生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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937.【ハル視点】レシュの湖へ

 ダンジョンの下層へと下りていくに連れて、魔物も少しずつ強くなっていく。さすがに瞬殺とは行かなくなったのか、戦闘中の冒険者の姿をちらほらと見かけるようになってきた。

 隣を歩いているアキトは、戦闘の邪魔にならないようにと周囲に気を使いながらも、しっかりとダンジョンの様子を見つめている。

 しっかりと情報収集をしているようで何よりだ。

 ダンジョンの中というのは、他の場所ではあり得ないような事がたくさん起こる。

 階層によって周囲の環境もガラリと変わるし、出てくる魔物もまったく異なっている。森の階層なら狼系やトレント系が多いが、鉱山の階層なら岩みたいなゴツゴツとした魔物が多くなる。

 もちろんその階層ごとに、採取できる素材もガラリと変わる。

 だがダンジョンというのは、魔物がいつどこに湧いてくるかも分からない場所だ。安全優先で採取は一切しないと決めている冒険者もいるが、辺境領では滅多に手に入らないような素材がその辺りに転がっていたりもする。

 中にはそういう珍しい素材だけを集めて儲けている、目利きのできる人もいるんだよな。

 そこもダンジョンの面白いところだ。

「うわー…武器の素材に使いたいのに、やっぱりメドロの魔石がでてねぇ…」

 しょんぼりと肩を落とした冒険者の声が聞こえてくる。

「そう簡単に出るかよー」
「よし、もう一回端まで回ってみようぜ」
「あー…すまん、助かる…」

 パーティーメンバーに励まされた青年は、笑顔で壁の向こうへと消えていった。

 メドロという魔物は、まるで湿地のようなここの階層にしか出てこない魔物だ。

 それこそもしここにダンジョンがなければ、西の国まで旅をしないと手に入らない魔物素材だ。

 ダンジョンは確かに危険な場所ではあるんだが、同時に領にとって、そして冒険者達にとっての大事な資源とも言える。

「あ、ハル!こっちに階段あったよ」

 いつもの運の良さを発揮しているのか、それともただの勘なのか。さっきからほぼ全ての階段を、アキトが見つけてくれている気がする。

「本当だね、それじゃあ下りようか」

 こうして普通に会話を交わしている間にも、近くで戦っている冒険者の剣と魔物の牙がぶつかり合ってキィンッと高い音を立てている。

 一応ちらりと視線は向けてみたが、苦戦している様子も無いから放っておこう。

「うん、行こう!」

 魔物と戦っている冒険者達の隣をすり抜けて、俺達は階段を下へ下へと下り続けた。



 10階層目を超えたあたりから、さすがに冒険者の数よりも魔物の数の方が多い状況が少し増えてきた。

 とはいっても、まだ俺が一撃で倒せてしまうぐらいの魔物がパラパラとしかでてこない。

「強いダンジョンだと魔物側も同時に数体現れたり、何なら連携して攻撃してくるような魔物も出てくるんだよ」
「え…それは怖いな」

 口ではこんな事を言ってはいるけれど、実際に戦闘になればきっとアキトは冷静に対処してくれるんだろうな。アキトは全てを俺まかせにしたりしないから。

 今もしっかりと周囲を警戒しながら、いつでも魔法を放てるようにと魔力を練り続けてくれているぐらいだ。

 こういう所に惚れ直してしまうんだよな。



「アキト!ついに次が14階層だよ」

 振り返ってそう告げれば、アキトはゆるりと首を傾げて少し考えてから口を開いた。

「14階層ってたしか、湖があるっていってた階層だよね?」
「ああ、そうだよ。14階層にある湖はレシュの湖って呼ばれているんだ」
「へぇ、レシュの湖っていうんだ!」

 そういえば湖の名前までは説明していなかったな。

「ここもオ・アレシュの名前からもじって、いつの間にかそう呼ばれるようになっていたっていう単純な理由なんだけどね」

 有名な誰かが名付けたとか、名前の由来なんかは特にないのが何とも辺境らしいと思う。

「レシュの湖はね、その湖見たさにダンジョンに潜る人がいるぐらいには綺麗な場所だよ」
「そうなんだ、それは楽しみ!」

 そんな会話を交わしながら二人並んで階段を下りていけば、不意に一気に視界が開けた。 

「うわぁー」

 透き通った水をたたえた美しいその湖は、太陽の光ならぬダンジョンの不思議な光を反射して、キラキラと輝いている。揺れる水面が驚くほど綺麗で、初めて見ればついつい見惚れてしまうほどの美しさだろう。

 俺は見慣れているから、その景色を見て目を輝かせているアキトを見ていたんだが。

「アキト、気に入った?」
「うん、これはすごいね!」

 階段を最後まで下りきってしまえば、もうレシュの湖は目の前だ。

「綺麗だ…」
「ああ、アキトに見せられて嬉しいよ。レシュの湖の景色なら湖が好きなアキトにぴったりだとずっと思っていたんだ」

 俺の言葉を聞いたアキトは、見れて嬉しいとふわりと幸せそうな笑みを浮かべた。

 満足するまで湖の景色を堪能してから、俺達は湖の湖畔に沿ってぐるりと歩き出した。
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