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956.【ハル視点】駆け引き
差し出しされている色とりどりのナドナの果実をまじまじと見つめたまま、サイクさんはぴたりと動きを止めてしまった。
「あれ?固まっちゃった…?」
「サイクさん?大丈夫か?」
まさかここで固まってしまうとは、さすがに予想もしていなかった。心配になって声をかけてみたが、サイクさんはまだぴくりとも動かないままだ。ちなみに瞬きひとつしない目は、アキトの手の平の上にあるナドナの果実に釘付けだ。
ああ、驚きすぎて固まってるだけか。
そう思いながらじっと見つめていれば、サイクさんはハッと我に返った様子で顔をあげた。
「いやいや、貴重な品なんだから、さすがに貰うのは駄目だ…!」
「え、貰ってください」
「だが、正直に言えば…欲しい!ものすごく欲しい!だから頼む、買い取らせてくれ!いくらで買ったんだ?」
「いえ、これは自分で採取したやつなので…」
アキトはきっと、だから値段はつけられないと続けようとしたんだと思うんだが、それよりも先にサイクさんが口を開いた。
「そうなのか、なら値段はアキトの好きに設定してくれて良い。相場の倍でも十倍でも払ってみせるぞ?」
倍はともかく、さすがに十倍はあり得ないだろう。
「こう見えて俺は冒険者の中でも儲かってる方だからな?」
まあ、そうだろうな。あのムレングのダンジョンを攻略中の上位の冒険者だ。素材だけでも儲けはかなりのものだろう。
こういう時の金は一切惜しまないなんて言い放ったサイクさんに、アキトは困り顔で黙り込んだ。
お金はいらないから、ただ貰って欲しい。これはサイクさんへのお礼の気持ちなのに、お金を貰うのは嫌だ。
そう言いたげなアキトは、じっと俺を見つめてきた。アキトにまるで縋るような視線で見つめられると、何でもしてあげたくなるんだよな。
まかせてと笑顔を浮かべて答えた俺は、サイクさんにそっと向き直った。
「対価はもう貰ったから、貰ってくれ」
「対価…?」
「ああ、俺達はサイクさんが声をかけてくれなければ、せっかく釣った魚を無駄にしてたんだぞ?」
しかも図鑑には乗ってない情報を教えてもらったと、俺はそう続けた。
「だがその分は、さっき魚串を貰ったので終わった筈だろう?」
やっぱりそう来たな。予想通りだ。
「じゃあ他の人からはそうそう貰えない、ムレングのダンジョンの情報の方でどうだ?」
その対価にしようかと俺が言えば、サイクさんはすぐさまお前たちならファーガスから情報を得られるだろうと返してきた。
うん、この反応も予想通りだな。だがこれでサイクさんの言い訳も尽きた筈だ。
心配そうに俺とサイクさんのやりとりを見つめているアキトをちらりと見てから、俺はじゃあと声をあげた。
「このナドナの果実は俺達三人の今日の出逢いの記念に贈る…ってのはどうだ?」
もし最初に俺がこれを主張していたら、きっとサイクさんは魚串が出逢いの記念の品だっただろう?と返してきただろう。
だがこのタイミングでこの言葉を言えば、おそらくサイクさんには反論は出来ない。じっと答えを待っていると、サイクさんはぐうっと唸り声をあげた。
「……その理由で来られたら、拒否したらハルとアキトに出逢いたくなかったって意味になるじゃねぇか」
そうだよな。記念の品を断るというのは、そういう事だ。
「そうだね。もしそうなったら…残念だけど、受け入れるよ?」
勝利を確信した笑顔を浮かべてそう告げた俺に、サイクさんはハァとひとつ息を吐いた。
「分かった。俺の負けだ。アキト、ハル、ありがたく頂くよ」
「はいっ!」
そっと差し出された大きな手の平に、アキトはそっとナドナの果実をのせた。
「久しぶりだし、大事に食べるよ。ありがとな」
「そうしてください」
「どういたしまして」
ナドナの果実を大事そうに鞄の中にしまい込むと、サイクさんはよしと声をあげた。
「それじゃあダンジョンの話でもするか。こうなったら、ファーガスも知らない情報をいっぱい詰め込んでやる」
そんな前置きから始まったサイクさんの話は、本当に聞いた事もない情報がたくさん詰め込まれたものだった。
一切攻撃して来ない上に気づけばふわりと消えてしまう、そんな珍しい魔物に遭遇した時の話。
時間帯によって色と効能がガラリと変わる、そんな不思議な植物を見つけた時の話。
何故かダンジョン内に無造作に転がっている、ダンジョン産の魔道具の当たりはずれの話。
実際にダンジョンに潜っている本人たちしか、決して知ることができないような貴重な情報ばかりだ。
うーん、これはナドナの果実だけでは、対価が足りないんじゃないか?
