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979.【ハル視点】円柱の魔道具
訓練に付き合ってくれるというサイクさんを伴って、俺は比較的人の少ない訓練場の端の方へと移動することに決めた。
中心近くは派手に大技を使ったり手合わせをするやつが多いという理由もあるし、何より森との境目にはこういう訓練に特に役立つ良い物があるからな。
「ここの訓練場にはよく来るんだが、この辺りにはあまり来ないな」
そう口にしたサイクさんは、興味深そうに森と訓練場を見比べている。まあ確かに一直線にこちらに向かってくる人は、あまりいないがな。
「そうなのか?こっちの魔道具は便利なんだが…あまり知られていないのか?」
「ああ、お勧めの魔道具があるって話はファーガスから聞いた事があるな」
興味があるなら使ってみろと言われて、詳細は教えてもらってないんだけどなとサイクさんは笑って続けた。
ああ、そうか。きっとファーガス兄さんは初めて使った時の衝撃を、サイクさんにも味わって欲しかったんだろうな。でもうまく勧められなかったと、あっさりと想像できてしまった。
「その魔道具ってのがこれだ」
俺が指差したのは、どこにでもありそうな地味な円柱状の的だった。
「これが…魔道具なのか?」
「ああ、ダンジョン産のな。サイクさんもやってみたら良い」
「やってみるって…これを攻撃すれば良いのか?」
「そう、全力で攻撃してみると良いよ」
全力って…大丈夫なのか?と呟きながらも、サイクさんは愛用の大きな斧を取り出してぐっと体を低くして構えた。ただ構えただけなのにどんどん迫力を増していくその姿に、自然と足が一歩下がってしまった。
ふんっと息を吐きながら繰り出されたのは、ルダリオンを相手にした時よりも数段上の破壊力のある攻撃だった。ズガンとものすごい音が響き、的となった円柱は大きくえぐれたが、あっという間に元に戻っていく。
「あー…うん、こりゃあすごいな」
かなり本気でやったのにあっという間に元通りとはと、サイクさんはまじまじと魔道具を見つめている。
「ファーガス兄さんが説明しなかったのは、たぶんこの衝撃を自分で味わって欲しかったんじゃないかな」
「ああ、あとでファーガスに感想言ってくるわ」
「それにしても、これこんな場所に置いてて良い物か?」
少しだけ声を潜めてそう尋ねてきたサイクさんに、俺は苦笑を返した。
「元々は防具とかにこの効果をつけられないかって、商業ギルドが買い集めてたものなんだ」
「商業ギルドが?」
「どんな攻撃を受けても自動で修復する。そんな防具があったら、いくら積んででも欲しいだろう?」
もし実現さえすれば、俺たちのような冒険者はもちろん、騎士、衛兵、領主、果ては各国の王族まで全員が欲しがる素晴らしい防具ができあがる。実現さえ、すればな。
「まあそりゃあ欲しいが…ダンジョン産の魔道具は理屈を解明するのすら難しいだろ?」
それぐらいは俺でも知ってるぞと苦笑するサイクさんは、もうこの後の結果を理解したらしい。
「そうなんだ。ばらせば効果は無くなるとかでやっぱりうまくいかなくて、結果としてその研究は縮小されたんだよ」
「…うん、そうなるよな」
「しかも各地からこっそりと買い集めたせいで山のようにある在庫を、商業ギルドはもてあました」
一体どれだけ買ったのかは分からないが、ばらしてもばらしても効果が消えると言えるぐらいには数があったんだろうな。
「それがここにあるって事は…」
「ああ、俺達の父でありここの領主ケイリー・ウェルマールが、訓練に使うと全部買い取った」
「それはすごいな」
「商業ギルドから打診があった時点で、家族全員が買うつもりだったからな」
特に絶対に買うと言い張ったのは訓練が大好きな母なんだが、さすがにそれは言わない事にしよう。
「訓練場で使うためなら、これほど素晴らしい魔道具も無いよな。これならどんな威力の攻撃を何度練習しても壊れる事がないし、修理に必要な資材が一切無駄にならないんだから」
そう、これだけの人が集まって訓練をするとなると、それだけ的の修理にも資材がいるんだよな。それがこの魔道具のおかげで一切必要なくなった。これは大きい。
「ここ以外にも騎士団本部の訓練場とか、衛兵の訓練場とかにも設置されてるよ」
「そうなのか?」
「商業ギルドは目先の金よりも、父に恩を売る方を選んだからね」
つまり思いっきり安値で売りに来てくれたという事になる。
「あーなるほど。つまりギルドからすれば高額なダンジョン産の魔道具でも、ここに来るような奴からすれば珍しくも無いって感覚なのか」
「ああ、だからここにあっても、誰も持って行かないんだ」
もし持って行ったとしたら、騎士と衛兵に追われる上に領主一家を敵に回す事になるっていう理由も少しはあるのかもしれないが。
