生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
984 / 1,490

983.ボルトさん

しおりを挟む
「みなさま、私はこれにて失礼致しますね」

 俺達の会話が途切れた所で、壁際で控えてくれていた執事長のボルトさんはそっと声をかけてくれた。

 あーやってしまった。これってたぶん俺達の会話がひと段落するのを、ずっとそこで待ってくれてたんだよね。

 ハルに感想を言いたい気持ちが先走っちゃって、ここまで案内してくれたボルトさんにきちんとお礼も言ってなかった。

「ボルトさん、すみません。案内ありがとうございました」
「今日は案内ありがとうございました。とても助かりました」

 俺とジルさんがほぼ同時にそう口にすれば、ボルトさんはふわりと優しい笑みで笑ってくれた。ボルトさんの笑い方は、何だか胸がほっこりするんだよね。

「いえ、お二人のお役に立てたなら、何よりです」
「ボルト、ジルの案内ありがとねー」
「アキトの案内をありがとう」

 何故か横からウィリアムさんとハルまでお礼を言ったのには少しだけ驚いちゃったんだけど、ボルトさんは慣れた様子で頷いて受け入れていた。

 こうして伴侶や伴侶候補のしてもらった事にもお礼を言うのは、この家族にとっては普通の事なのかな。ボルトさんの慣れ方からして、そうなのかもしれない。

 そんな事を考えていると、ボルトさんが笑顔で俺達に声をかけてくれた。

「ジル様、アキト様、また早朝訓練を見学したい時は、いつでもこのボルトに声をおかけ下さい」
「ぜひ、お願いします!」
「はい、お言葉に甘えますね」

 ニコニコと三人で笑い合っていると、不意にウィリアムさんが口を開いた。

「あ、そうか。つまりボルトは二人がどこから見学してたのかを知ってるのか!」

 悔しそうにいいなーと続けたウィリアムさんの後ろでは、ハルが教えてくれないのかと言いたげに無言でじーっとボルトさんを見つめていた。

 そんなにどこから見てたか気になるんだ。

 二人の様子を順番に見てから、ボルトさんはにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。

「ウィリアム様、ハロルド様?お二人とも、職務上で知り得た秘密を、私が、誰かに洩らす事があると、ほんの少しでも思われるんですか?」

 しっかり区切りながらそう言ったボルトさんは、よくよく見れば目だけは笑っていなかった。驚くほどの迫力に、俺とジルさんは思わず息をのんだ。

 ああ、でもそうだよねとも思ってしまった。だってボルトさんって、ファーガスさんの威圧が漏れた時も全然平気な顔してたもんね。

「…いいやっ!全く思わないよー!そういう意味じゃないんだ、悪かった!」

 ウィリアムさんが慌てた様子でそう即答したのに続いて、ハルも眉間にしわを寄せながら真剣な表情で答えた。

「俺もそんな風には思っていない。無理に聞き出そうとしてすまなかった。うちの執事長はそんなに愚かじゃないよな」
「そうですか、私の受け取り間違いのようですね。失礼致しました。私の忠誠を疑われていないようで良かったです」

 そう言いきってふわりと微笑んだボルトさんはそれではまたと、すぐにその場を去っていった。

「ボルトさんがあんな風に怒るのは、初めて見ました…」

 ジルさんがボルトさんの去っていった方を見つめながらポツリとそう呟くと、声に反応したウィリアムさんとハルがようやく動きだした。

「あー焦った…」

 ふうと息を吐いたウィリアムさんは、肩の力を抜いて脱力している。

「一番怒らせると怖いのは、ボルトだよ…」
「え、そうなの?」

 ハルの言葉に思わず聞き返せば、ウィリアムさんとハルが揃って頷いた。

「ジルとアキトくんがいて良かったよーそうじゃなかったら、もう説教が始まってたと思う」
「ああ、間違いなく始まってたな」
「そもそもボルトさんから見学場所を聞き出そうとした、ウィルが悪いんですからね?」

 あれ、もしかしてジルさんもちょっと怒ってた?いや、怒ってるというよりも拗ねてる――かな?秘密にするって言ったのに、勝手に聞き出そうとしたから。

「ごめん、ジルー!もう聞かないから!」
「はい、そうしてください」

 あ、これは違うな。これたぶん、言質を取るためにわざと拗ねた振りをしてたんだ。ジルさんってすごいと、ついつい感心してしまった。
しおりを挟む
感想 377

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

捨てられた花屋のオメガは、雨の日に現れたスパダリ社長に溺愛される~抑制剤をやめたら、運命の番に捕まりました~

水凪しおん
BL
花屋『フルール・リリエン』で働くオメガの藍沢湊は、かつて家柄を理由に番(つがい)に捨てられたトラウマから、アルファを頑なに拒絶して生きてきた。 強力な抑制剤でフェロモンを隠し、ひっそりと暮らす湊。しかしある雨の日、店に現れたIT企業社長のアルファ・橘蓮に見初められてしまう。 「この花、あなたに似ている」 毎日店に通い詰め、不器用ながらも真っ直ぐな愛を注ぐ蓮。その深い森のような香りに、湊の閉ざされた心と、抑え込んでいた本能が揺さぶられ始めて――? 傷ついたオメガ×一途で完璧なスパダリ社長。 雨上がりの紫陽花のように涙に濡れた恋が、あたたかな陽だまりに変わるまでの、救済と溺愛のオメガバース。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】

堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織
BL
気が付いたら、見たこともない部屋にいた。そこは和洋折衷の異世界で、俺を拾ってくれたのは陰間茶屋のオーナーだった。以来、俺は陰間として働いている。全くお客がつかない人気のない陰間だけど。 ※「異世界に来た俺の話」と同じ世界です。 ※謎解き要素はありません。 ※ミステリー小説のネタバレのようなものがありますので、ご注意ください。

処理中です...