生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
946 / 1,561

945.あっという間

「あ、もうこんな時間か」

 サイクさんがそう声をあげるまで、俺とハルは夢中になって話に聞き入っていた。

 話す内容が面白いのももちろんだけど、サイクさんって話し方がとにかく上手なんだよね。感動的なまでの話術に、すっかり引き込まれちゃってたよ。

「こんな時間…だって?」

 不思議そうに魔道具を取り出して覗き込んだハルは、途端に両目を大きく見開いた。

「もう夕方近いのか。全く気づかなかった…」
「え、まだこんなに明るいのに?」

 見上げた視線の先に見えるのは、まるで本物の青空のような不思議なダンジョンの天井だ。

「ああ。ダンジョンの中は、基本的には階層ごとに天候や時間帯が固定されてるからな」

 まあ天気や時間帯があっという間に変わる階層――なんて例外もあるんだがなと、サイクさんは眉間にぎゅっとしわを寄せた嫌そうな顔で教えてくれた。

 きっとサイクさんのパーティーは、その階層でたくさん苦労したんだろうな。そう想像が出来てしまったので、深くは聞かない事に決めた。

 それにしてもダンジョンって、本当に不思議な事ばかりだな。

 天候も時間帯も変わらないってことは、この階層はいつ来てもこの明るさの晴天って事か。逆にずっと夜で雨の階層とかもあるのかもしれない。

「俺も知識として知ってはいたんだが、一つの階層にここまで留まった事は無かったからな…」

 気づけなかったのが悔しいと、ハルはしょんぼりと肩を落とした。

「慣れてないと仕方ないさ」

 サイクさんによると、慣れてさえしまえば体内時計でだいたいの時間が分かるようになるらしい。自信が無いならハルの持ってるような魔道具を使うのも良い案だぞと教えてくれた。

「ハルなら、次からは小まめに時間を確認するだろう?」
「ああ、そうするよ」

 だったら落ち込むなとハルを慰める姿は、まるでハルの本当のお兄さんみたいだ。なんでかな。見た目は全然似てないのに、ちょっとファーガスさんに似てるななんて思ってしまった。

「サイクさんは、これからどうするんだ?」

 気持ちを切り替えて尋ねたハルに、サイクさんはんーと考えてから答えた。

「そうだな、今日はもう街へ帰るよ」
「それじゃあ、もし良ければ一緒に行かないか?」
「ああ、ぜひ」

 予定が決まれば急いだほうが良いと、俺達はすぐにその場にあった荷物を片づけに取り掛かった。とは言っても、後はすこしの食器とマントぐらいだ。今日はテントとか張ってないからね。

「よし、忘れ物も無し!」

 ささっと見て回って振り返れば、ハルもそうだねと笑顔で頷いてくれた。

「サイクさん、お待たせしました!」
「待たせてすまない
「いや、俺は荷物が少ないからな。気にすんな」

 俺達よりも先に片付けを終えていたサイクさんは、あの巨大な斧を軽々と肩に担いで近づいてくる。

「行くか」



 オ・アレシュのダンジョン内で転移ができる場所は、最終階層つまり一番地下だけらしい。しかも行先はあの衛兵さん達がいた出口の辺りに固定されていて、一方通行なんだって。

 一番下にいるボスを倒せば一瞬で帰れるって事だけど、ハルもサイクさんも少しも迷わずに上へと戻る道を選んだ。

 理由はここのダンジョンのボスと呼ばれる魔物たちが、なかなか面倒な相手だからだそうだ。

 俺も驚いたんだけどね。そもそもダンジョンのボスって、一種類の魔物をさすわけじゃないんだって。ダンジョン内のボス部屋と呼ばれる部屋に湧いてくる、強い魔物を総称としてボスと呼んでるだけらしい。

 うーん、これももしかして異世界人が広めたーってやつなのかな。

 ここオ・アレシュのダンジョンでも数種類の魔物が確認されているらしいんだけど、そのどれもがとにかく防御力が高いのが特徴らしい。強さはそれほどでもないけど、攻撃が入り難くて戦闘時間が長引く。

 その上、それほど良い素材が取れるわけでも無いという事で、あまり人気は無いらしい。

 全てのダンジョンを踏破してやると豪語してる冒険者ぐらいしか挑もうとはしないボスなんだと、階段を上りながら教えてもらった。

 俺達が話し込んでいる間に、ダンジョンの中にいる冒険者の数はかなり減っていた。夜は危険だからその前にと、初心者ほど早めに街に帰るんだって。

 冒険者が減った分、魔物もたまにひょこっと現れるんだけど、ハルとサイクさんが競うようにして倒してしまう。

 俺の出番は全く無いまま、あっという間にダンジョンの入口の所まで戻ってこれてしまった。

「サイク、どうだ。何か異変はあったか?」

 不意にそう声をかけてきた衛兵さんに、サイクさんは慣れた様子で答えた。

「いや、何も無かったぞ」
「釣果は?」
「今日は9匹と友人が二人増えた」

 ニヤリと笑って答えたサイクさんに、衛兵さん達もそれは良かったなと笑って答えている。

「そちらの二人も、ダンジョンはどうだった?」
「想像してたよりも、綺麗な場所でしたね」
「そうだろ?またおいで」

 ニコニコ笑顔でそう言ってくれる衛兵さん達に見送られて、俺達は街へと続く街道へと足を向けた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。