956 / 1,561
955.【ハル視点】ムレングのダンジョンの話
サイクさんとアキトと俺、三人での食事は、ここがダンジョンの中だという事すら忘れてしまいそうになるくらい賑やかに進んで行った。
飲み物が無かったからと何種類かの果実水をアキトが出してくれたんだが、ダンジョンでは酒を一切飲まないというサイクさんは思いのほかこの果実水を喜んだ。
「あ、そうだ、どうせならこれも食べよう」
そんな言葉と共に、サイクさんも負けじと、ダンジョン産の魔物肉や食材を惜しみなく追加し始めた。
バンバン取り出される食材の中には、もしアキトが価値を知っていたら絶対に受け取らないだろうなという高級な物もさらりと混ぜられている。
それを出して良いのか?そう尋ねたくなる食材にそっと息を吞めば、サイクさんは俺に向かって小さく目くばせをしてきた。
黙っていてくれと言いたいのかと理解した俺は、何も言わずに渡されたものを受け取る事に決めた。
兄の友人だという事もあるが、サイクさんの行動を見ていると警戒するのも馬鹿らしくなってくる。見ためは全く似ていないんだが、この距離を詰めてくるのに不快じゃない感じは、すこしアキトに似ているかもしれない。
俺は手渡される食材を、何も言わずにひたすら焼き続けた。そのどれもが驚くほど美味いものばかりな事に、密かに驚きながら。
「あー楽しいな!」
ニコニコ笑顔のサイクさんいわく、サイクさん本人はかなり食に興味があるらしいが、他のパーティーメンバーはあまり食にこだわりが無いらしい。
もちろんサイクさんのこだわりを知ってるから付き合ってはくれるらしいが、アキトと俺みたいに何でも一緒に喜んで食べてくれる相手がいたのが嬉しかったらしい。
「ムレングのダンジョンでもこういう食材は取れるんだな」
「あーまあ、多少はな」
ここと同じく、あちらのダンジョンも階層によって全く取れる素材が違うそうだ。
ただここのダンジョンには緑が多い階層が多かったり、こうして釣りができる湖があったりするのに対して、鉱山みたいな階層や、砂漠みたいな階層、雪原のような階層などが多いらしい。
俺も何度かムレングのダンジョンに潜った事はあるんだが、雪原の階層はまだ見た事がないな。おそらく、それだけ下の方にある階層なんだろう。
「ごく稀に森の階層があったりするとな、木の実とか果物とかを探したりするんだ」
もちろんその探している間も、いつ魔物が襲って来るかは分からない。決して油断はできない状況だから、パーティーメンバーと交代で見張りをしつつ採取するそうだ。
それにしても、危険な階層での採取をここまで楽し気に話せるんだな。
やはりダンジョンの攻略をするパーティーの強さは、相当なものだな。そんな風に感心しながら話に耳を傾けていると、不意にサイクさんが気になる事を口にした。
「特に好きな果物があるんだが、これがまたダンジョンの中でも滅多に出逢えなくてな。市場とかにも滅多に出回らないんだよ…」
「へぇ、どの果物だ?」
いくつかの果物を思い浮かべながらそう尋ねれば、お前らなら名前ぐらいは知ってるかなとサイクさんはすぐに答えてくれた。
「ナドナの果実って言うんだが」
「ん?」
「ナドナの果実って…」
まさかここでその名前が出てくるとは。
ナドナの果実は、アキトが見つけて採取した七色の実が特徴の果物だ。粒の色ごとに味が違っているのが、なかなか面白いんだよな。
しかしあれはそこまで入手し難いものだったか?
トライプールでは冒険者ギルドのランクアップ試験の対象になっていたぐらいだから、もちろん珍しいものではあるんだろう。
だが、逆に言えば試験の対象にできるぐらいには入手できる可能性があるという事になる。
いや、しかし確かに辺境の辺りでは、売っているのを見た事は無いかもしれないな。そんな事を考えていると、不意にアキトがさっと俺の方へ向いた。
「お、知ってるか?」
「知ってるというか…」
アキトはそこで言葉を切ると、そっと自分の魔導収納鞄に手を入れた。
「これ…であってますか?」
「それっ!それだよ!一体どこで手に入れたんだ?」
大きく目を見開いたサイクさんの質問に、アキトはゆるりと首を傾げて答えた。
「えっと森で偶然採取したんですけど…どこの森だったかまでは覚えてないです」
ハル覚えてる?と聞かれてしまったんだが、残念ながら俺もはっきりとは覚えていないな。頼られたのに、即答できない事が少しだけ寂しい。
「たしかキニーアの森だったか、いやルムンの森だったか…?」
サイクさんは明らかにどこだそれと言いたげに、俺達と一緒になって首を傾げている。そうか、この辺りを拠点にしてるなら、トライプールの辺りには詳しくないよな。
「あー、トライプール領の領都近くの森だよ。もちろん珍しくはあるが、トライプールの辺りでは偶に手に入る筈だぞ」
だから冒険者ギルドのランクアップ試験の素材に選ばれるんだしと、俺はそう続けた。
「そうなのか…つまりトライプールから来た商人なら、もしかして?」
サイクさんは目を輝かせてそう呟いているが、目の前にあるナドナの果実を手に入れようとは思ってもみないようだ。
アキトの事だから、見せるためだけに取り出したなんて事は無いだろうな。そう思いながらちらりと視線を向ければ、俺の予想通りアキトは嬉しそうに笑ってから口を開いた。
「サイクさん、どうぞ。貰ってください」
