生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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968. 真剣な訓練

 訓練が見たいと我儘を言ったせいで余計な仕事を増やしてしまったと思ったのは、どうやら俺だけじゃなかったみたいだ。

 ジルさんは困り顔でまっすぐボルトさんを見つめて口を開いた。

「こんなすごい物を私たちのために作って頂いていたんですね…急に無理を言ってしまってすみません」
「いえいえ。これは決してお二人だけのために作ったというわけではないんですよ。以前から高い位置の掃除用に、安定感のある台を作りたいと言っていましたからね」

 ボルトさんはだから気にせず使ってくださいとニコニコと笑ってくれたけど、絶対そっちの理由は後付けだよね。でも俺達の気が楽になるようにそう言ってくれた気持ちはすごく嬉しい。

 俺とジルさんは、ありがとうございますと声を重ねた。

「気に入って頂けたならなによりです」
「あの…作ってくれた他の使用人の方にも、お礼を伝えてもらえますか?」

 きっとこれを作るのに、何人もの人が手伝ってくれたんだろうな。そう思って口にした言葉に、ジルさんもコクリと頷いた。

「私からも製作に関わった使用人の方たちに、ぜひ感謝を」

 俺とジルさんのお願いに、ボルトさんは嬉しそうに柔らかく笑ってくれた。

「はい、かしこまりました」

 さぁそれではどうぞこちらへと声をかけられた俺とジルさんは、目の前にあるハシゴに手をかけた。体重をかけてもびくともしない安定したハシゴを一段ずつ上っていけば、座り心地の良さそうなソファに辿り着く。

 そっと腰を下ろせば、予想通り素晴らしい座り心地のソファだった。背もたれもあるし腕を置く場所もちゃんと作ってくれているから、下を見なければ普通の上等なソファに腰かけている感覚だ。

「わー、ふかふかだ」

 思わず口からそんな言葉が出てしまった。それぐらいふかふかだったんだけど。

 同じように隣のソファに腰を下ろしたジルさんは呆れるでもなく、俺の言葉を聞いてふわりと笑みを浮かべるとええ、ふわふわですねと答えてくれた。ジルさんはやっぱり優しい人だ。

「かなり近道を通ってここに来ましたし、早朝訓練に参加する方たちには準備もありますが…そろそろ始まる頃合かと」

 執事長のボルトさんに促されて窓の方を向いてみれば、森の中をくりぬく様にして作られた無人の訓練場をしっかりと見渡す事ができた。

 うわー、これは…期待以上の特等席かもしれない。

 訓練場の位置と窓の位置関係、それに加えて、ちょっと悲しいけど…俺とジルさんの身長差もちゃんと考えてくれてるんだろうな。よくよく見れば、俺のよりもジルさんのソファの方がだいぶ低いんだ。

 でもそのおかげで俺もジルさんもただ座ったまま窓の方を見下ろせば、ちょうど良い具合に窓の外が見れる。

「問題なく見えているでしょうか?」

 少しだけ緊張した様子のボルトさんの質問に、俺とジルさんは元気に声をそろえた。

「「はい、はっきり見えてます」」
「そうですか。それでは私は少し席を外しますので、ごゆっくりお楽しみください」

 ボルトさんは高い位置に座っている俺達に向かって丁寧に礼をすると、今度は表のドアから出て行った。

「きっとボルトさんは、私達がゆっくりと見れるように気を使ってくれたんでしょうね」
「俺もそうかなーと考えてました」



 ぽつぽつと会話をしつつもソワソワしながら待っていると、不意にたくさんの人達がゾロゾロと訓練場に入ってきた。

「始まりそうですね」
「ワクワクしますね」
「ええ、とても」

 そんな軽い会話を交わしながらも、俺は訓練場をじーっと見つめていた。

 あそこにはあんなにたくさんの人がいる。その上ウェルマール騎士団の人達は、全員ハルが朝着てたのと同じあの訓練服を着用している。何人か見かけた普通の装備の人は衛兵さんや冒険者かな?

 職業も年齢も何も関係なく、ごちゃまぜの人の集団だ。

 どう考えても見つけるのに苦労しそうな状況なのに、それでもハルがどこにいるかはすぐに分かった。輝いて見えるなんて言ったら変だと思うかな?でも本当に目が吸い寄せられるかのように、ハルに辿り着いたんだ。

 ちらりと視線を向けて隣の様子を伺えば、ジルさんも一点をじっと見つめていた。視線の先を辿ってみればウィリアムさんがすぐに見つかったから、俺だけじゃないんだと思う。

 今は全員の前に立ったファーガスさんが、訓練に参加する人達に向かって何かを話している。訓練内容か、それともこれからの予定か、もしかしたら禁止事項とかかな。

 距離があるから声までは聞こえないのが、ちょっとだけ残念だ。
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