生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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986.キースくん

 しばらくしてから護衛の手配をしてきたよと帰ってきたハルは、何故かファーガスさんとウィリアムさんと一緒だった。しかも二人に両側からがっしりと肩を抱かれているという、何とも不思議な状態で、だ。

「えっと…お二人ともどうかしたんですか?」
「兄様たちは…なんでそんなにくっついてるの?」

 どうやらキースくんも、この登場の仕方はさすがに予想外だったみたいだ。パチパチと何度も瞬きをしつつ、不思議そうに兄達を見つめながらそう尋ねた。

「あー、まずは二人ともこんな恰好で登場してすまない、驚かせてしまったな」

 ファーガスさんはハルの肩を抱いたまま、俺とキースくんに向かって丁寧に謝罪してくれた。

「いえ、大丈夫です」
「うん、僕もびっくりしたけど大丈夫だよ」
「それならよかった。さっき突然、ハルが護衛の手配を頼むと言いながらいきなり執務室まで来たんだ」
「それがあまりにも唐突過ぎたから、一体何事だって問いただしたんだけどねー?」

 苦笑しながらそう教えてくれたウィリアムさんも、どうやらハルから手を離すつもりは無いみたいだ。

「なぁ、いい加減離してくれないか、兄さんたち?」
「いやー退屈な会議よりも愛しの伴侶候補と可愛い弟との買い物の方が良い!なんて言われたら、さすがに離せないよねー」

 手を離した瞬間全力で逃げるだろうしと、ウィリアムさんは揶揄い混じりにハルの顔をのぞきこんでいる。

「ああ、今回の会議にはハルも参加して貰わないと困るんだ」

 何といってもルダリオンと戦った当事者だからなと続けられ、ハルは悔しそうに分かってるよと答えた。

「アキトもキースも楽しんでこい」
「何かあれば、街中にいる衛兵や騎士に声をかけるんだよー」

 ファーガスさんとウィリアムさんの声かけにお礼を言って、俺とキースくんはハルに視線を向けた。

「アキト、キース、二人ともいってらっしゃい」
「「いってきます!」」



 わざわざ見送りに来てくれた使用人の人たちと肩を組んだままの兄弟たちに手を振って、俺とキースくんは領主城を後にした。

「キースくん、今日はよろしくね」

 森を歩きながらそう声をかければ、こちらこそとニコニコ笑顔が返ってきた。

「今日の予定は…どうしようか?」

 少し前からどこに行くかとかの相談はしてたんだけど、あの時はハルも一緒だと思ってたからな。

 改めて相談するべきかなと思って聞いてみたんだけど、キースくんはあっさりと答えた。

「アキトくんが行きたいって言ってたパン屋さんと、僕が行きたいおかしのお店…だけは絶対に行くっていうのはどうですか?」

 あまり細かい予定まであれこれきっちり決めてしまうと予定を守る事が目的になってしまうかもしれないよって、ジルさんに言われた事があるんだって。

 あーうん、確かにそれはあるかもしれない。ちょっとぐらい大雑把な予定の方が、寄り道の楽しみがある気がするしな。

 もしかしたら、そこまでちゃんと考えられてるのかもしれない。さすがジルさんって感じの案だ。それにしても、ちゃんとそのアドバイスを覚えてるキースくんもすごいよね。

「うん、それは良い案だね。そうしようか」
「ねぇ、アキトくんは、今日はウェルマ市場だけで良いの?」
「うん、キースくんの行きたいお店も、たしかウェルマ市場にあるって言ってたよね?」
「そうだよ」

 家族みんなが好きなおかし屋さんなんだと笑うキースくんに、お勧めの商品を教えてもらう約束を取り付けながらのんびりと森を歩いていく。

 さわさわと風で揺れる葉の音と、時々聞こえてくる鳥の鳴き声がなんとものどかだ。

 あ、いくらのどかな雰囲気でもちゃんと周りは警戒してるし、油断も全然してないよ。

 だってハルからくれぐれも気を付けてってあんなに何度も言われたし、今日はキースくんも一緒だからね。

 まだハルほどの精度じゃないけどちょっとだけできるようになってきた気配探知は、今もちゃんと発動させてるよ。近くに魔物がいないって事ぐらいしか、まだ分からないんだけどね。

「あの…アキトくんは、まだハル兄の伴侶じゃなくて伴侶候補…なんだよね?」
「え、うん」
「じゃあまだ僕の家族じゃない…よね?」

 もじもじしながらそう尋ねられた俺は、戸惑いつつもうんと頷いた。

 もしこれを全く知らない人から言われてたら、ハルの伴侶候補として認めないぞって意味だと思ったかもしれない。

 でも相手はキースくんだし、明らかに照れてる顔で俺を見上げてるんだよね。俺はじっと言葉の続きを待った。

「いつか家族になるけど…まだ家族じゃないなら…僕たちの関係って……友達…かな?」

 あー、可愛い。これは可愛い。

「うん、そうだね。今はまだ友達だね」

 年齢差があろうと何だろうと、誰にも文句は言わせない。俺とキースくんはたった今友達になりました。

「へへ、友達とお買い物嬉しいな」
「俺も、すっごく嬉しいよ」

 普通の声でそう答えられたのは、何なら奇跡だと思う。

 ハルの弟キースくん改め、俺の友達キースくんは今日も天使だ。
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