うん、アキトならそう言うよな。
飲み物が無かったからと何種類かの果実水をアキトが出してくれたんだが、ダンジョンでは酒を一切飲まないというサイクさんは思いのほかこの果実水を喜んだ。
「あ、そうだ、どうせならこれも食べよう」
そんな言葉と共に、サイクさんも負けじと、ダンジョン産の魔物肉や食材を惜しみなく追加し始めた。
バンバン取り出される食材の中には、もしアキトが価値を知っていたら絶対に受け取らないだろうなという高級な物もさらりと混ぜられている。
それを出して良いのか?そう尋ねたくなる食材にそっと息を吞めば、サイクさんは俺に向かって小さく目くばせをしてきた。
黙っていてくれと言いたいのかと理解した俺は、何も言わずに渡されたものを受け取る事に決めた。
兄の友人だという事もあるが、サイクさんの行動を見ていると警戒するのも馬鹿らしくなってくる。見ためは全く似ていないんだが、この距離を詰めてくるのに不快じゃない感じは、すこしアキトに似ているかもしれない。
俺は手渡される食材を、何も言わずにひたすら焼き続けた。そのどれもが驚くほど美味いものばかりな事に、密かに驚きながら。
「あー楽しいな!」
ニコニコ笑顔のサイクさんいわく、サイクさん本人はかなり食に興味があるらしいが、他のパーティーメンバーはあまり食にこだわりが無いらしい。
もちろんサイクさんのこだわりを知ってるから付き合ってはくれるらしいが、アキトと俺みたいに何でも一緒に喜んで食べてくれる相手がいたのが嬉しかったらしい。
「ムレングのダンジョンでもこういう食材は取れるんだな」
「あーまあ、多少はな」
ここと同じく、あちらのダンジョンも階層によって全く取れる素材が違うそうだ。
ただここのダンジョンには緑が多い階層が多かったり、こうして釣りができる湖があったりするのに対して、鉱山みたいな階層や、砂漠みたいな階層、雪原のような階層などが多いらしい。
俺も何度かムレングのダンジョンに潜った事はあるんだが、雪原の階層はまだ見た事がないな。おそらく、それだけ下の方にある階層なんだろう。
「ごく稀に森の階層があったりするとな、木の実とか果物とかを探したりするんだ」
もちろんその探している間も、いつ魔物が襲って来るかは分からない。決して油断はできない状況だから、パーティーメンバーと交代で見張りをしつつ採取するそうだ。
それにしても、危険な階層での採取をここまで楽し気に話せるんだな。
やはりダンジョンの攻略をするパーティーの強さは、相当なものだな。そんな風に感心しながら話に耳を傾けていると、不意にサイクさんが気になる事を口にした。
「特に好きな果物があるんだが、これがまたダンジョンの中でも滅多に出逢えなくてな。市場とかにも滅多に出回らないんだよ…」
「へぇ、どの果物だ?」
いくつかの果物を思い浮かべながらそう尋ねれば、お前らなら名前ぐらいは知ってるかなとサイクさんはすぐに答えてくれた。
「ナドナの果実って言うんだが」
「ん?」
「ナドナの果実って…」
まさかここでその名前が出てくるとは。
ナドナの果実は、アキトが見つけて採取した七色の実が特徴の果物だ。粒の色ごとに味が違っているのが、なかなか面白いんだよな。
しかしあれはそこまで入手し難いものだったか?
トライプールでは冒険者ギルドのランクアップ試験の対象になっていたぐらいだから、もちろん珍しいものではあるんだろう。
だが、逆に言えば試験の対象にできるぐらいには入手できる可能性があるという事になる。
いや、しかし確かに辺境の辺りでは、売っているのを見た事は無いかもしれないな。そんな事を考えていると、不意にアキトがさっと俺の方へ向いた。
「お、知ってるか?」
「知ってるというか…」
アキトはそこで言葉を切ると、そっと自分の魔導収納鞄に手を入れた。
「これ…であってますか?」
「それっ!それだよ!一体どこで手に入れたんだ?」
大きく目を見開いたサイクさんの質問に、アキトはゆるりと首を傾げて答えた。
「えっと森で偶然採取したんですけど…どこの森だったかまでは覚えてないです」
ハル覚えてる?と聞かれてしまったんだが、残念ながら俺もはっきりとは覚えていないな。頼られたのに、即答できない事が少しだけ寂しい。
「たしかキニーアの森だったか、いやルムンの森だったか…?」
サイクさんは明らかにどこだそれと言いたげに、俺達と一緒になって首を傾げている。そうか、この辺りを拠点にしてるなら、トライプールの辺りには詳しくないよな。
「あー、トライプール領の領都近くの森だよ。もちろん珍しくはあるが、トライプールの辺りでは偶に手に入る筈だぞ」
だから冒険者ギルドのランクアップ試験の素材に選ばれるんだしと、俺はそう続けた。
「そうなのか…つまりトライプールから来た商人なら、もしかして?」
サイクさんは目を輝かせてそう呟いているが、目の前にあるナドナの果実を手に入れようとは思ってもみないようだ。
アキトの事だから、見せるためだけに取り出したなんて事は無いだろうな。そう思いながらちらりと視線を向ければ、俺の予想通りアキトは嬉しそうに笑ってから口を開いた。
「サイクさん、どうぞ。貰ってください」
うん、アキトならそう言うよな。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。