生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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943.サイクさんの好物

 サイクさんと俺とハル三人での食事は、ここがダンジョンの中だって事すら忘れそうになるくらい賑やかに進んで行った。

 飲み物が無かったからと好みを聞いて何種類かの果実水を出してみたら、思いのほか喜んでくれたんだ。

「あ、そうだ、どうせならこれも食べよう」

 しかもそんな言葉と共に、サイクさんがダンジョン産の魔物肉や食材を惜しみなく追加し始めてくれてね。

 どうやらハルもすっかり気を許したみたいで、良いのかとも言わずに出されたお肉や食材をいそいそと焼いてくれるようになったんだ。

 ちなみにハルがささっと焼いてくれたお肉や食材は、どれもさっきのウルリカの肉に張り合えるほどの美味しさだった。

「あー楽しいな!」

 ニコニコ笑顔のサイクさんいわく、サイクさん本人はかなり食に興味があるらしいんだけど、他のパーティーメンバーはあまり食にこだわりが無いんだって。

 もちろんサイクさんのこだわりを知ってるから付き合ってはくれるらしいけど、俺とハルみたいに何でも一緒に喜んで食べてくれる相手がいたのが嬉しかったらしい。

 俺とハルもよく食べる方だと思うけど、サイクさんはそれ以上によく食べる人だった。

 まあ、あの大きな斧を使いこなす体を維持しようと思ったら、それぐらいは食べないと無理なのかな。

「ムレングのダンジョンでもこういう食材は取れるんだな」
「あーまあ、多少はな」

 ここと同じく、あちらのダンジョンも階層によって全く取れる素材が違うそうだ。

 ただここのダンジョンには緑が多い階層が多かったり、こうして釣りができる湖があったりするのに対して、鉱山みたいな階層や、砂漠みたいな階層、雪原のような階層などが多いらしい。

 話を聞いているだけでも、うわぁって思っちゃったよ。

 そんなのもし例え魔物が一匹も出てこない環境だとしても、ただ進んでいくだけで体力が奪われて大変なやつだ。

 その上ここよりも各段に強くて連携も取れるような魔物が、バンバン出てくるんだよね。そりゃあ攻略が難航する筈だよと、あまり詳しくない俺でも分かった。

「ごく稀に森の階層があったりするとな、木の実とか果物とかを探したりするんだ」

 もちろんその探している間も、いつ魔物が襲って来るかは分からない。決して油断はできないから、パーティーメンバーと交代で見張りをしつつ採取するらしい。

「特に好きな果物があるんだが、これがまたダンジョンの中でも滅多に出逢えなくてな。市場とかにも滅多に出回らないんだよ…」
「へぇ、どの果物だ?」

 いくつかの果物を思い浮かべているのかハルが面白そうにそう尋ねれば、お前らなら名前ぐらいは知ってるかなとサイクさんはすぐに答えてくれた。

「ナドナの果実って言うんだが」
「ん?」
「ナドナの果実って…」

 あれ、その名前、俺知ってるな。

 俺の記憶が正しければ、どこかの森で採取したあの七色のカラフルなぶどうだよね。冒険者ギルドのランクアップ試験の対象になってた、あの素材。

 思わずさっとハルの方へ視線を向ければ、ハルもじっと俺を見つめていた。

 うん、その反応。やっぱりあれだよね。

「お、知ってるか?」
「知ってるというか…」

 俺はそこで言葉を切って、そっと自分の魔導収納鞄に手を入れた。

 村の人たちに差し入れしたり、冒険者ギルドに納品したり、それに自分たちでも食べたりしたから、ちょっとまだあるか自信が無いんだよね。

 もしありますって言って、なかったら申し訳なさすぎるし。

 まだ少しぐらいは残ってた筈だよねと考えながら手を入れれば、すぐに目的の物は発見できた。

「これ…であってますか?」
「それっ!それだよ!一体どこで手に入れたんだ?」

 大きく目を見開いたサイクさんの質問に、俺は首を傾げて答えた。

「えっと森で偶然採取したんですけど…どこの森だったかまでは覚えてないです」

 ハル覚えてる?と聞いてみれば、ハルも困り顔で首を傾げた。

「たしかキニーアの森だったか、いやルムンの森だったか…?」

 サイクさんは明らかにどこだそれと言いたげに、俺達と一緒になって首を傾げた。

「あー、トライプール領の領都近くの森だよ。もちろん珍しくはあるが、トライプールの辺りでは偶に手に入る筈だぞ」

 だから冒険者ギルドのランクアップ試験の素材に選ばれるんだしと、ハルはそう続けた。

「そうなのか…つまりトライプールから来た商人なら、もしかして?」

 目を輝かせたサイクさんに、俺はそっとナドナの果実を差し出した。

「サイクさん、どうぞ。貰ってください」
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