生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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957.【ハル視点】ダンジョンからの脱出

「あ、もうこんな時間か」

 サイクさんがそう声をあげるまで、アキトと俺は夢中になって話に聞き入っていた。

 話してくれている内容が面白いのももちろんなんだが、サイクさんはやけに話し方が上手いんだよな。俺達が興味を抱いた話をうまく膨らませてくれたり、反応を見てさっと話を変えてくれたりと対応が素早い。

 最初は部下の指導に向いているタイプだななんて冷静に分析しながら聞いていたのに、気づけば俺もすっかり引き込まれてしまっていた。

「こんな時間…だって?」

 それほど時間が経った実感がなかった俺は、慌てて魔道具を取り出して覗き込んだ。

「もう夕方近いのか。全く気づかなかった…」
「え、まだこんなに明るいのに?」

 アキトは本物の青空のような不思議なダンジョンの天井を、まじまじと見上げている。

「ああ。ダンジョンの中は、基本的には階層ごとに天候や時間帯が固定されてるからな」

 まあ天気や時間帯があっという間に変わる階層――なんて例外もあるんだがなと、サイクさんは眉間にぎゅっとしわを寄せた嫌そうな顔で続けた。

 ああ、きっとその例外に当たって苦労したんだろうな。

「俺も知識として知ってはいたんだが、一つの階層にここまで留まった事は無かったからな…」

 言われるまで全く気づけなかったのが、ひどく悔しい。思わず肩を落として呟いた俺に、サイクさんは気にするなと声をかけた。

「慣れてないと仕方ないさ」

 慣れてさえしまえば、体内時計でだいたいの時間が分かるようになるらしい。自信が無いなら俺が持ってるような魔道具を使うのも良い案だぞと、そう教えてくれた。

「ハルなら、次からは小まめに時間を確認するだろう?」
「ああ、そうするよ」

 だったら落ち込むなと慰めてくれるサイクさんは、本当に良い人だな。こういう所もアキトに似てると思ってしまう。

「サイクさんは、これからどうするんだ?」

 気持ちを切り替えて尋ねた俺に、サイクさんはんーと考えてから答えた。

「そうだな、今日はもう街へ帰るよ」
「それじゃあ、もし良ければ一緒に行かないか?」

 夕方から夜にかけての移動なら、人は多ければ多いほど良い。まあ信頼できない奴を数に入れるぐらいなら、アキトと二人きりの方が断然良いんだが。

 サイクさんなら信頼できると誘った俺に、サイクさんはふっと笑って答えた。

「ああ、ぜひ」

 俺の思惑を分かった上で、信頼されたんだなと笑って受け入れてくれた感じだな。

 予定が決まれば急いだほうが良いと、俺達はすぐにその場にあった荷物の片づけに取り掛かった。とは言っても、後はすこしの食器とマントぐらいのものだ。

「よし、忘れ物も無し!」

 最終確認と言わんばかりにささっと見て回ってアキトは、笑顔でこちらを振り返った。

「そうだね」
「サイクさん、お待たせしました!」
「待たせてすまない」
「いや、俺は荷物が少ないからな。気にすんな」

 俺達よりも先に片付けを終えていたサイクさんは、あの巨大な斧を軽々と肩に担いで近づいてくる。

「行くか」



 オ・アレシュのダンジョン内で転移ができる場所は、最終階層つまり一番地下の階層だけだ。行先はあの衛兵達がいた出口の辺りに固定されていて、その道は一方通行になっている。

 一番下にいるボスを倒せば一瞬で帰る事ができるんだとアキトに説明しながら、俺はサイクさんにちらりと視線を向けた。

「サイクさん、上に行くのと下に行くのどっちにする?」
「俺なら迷わず上だな。ハルはどっちが良いんだ?」

 少しも迷わずに上を選んだサイクさんに、俺もすぐに頷いた。

「俺も上が良い」
「アキトは?」
「俺はダンジョンに詳しくないから二人の判断に従うよ」

 じゃあ決まりだなと、三人揃って上への階段を目指して歩き出す。

「二人とも上に戻るのを選んだのは…どんな理由があるの?」

 不思議そうにそう尋ねてきたアキトに、俺は苦笑しながら答えた。

「理由はここのダンジョンのボスと呼ばれる魔物たちが、なかなか面倒な相手だからなんだ」
「ボスと呼ばれる魔物たち?」
「ああ、ダンジョンに詳しくないと知らないよな。ボスってのは、一種類の魔物をさすわけじゃないんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、ダンジョン内のボス部屋と呼ばれる部屋に湧いてくる、強い魔物を総称としてボスと呼んでるだけだからな」

 俺とサイクさんの説明を聞きながらも、アキトは油断なく周りを警戒し続けている。母に教えてもらった気配探知のコツを、きちんと活かせるようになってるんだな。

「ここオ・アレシュのダンジョンでも数種類の魔物が確認されているんが、そのどれもがとにかく防御力が高いのが特徴なんだ」
「防御力が…?」
「そうそう。強さはそれほどでもないけど、攻撃が入り難くて戦闘時間が長引くんだ」

 しかもそれほど良い素材が取れるわけでも無いから、あまり人気は無いんだとサイクさんはさらりと続けた。

 アキトは驚いているようだが、これが現実なんだよな。

 ここオ・アレシュのダンジョンの最終階層を目指すのは、全てのダンジョンを踏破してやると豪語してる冒険者ぐらいだ。

 そんな事を説明しながら、どんどん上へ上へと登っていく。

 俺達がサイクさんの話しに夢中になっていた間に、ダンジョンの中にいる冒険者の数はかなり減ってしまっていた。夜は危険だからその前にと、初心者ほど早めに街に帰るのが常識だからな。

 まあ、いっそここで夜を明かした方が安全だと、テントを張っている冒険者たちの姿も何組かはみかけたが。

 冒険者が減った分魔物もたまには現れるんだが、それほど強い魔物が混ざっている事もなかったから特に問題はなかった。

 驚いたのは、サイクさんの反応の早さだ。俺より後で魔物の気配に気づいたはずなのに、サイクさんの方が先に魔物を攻撃している事が何度もあった。

 あの巨大な斧を武器として使っているのに、攻撃に移るまでの動きは俺よりも早いという事になる。

 負けじと攻撃速度を上げていけば、サイクさんもニヤリと笑って更に速度をあげてくる。半ば競うようにして魔物を倒していけば、あっという間にダンジョンの入口の所に到達してしまった。

 もう少しサイクさんと競いたかったなんて、さすがに言えないが。

「サイク、どうだ。何か異変はあったか?」

 入口から出るなりそう声をかけてきた衛兵に、サイクさんは慣れた様子で答えた。

「いや、何も無かったぞ」
「釣果は?」
「今日は9匹と友人が二人増えた」

 ニヤリと笑って答えたサイクさんに、衛兵達もそれは良かったなと笑って答えている。

「そちらの二人も、ダンジョンはどうだった?」

 一人は見た事のない若い衛兵だが、片方は俺も知ってる顔だな。面白そうに笑いながら声をかけてきた辺り、当然俺にも気づいているんだろうが言葉にはしないでいてくれるようだ。

「想像してたよりも、綺麗な場所でしたね」

 楽しそうに答えたアキトに、衛兵たちは自慢げに笑って答えた。

「そうだろ?またおいで」
「はい!」

 ニコニコ笑顔のアキトの表情を見ながら、またオ・アレシュのダンジョンに潜る日を決めないとなと俺はぼんやりと考えた。
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