6倍の深さになるの?」
驚いた様子で目を大きく見開いたアキトに、しかも魔物もぐんっと強くなるよと告げる。
「ちなみに、もっと深いダンジョンもあるよ」
悪戯っぽく笑ってそう口にすれば、アキトはドキドキした様子でそこはいったい何階層まであるのと尋ねてくれた。よく聞いてくれた。
「現時点で212階層までは踏破されているんだが、底はどこまであるかまだ分かっていないんだ」
「212階層!?」
ひっくり変え合ったアキトの声に、俺はまた声をあげて笑った。
「このあたりの人って、すっごくたくましいんだね」
小さな声でそう呟いたアキトの言葉は、どうやら冒険者と商人の耳にも届いたらしい。言葉にして何かを言うわけではないが、彼らは揃って誇らし気にうっすらと笑みを浮かべている。
他の地域の人からは『辺境の住民は品が無い』とか『辺境の住民はやけに攻撃的だ』とか、そういう風に表現されるのはよく聞く。残念だがそれが現実だ。
そういう人たちからすれば、魔物を倒して即座に捌き出す冒険者も、そこに通りかかって肉を売ってくれと交渉をもちかける商人もあり得ないと眉をひそめる存在だろう。
それなのに、アキトの感想はたくましいなんだよな。本当に俺の伴侶候補様は、最高だ。
アキトに改めて惚れ直しているうちに、オ・アレシュのダンジョン入口へと辿り着いた。ここのダンジョンの入口は、まるで普通の洞窟のような見た目をしている。
他のダンジョンはいざという時のために要塞のような建物で覆ってあるんだが、ここだけは例外だ。
一応門番のように武器を持って警戒している衛兵達はいるが、警戒は最小限だ。
「ここがダンジョンの入口…?」
「ああ、そうだよ」
アキトはキョロキョロと周りを見渡した。
俺も一緒になって周りを見てみれば、これからダンジョンに入るのだろう荷物を整えている冒険者の集団や、今まさに洞窟から外へと出てきた冒険者達の姿が目に入った。
衛兵達は出てきた人達にダンジョンの中の様子を尋ねたり、入って行く人達に気をつけろよと声をかけたりとなかなかに忙しそうだ。
弱い魔物しかいないからと手を抜くような衛兵はうちの領にはいないと知ってはいたが、実際にその姿を見ると感心してしまう。
衛兵の素晴らしい仕事ぶりは、後でしっかりと父に報告しておこう。
「アキト、それじゃあ行こうか」
「うん!行こう!」
ワクワクした様子を隠せていないアキトだが、その表情に油断の色は無かった。きちんと周りを警戒しながら、ゆっくりとダンジョンの階段を下っていく。
その心構えはすごく良い事なんだが、もしかしたらがっかりするかもしれないな。
そうなったらどう説明しようかと考えながら歩いていくと、不意に魔物の気配を感じた。アキトも気配探知を少し出来るようになったのか、ハッとした様子で視線をあげている。
だが俺達が何かをする前に、一瞬にして魔物の気配が消えた。
「やった私にも倒せた!ねぇ、倒せたよ!」
「すごいな!よし、次は俺だ!」
まだ駆け出しだろう冒険者達がはしゃいでいる声が、魔物の気配を感じた近くから聞こえてくる。
ここのダンジョンは、湧いてくる魔物がそれほど強くない。それこそこの地域のダンジョンの外に出てくる魔物と比べれば、各段に弱い魔物ばかりだ。
だから駆け出しの冒険者や、衛兵や騎士を目指す者たちの修行の場として活用されている。特に浅い階層は、湧いてくる魔物よりもむしろ人の方が多いほどの人気の場所だ。
「なんか、想像と違う…」
困り顔で訴えてくるアキトに、俺は苦笑を返した。やっぱりがっかりさせてしまったか。
「ここは魔物がそれほど強くないから、むしろダンジョンの外よりも安全かもしれないんだ」
いや、かもじゃないか。ここは確実に外よりも安全だ。
「そうなんだ」
アキトは周りの人達をじっと見つめて、なるほどと言いたげに一つ頷いた。稀に混ざっているこのダンジョンには相応しくない強さの奴達にも、アキトはきちんと視線を向けていた。
いつの間にか、きちんと人の強さを測れるようになったんだな。
彼らは衛兵や騎士、または冒険者ギルドから初心者支援の依頼を受けた冒険者だろう
「うーん…」
複雑な表情で唸り声をあげたアキトに、俺は首を傾げて尋ねた。
「どうしたの?」
「これってさ、ハルの家族のみんなと来てたら、本当に過剰戦力だったんだね…」
ぼそりとそう呟いたアキトに、俺はブハッと思いっきり噴き出してしまった。
たしかに。もしこのダンジョンに英雄である父と騎士団長である兄二人を連れてやってきていたら大混乱になっていただろうな。
過剰戦力なのももちろんそうなんだが、まず威圧感を放つ父とファーガス兄さんに圧倒された冒険者達が動けなくなるだろう。騎士達はウィル兄さんを見れば不意打ちの査察かと警戒するだろうし、衛兵たちは憧れの父に見惚れて動けなくなる。
アキトがあそこで母のためにも駄目だと言ってくれて、良かったのかもしれないな。
おかげで周りに迷惑をかけずに済んだ。
「10階層まではこういう状態だから、どんどん進もうか」
そう声をかけてから、発見したばかりの階段へと足を進める。
「ね、ハル。ここ以外のダンジョンってどんな場所なの?」
アキトは周りを警戒して視線を動かしながらも、俺に向かってそう尋ねてきた。
「うーん…そうだな。ここは20階層までなんだが、もう一つは120階層まであるんだ」
「え、一気に6倍の深さになるの?」
驚いた様子で目を大きく見開いたアキトに、しかも魔物もぐんっと強くなるよと告げる。
「ちなみに、もっと深いダンジョンもあるよ」
悪戯っぽく笑ってそう口にすれば、アキトはドキドキした様子でそこはいったい何階層まであるのと尋ねてくれた。よく聞いてくれた。
「現時点で212階層までは踏破されているんだが、底はどこまであるかまだ分かっていないんだ」
「212階層!?」
ひっくり変え合ったアキトの声に、俺はまた声をあげて笑った。
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