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951.【ハル視点】サイクさん
魚を捌こうかと申し出てくれたその男性は、親切な申し出に素直に喜ぶ俺達の反応にうっすらと笑みを浮かべた。
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんはアキトと俺を順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
まさかここで兄さんの名前が出てくるとは、さすがに想像していなかったな。
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、さらりとファーガス兄さんの友人だと名乗った。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
思わずそんな事を口走れば、アキトは驚きに目を大きく見開き、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
ファーガス兄さんを捕まえてあいつ呼ばわりできるなら、都合の良い時だけ友人面する自称友人ではなく本当に友人なんだろうな。
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
「ムレングのダンジョン?」
不思議そうに繰り返したアキトに、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよとそっと声をかけた。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得はしたものの、今度は別の疑問も湧いてくる。
「だが、ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
すぐに頷いたサイクさんと違って、アキトは不思議そうに首を傾げた。
アキトとダンジョンに来るとは思ってなかったから、そういう説明は一切していなかったんだよな。
「ムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているんだ」
「え、転移魔法陣が?」
「もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるよ」
もしどの階層にも行けると解放すれば、無謀な挑戦をして命を散らす人が確実にでるだろうからな。
踏破した階層にしか飛べないというのも、詐称は絶対にできないようになっている。ムレングのダンジョンに潜る前に手渡される小さな手帳が魔道具になっていて、自分たちが潜った階層がどこかを自動的に記憶する。
ちなみに他の人の手に渡った瞬間に情報が消えてしまうため、慣れた冒険者は魔導収納鞄から決して出さない。
そういえばこれも異世界人が作ったシステムが基本になっていると聞いた事があったな。まあサイクもいるこの場で説明する必要は無いだろう。
「領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるんだが、それはしたくないとファーガス兄さんは暇さえあればムレングのダンジョンに潜っているんだ」
仕事はきちんとしているから文句は無いんだが、こうしてダンジョン内で友人を作れるぐらい頻繁に潜っているという事だ。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
眉を下げたアキトが最初に口にしたのは、マティ姉さんの心配だった。ああ、本当にアキトは優しい子だな。もしこの発言をマティさんが聞いたら、抱き着いて離れなくなりそうだ。
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いた俺に、アキトとサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
領主夫婦の座どころか、あだ名まで受け継ぐ事になりそうだな。
「ああ」
いや、考えても仕方ないな。気持ちを切り替えようとふぅとひとつ息を吐くと、それよりと声に出して顔をあげた。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろう。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけではなく、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるそうだ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
「休暇中なのに捌かせて悪いな」
「いやいや、話し相手ができて嬉しいよ。しかも友人の弟とその伴侶候補ときたらな」
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんはアキトと俺を順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
まさかここで兄さんの名前が出てくるとは、さすがに想像していなかったな。
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、さらりとファーガス兄さんの友人だと名乗った。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
思わずそんな事を口走れば、アキトは驚きに目を大きく見開き、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
ファーガス兄さんを捕まえてあいつ呼ばわりできるなら、都合の良い時だけ友人面する自称友人ではなく本当に友人なんだろうな。
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
「ムレングのダンジョン?」
不思議そうに繰り返したアキトに、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよとそっと声をかけた。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得はしたものの、今度は別の疑問も湧いてくる。
「だが、ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
すぐに頷いたサイクさんと違って、アキトは不思議そうに首を傾げた。
アキトとダンジョンに来るとは思ってなかったから、そういう説明は一切していなかったんだよな。
「ムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているんだ」
「え、転移魔法陣が?」
「もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるよ」
もしどの階層にも行けると解放すれば、無謀な挑戦をして命を散らす人が確実にでるだろうからな。
踏破した階層にしか飛べないというのも、詐称は絶対にできないようになっている。ムレングのダンジョンに潜る前に手渡される小さな手帳が魔道具になっていて、自分たちが潜った階層がどこかを自動的に記憶する。
ちなみに他の人の手に渡った瞬間に情報が消えてしまうため、慣れた冒険者は魔導収納鞄から決して出さない。
そういえばこれも異世界人が作ったシステムが基本になっていると聞いた事があったな。まあサイクもいるこの場で説明する必要は無いだろう。
「領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるんだが、それはしたくないとファーガス兄さんは暇さえあればムレングのダンジョンに潜っているんだ」
仕事はきちんとしているから文句は無いんだが、こうしてダンジョン内で友人を作れるぐらい頻繁に潜っているという事だ。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
眉を下げたアキトが最初に口にしたのは、マティ姉さんの心配だった。ああ、本当にアキトは優しい子だな。もしこの発言をマティさんが聞いたら、抱き着いて離れなくなりそうだ。
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いた俺に、アキトとサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
領主夫婦の座どころか、あだ名まで受け継ぐ事になりそうだな。
「ああ」
いや、考えても仕方ないな。気持ちを切り替えようとふぅとひとつ息を吐くと、それよりと声に出して顔をあげた。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろう。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけではなく、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるそうだ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
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