そう思いながらも、俺は何も言わずに笑みを浮かべてごまかした。
中心近くは派手に大技を使ったり手合わせをするやつが多いという理由もあるし、何より森との境目にはこういう訓練に特に役立つ良い物があるからな。
「ここの訓練場にはよく来るんだが、この辺りにはあまり来ないな」
そう口にしたサイクさんは、興味深そうに森と訓練場を見比べている。まあ確かに一直線にこちらに向かってくる人は、あまりいないがな。
「そうなのか?こっちの魔道具は便利なんだが…あまり知られていないのか?」
「ああ、お勧めの魔道具があるって話はファーガスから聞いた事があるな」
興味があるなら使ってみろと言われて、詳細は教えてもらってないんだけどなとサイクさんは笑って続けた。
ああ、そうか。きっとファーガス兄さんは初めて使った時の衝撃を、サイクさんにも味わって欲しかったんだろうな。でもうまく勧められなかったと、あっさりと想像できてしまった。
「その魔道具ってのがこれだ」
俺が指差したのは、どこにでもありそうな地味な円柱状の的だった。
「これが…魔道具なのか?」
「ああ、ダンジョン産のな。サイクさんもやってみたら良い」
「やってみるって…これを攻撃すれば良いのか?」
「そう、全力で攻撃してみると良いよ」
全力って…大丈夫なのか?と呟きながらも、サイクさんは愛用の大きな斧を取り出してぐっと体を低くして構えた。ただ構えただけなのにどんどん迫力を増していくその姿に、自然と足が一歩下がってしまった。
ふんっと息を吐きながら繰り出されたのは、ルダリオンを相手にした時よりも数段上の破壊力のある攻撃だった。ズガンとものすごい音が響き、的となった円柱は大きくえぐれたが、あっという間に元に戻っていく。
「あー…うん、こりゃあすごいな」
かなり本気でやったのにあっという間に元通りとはと、サイクさんはまじまじと魔道具を見つめている。
「ファーガス兄さんが説明しなかったのは、たぶんこの衝撃を自分で味わって欲しかったんじゃないかな」
「ああ、あとでファーガスに感想言ってくるわ」
「それにしても、これこんな場所に置いてて良い物か?」
少しだけ声を潜めてそう尋ねてきたサイクさんに、俺は苦笑を返した。
「元々は防具とかにこの効果をつけられないかって、商業ギルドが買い集めてたものなんだ」
「商業ギルドが?」
「どんな攻撃を受けても自動で修復する。そんな防具があったら、いくら積んででも欲しいだろう?」
もし実現さえすれば、俺たちのような冒険者はもちろん、騎士、衛兵、領主、果ては各国の王族まで全員が欲しがる素晴らしい防具ができあがる。実現さえ、すればな。
「まあそりゃあ欲しいが…ダンジョン産の魔道具は理屈を解明するのすら難しいだろ?」
それぐらいは俺でも知ってるぞと苦笑するサイクさんは、もうこの後の結果を理解したらしい。
「そうなんだ。ばらせば効果は無くなるとかでやっぱりうまくいかなくて、結果としてその研究は縮小されたんだよ」
「…うん、そうなるよな」
「しかも各地からこっそりと買い集めたせいで山のようにある在庫を、商業ギルドはもてあました」
一体どれだけ買ったのかは分からないが、ばらしてもばらしても効果が消えると言えるぐらいには数があったんだろうな。
「それがここにあるって事は…」
「ああ、俺達の父でありここの領主ケイリー・ウェルマールが、訓練に使うと全部買い取った」
「それはすごいな」
「商業ギルドから打診があった時点で、家族全員が買うつもりだったからな」
特に絶対に買うと言い張ったのは訓練が大好きな母なんだが、さすがにそれは言わない事にしよう。
「訓練場で使うためなら、これほど素晴らしい魔道具も無いよな。これならどんな威力の攻撃を何度練習しても壊れる事がないし、修理に必要な資材が一切無駄にならないんだから」
そう、これだけの人が集まって訓練をするとなると、それだけ的の修理にも資材がいるんだよな。それがこの魔道具のおかげで一切必要なくなった。これは大きい。
「ここ以外にも騎士団本部の訓練場とか、衛兵の訓練場とかにも設置されてるよ」
「そうなのか?」
「商業ギルドは目先の金よりも、父に恩を売る方を選んだからね」
つまり思いっきり安値で売りに来てくれたという事になる。
「あーなるほど。つまりギルドからすれば高額なダンジョン産の魔道具でも、ここに来るような奴からすれば珍しくも無いって感覚なのか」
「ああ、だからここにあっても、誰も持って行かないんだ」
もし持って行ったとしたら、騎士と衛兵に追われる上に領主一家を敵に回す事になるっていう理由も少しはあるのかもしれないが。
そう思いながらも、俺は何も言わずに笑みを浮かべてごまかした。
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