すこし不安に思いながら、俺はサイクさんの話を聞き洩らすまいと耳を澄ませた。
「あれ?固まっちゃった…?」
「サイクさん?大丈夫か?」
まさかここで固まってしまうとは、さすがに予想もしていなかった。心配になって声をかけてみたが、サイクさんはまだぴくりとも動かないままだ。ちなみに瞬きひとつしない目は、アキトの手の平の上にあるナドナの果実に釘付けだ。
ああ、驚きすぎて固まってるだけか。
そう思いながらじっと見つめていれば、サイクさんはハッと我に返った様子で顔をあげた。
「いやいや、貴重な品なんだから、さすがに貰うのは駄目だ…!」
「え、貰ってください」
「だが、正直に言えば…欲しい!ものすごく欲しい!だから頼む、買い取らせてくれ!いくらで買ったんだ?」
「いえ、これは自分で採取したやつなので…」
アキトはきっと、だから値段はつけられないと続けようとしたんだと思うんだが、それよりも先にサイクさんが口を開いた。
「そうなのか、なら値段はアキトの好きに設定してくれて良い。相場の倍でも十倍でも払ってみせるぞ?」
倍はともかく、さすがに十倍はあり得ないだろう。
「こう見えて俺は冒険者の中でも儲かってる方だからな?」
まあ、そうだろうな。あのムレングのダンジョンを攻略中の上位の冒険者だ。素材だけでも儲けはかなりのものだろう。
こういう時の金は一切惜しまないなんて言い放ったサイクさんに、アキトは困り顔で黙り込んだ。
お金はいらないから、ただ貰って欲しい。これはサイクさんへのお礼の気持ちなのに、お金を貰うのは嫌だ。
そう言いたげなアキトは、じっと俺を見つめてきた。アキトにまるで縋るような視線で見つめられると、何でもしてあげたくなるんだよな。
まかせてと笑顔を浮かべて答えた俺は、サイクさんにそっと向き直った。
「対価はもう貰ったから、貰ってくれ」
「対価…?」
「ああ、俺達はサイクさんが声をかけてくれなければ、せっかく釣った魚を無駄にしてたんだぞ?」
しかも図鑑には乗ってない情報を教えてもらったと、俺はそう続けた。
「だがその分は、さっき魚串を貰ったので終わった筈だろう?」
やっぱりそう来たな。予想通りだ。
「じゃあ他の人からはそうそう貰えない、ムレングのダンジョンの情報の方でどうだ?」
その対価にしようかと俺が言えば、サイクさんはすぐさまお前たちならファーガスから情報を得られるだろうと返してきた。
うん、この反応も予想通りだな。だがこれでサイクさんの言い訳も尽きた筈だ。
心配そうに俺とサイクさんのやりとりを見つめているアキトをちらりと見てから、俺はじゃあと声をあげた。
「このナドナの果実は俺達三人の今日の出逢いの記念に贈る…ってのはどうだ?」
もし最初に俺がこれを主張していたら、きっとサイクさんは魚串が出逢いの記念の品だっただろう?と返してきただろう。
だがこのタイミングでこの言葉を言えば、おそらくサイクさんには反論は出来ない。じっと答えを待っていると、サイクさんはぐうっと唸り声をあげた。
「……その理由で来られたら、拒否したらハルとアキトに出逢いたくなかったって意味になるじゃねぇか」
そうだよな。記念の品を断るというのは、そういう事だ。
「そうだね。もしそうなったら…残念だけど、受け入れるよ?」
勝利を確信した笑顔を浮かべてそう告げた俺に、サイクさんはハァとひとつ息を吐いた。
「分かった。俺の負けだ。アキト、ハル、ありがたく頂くよ」
「はいっ!」
そっと差し出された大きな手の平に、アキトはそっとナドナの果実をのせた。
「久しぶりだし、大事に食べるよ。ありがとな」
「そうしてください」
「どういたしまして」
ナドナの果実を大事そうに鞄の中にしまい込むと、サイクさんはよしと声をあげた。
「それじゃあダンジョンの話でもするか。こうなったら、ファーガスも知らない情報をいっぱい詰め込んでやる」
そんな前置きから始まったサイクさんの話は、本当に聞いた事もない情報がたくさん詰め込まれたものだった。
一切攻撃して来ない上に気づけばふわりと消えてしまう、そんな珍しい魔物に遭遇した時の話。
時間帯によって色と効能がガラリと変わる、そんな不思議な植物を見つけた時の話。
何故かダンジョン内に無造作に転がっている、ダンジョン産の魔道具の当たりはずれの話。
実際にダンジョンに潜っている本人たちしか、決して知ることができないような貴重な情報ばかりだ。
うーん、これはナドナの果実だけでは、対価が足りないんじゃないか?
すこし不安に思いながら、俺はサイクさんの話を聞き洩らすまいと耳を澄ませた。
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