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939.サイクさん
魚を捌こうかと申し出てくれたその男性は、親切な申し出に素直に喜ぶ俺達の反応にうっすらと笑みを浮かべた。
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんは俺とハルを順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
思わず漏れたって感じの声だったけど、どうやらハルにも聞こえていたみたいだ。
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
え、ファーガスさんの事を知ってるの?
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、なんでもファーガスさんの友人らしい。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
その言い方はちょっとひどくない?そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
ムレングのダンジョン?と繰り返しながらゆるりと首を傾げれば、すぐに気づいてくれたハルが、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよと教えてくれた。一番深いダンジョンってムレングのダンジョンって言うのか。覚えておこう。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得した様子で頷いたハルは、だが…と言葉を続けた。
「ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
深い階層まで向かう間にどこかで会うんじゃないのって思ったんだけど、ハルによるとムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているらしい。
もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるんだって。
領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるけど、それはしたくないとファーガスさんは暇さえあればダンジョンを潜っていたらしい。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いたハルに、俺とサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
「ああ」
うつむいてしまったハルはふぅとひとつ息を吐くと、それよりと顔をあげた。無理やり気分を切り替えたんだろうな。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
予想外の答えだったのか、ハルは不思議そうに答えた。
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
効率重視なのに休暇をくれるの?と不思議に思ったけど、ハルは納得した様子で頷いていた。
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろうな。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけじゃなくて、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるらしい。
そりゃあそんなブラックな仕事場絶対に嫌だよね。しかも自分の命が掛かるような環境だ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
「休暇中なのに捌かせて悪いな」
「いやいや、話し相手ができて嬉しいよ。しかも友人の弟とその伴侶候補ときたらな」
あ、サイクさん、俺達の伴侶候補の腕輪に気づいてくれてたんだ。
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんは俺とハルを順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
思わず漏れたって感じの声だったけど、どうやらハルにも聞こえていたみたいだ。
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
え、ファーガスさんの事を知ってるの?
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、なんでもファーガスさんの友人らしい。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
その言い方はちょっとひどくない?そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
ムレングのダンジョン?と繰り返しながらゆるりと首を傾げれば、すぐに気づいてくれたハルが、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよと教えてくれた。一番深いダンジョンってムレングのダンジョンって言うのか。覚えておこう。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得した様子で頷いたハルは、だが…と言葉を続けた。
「ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
深い階層まで向かう間にどこかで会うんじゃないのって思ったんだけど、ハルによるとムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているらしい。
もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるんだって。
領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるけど、それはしたくないとファーガスさんは暇さえあればダンジョンを潜っていたらしい。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いたハルに、俺とサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
「ああ」
うつむいてしまったハルはふぅとひとつ息を吐くと、それよりと顔をあげた。無理やり気分を切り替えたんだろうな。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
予想外の答えだったのか、ハルは不思議そうに答えた。
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
効率重視なのに休暇をくれるの?と不思議に思ったけど、ハルは納得した様子で頷いていた。
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろうな。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけじゃなくて、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるらしい。
そりゃあそんなブラックな仕事場絶対に嫌だよね。しかも自分の命が掛かるような環境だ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
「休暇中なのに捌かせて悪いな」
「いやいや、話し相手ができて嬉しいよ。しかも友人の弟とその伴侶候補ときたらな」
あ、サイクさん、俺達の伴侶候補の腕輪に気づいてくれてたんだ。
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