生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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953.【ハル視点】憧れ

 俺の言葉にうまく反論できなかったのか、サイクさんは諦めた様子で苦笑しながらも魚串を受け取ってくれた。

「分けてもらって悪いな。ありがとよ」
「いえ、こちらこそ。教えてくれて、捌いてくれてありがとうございます」
「そうだな、礼を言いたいのはこちらの方だ。ありがとう」

 三人でお礼を言い合ってから、俺達はひとまず目の前にある美味しそうな魚串にかぶりつく事にした。

 冷めてしまうと美味しさが減ってしまうだろう。何より抗えない香りが漂ってくる。

「「いただきます」」

 声を揃えた俺達をサイクさんはちらりと見たが、ああ食前の挨拶かと納得した様子でそっと視線を反らしてくれた。

 サイクさんはそのまま、そっと片手をあげると顔の前に持ってきて静止した。

 どこの地域かまではっきりとは覚えていないが、たしか南の方の国にこういう食前の祈りがあったな。

 そんな事を考えながら、俺たちはサイクさんの祈りが終わるのを静かに待った。

 全員が食前の挨拶を済ませた後、俺達は三人でちらりと目を合わせた。

 折角なら同じタイミングで食べたいと頷き合ってから、揃って大きく口を開く。がぶりと思いっきり頬張れは、脂の乗った身の旨味がぶわりと口内に広がった。

「んー!すっごく美味しい!」

 珍しくアキトが大きな声を上げて絶賛するぐらい、驚きの美味さだ。

「ああ、まさかここまで美味いとは…」
「俺も久しぶりに食うんだが…これは本当に美味いな。ここまでちゃんと脂の乗ったやつは珍しいぞ?」

 前に食ったのより断然こっちの方が美味いと、釣りが趣味なサイクさんも絶賛してくれた。隣に座っているアキトが、さすがハルと言いたげに目を輝かせて見つめてくれるのが何とも照れくさい。

 あっという間に一本を食べきってしまったが、もう一本あるんだよな。ちらりと周りを見てみれば、アキトもサイクさんも迷いなく二本目に手を伸ばしていた。

 そうだよな。この美味さには抗えないよな。納得しながら俺もそっと手を伸ばした。

「はー…美味しかった…」
「美味かったな」
「本当にな」

 あっという間に無くなってしまった事を残念に思ってしまうぐらい、本当に美味しい魚だった。アキトも気に入ったようだし、今度はセトルを釣るためにここに来るのも良いかもしれない。

 もし次もセトルが釣れたら、今度は料理人のラスに調理してもらいたいなと考えているとサイクさんが声をあげた。

「あ、そうだ、次はこっちのパースのパン屋のしょくパン食べてみねぇか?」
「あ、食べてみたいです!」
「そうだな、そうさせてもらおうか」

 そう答えた俺達にサイクさんはパンを配ろうとしたが、あ、と呟くとちょっと待ってくれと声をあげた。

 一体どうしたんだろうとアキトと俺が思っている間に、サイクさんはパッと一瞬で魔力を練り上げると口内でブツブツと何かを唱えた。

 魔法を使おうとしているのかと理解した時には、既にアキトと俺、そしてサイクさんの持っている皿の上が綺麗になっていた。

「これでよし。さすがに魚の香りがついた皿にパンは嫌だろ?」

 さらりとそう言うと、サイクさんは俺達の綺麗になったお皿の上に食パンを乗せてくれた。

 その気づかいはすごく有難いんだが、それよりも俺は魔力を練り上げる速度の方が気になって仕方がない。

「…斧使いなら前衛だと思っていたんだが、魔法も使えるんだな?」
「ハルだって使えるだろう?ただの生活魔法だぞ?」

 呆れ顔でそう言ってくるサイクさんに、俺はいいやと首を振った。

「確かに使うことはできるが、あれほどの早さで魔力を練って発動して、しかも対象が離れた場所にある三枚の皿っていうのは…俺には無理だな」

 アキトなら余裕でできるだろうがとは、あえて口にはしなかった。

「まあ、お前らなら良いか。どうせ話すつもりだったしな。さっき言ってたムレングのダンジョンの話なんだがな」

 小声になったサイクさんは、やれる事が多い方が生き残れる場所なんだと教えてくれた。

「俺はまあ斧での前衛と、少しの生活魔法、後は何種類かの攻撃魔法ぐらいだがな。うちの他のメンバーはすごいんだぞ?」

 得意げに笑ったサイクさんは、パーティーメンバーの事を心から信頼しているようだ。いや、信頼してない相手と、危険なダンジョンの探索なんて出来るわけがないか。

「うちのパーティーの弓使いは、弓を射ながら攻撃魔法だってバンバン使うんだよ」
「同時にですか?」
「ああ、弓で狙いながら魔力を練るんだと、器用だよな」

 ちなみに前衛の軸である盾使いはその弓使いに弟子入りをしていて、最近では盾の隙間から弓を使って狙ったりもしているそうだ。

 なかでもアキトが一番驚いていたのは、リーダーである後衛の魔法使いが、最近では盾を使えるように鍛えているという話だった。

「はー魔法使いなのに…盾…。俺絶対盾使いながら魔法発動できないと思う」
「アキトは魔法使いなのか?」
「ええ、魔法使いです」

 すごいな憧れると呟いたアキトに、サイクさんは少しだけ眉をひそめた。

「あのな、ああいうのは必要に応じて仕方なく覚えてるだけなんだよ。だからアキトが無理して覚えようとするってのは違うぞ」

 サイクさんは真剣な表情で、アキトに向かってそう忠告した。

 別にここだけの話だと適当に流す事もできただろう。それなのにわざわざ忠告までしてくれたのは、間違いなくアキトの身を案じての事だ。

 良い人だな、ファーガス兄さんの友人は。そんな事を考えながらちらりと視線を向ければ、アキトも気づかいに気づいて嬉しそうに笑って口を開いた。

「忠告ありがとうございます。あの…絶対に無理だから憧れるってだけで、自分ができるとは思ってません。そっちのダンジョンに潜る予定もありませんし」
「そうか、なら良かった」
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