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991.おやつ時間
「紅茶もすごく美味しいです」
「うん、今日もおいしー」
「まあ、嬉しい」
うーん、でもやっぱりちょっとだけ気になるな。ここは元々カフェってわけじゃないのに、開店してる店内でのんびりおやつの時間なんて、お店の迷惑じゃないのかな?
そう考えていた俺の気持ちは、どうやらヴェリスさんにはお見通しだったらしい。
「アキト様、うちのお店のお客さんたちは、どちらかと言うと大量にまとめ買いをするような常連さんが多いんですよ」
市場の中でも大通りに面していないせいか、飛び込みでやってくるような新規のお客さんはほとんどいないんだって。
今日の俺がキースくんに案内されてここまで来たみたいに、常連さんからの紹介でくるような人がたまーに来るぐらいなんだと、ヴェリスさんは笑顔で教えてくれた。
「だからここで私たちがおやつを食べていても、良い所に来たと喜んで一緒に食べたいと言われるぐらいです。何の問題もありませんよぉ」
ヴェリスさんはそう言うと、まあそんな事は滅多にないんですけれどねと続けた。
「だからのんびりと楽しみましょう」
ふふと笑ったヴェリスさんは、私はたまにするこのおやつの時間が楽しみでお店をやってるんですからと、内緒話のように小さな声でそう囁いた。
うん、そっか。店主であるヴェリスさんが問題ないって言うなら、良いのかな。どうしても俺の世界の常識で考えちゃうんだよな。この世界ではこういうお店もあるのかもしれない。
「さあさあ、食べて食べて」
言われるままにミニケーキにまたかじりつけば、途端に笑みがこぼれて肩の力が抜けてしまった。
「あの…ヴェリスさんは領主城で働いてたんですよね?」
思わずそう尋ねれば、嫌な顔ひとつせずすぐに頷きが返ってきた。
「ええ、働き始めたのは…ケイリー様とグレース様が結婚されてしばらく経った頃でしたねぇ」
当時はまだグレースさんのお腹の中に長兄のファーガスさんがいて、こどもが増えると人手が必要だと募集をかけていたらしい。
「そんなに前からだったの?」
「そうですよ」
「へー…僕の生まれる前だ」
「ええ。お二人の前で言うのは少し恥ずかしいんですけど――私、あまり領主様一家の方たちに詳しくなかったんですよ。すごい方達なのは、もちろん知っていたんですけどねぇ…」
「え、そうだったの?」
びっくり顔のキースくんは、自分が生まれる前の話に興味津々みたいだ。
「はじめて聞いたー!」
「ええ、これはキース様にも初めて話しますねぇ」
なんでもヴェリスさんは領主城での仕事で知った出来事は、今でも人には話さないようにしてるらしい。守秘義務とかそういう考え方はこの世界にもあるんだな。
「えっと、これは詳しく聞いても良いやつですか…?」
もし話しちゃ駄目な事で迷惑がかかるなら、続きは聞かないですがと続ければ、キースくんも、慌てた様子で口を開いた。
「あ、僕もこれ以上は聞かないよ」
「まあまあ、大丈夫ですよ。ここにいるのはキース様とアキト様のお二人と私だけですからね。家族は例外ですから」
お気づかいはありがたく受け取っておきますねと優しく微笑んだヴェリスさんは、懐かしそうに口を開いた。
「当時は新しい使用人たちが増えたせいで、お二人の事を敬愛している使用人達がお世話をしたいって奪い合いになっていた頃でした。だから、私はその手助けに回っていたんですよ」
だから余計に接点は無かったんだって。ずっとこのままなんだろうなと思いつつも、快適な環境に満足して働いていたらしい。
「それが…何故焼き菓子屋さんをやる事になったんですか…?」
「それがねぇ、私は昔から趣味でお菓子作りをしていたんですよ」
領主城での仕事にもだいぶ慣れてきた頃、ヴェリスさんは裏廊下にある使用人なら誰でも自由に使えるという小さな厨房の存在を知ったんだって。
「出身地の料理を作りたい人もいるだろうからって、料理長のラスさんが領主様に掛け合ってくれたらしいんですよ」
「ラスさんが!」
「へーさすがラスさんですね」
ヴェリスさんが気が向いた時にお菓子を作っては、使用人たちに配って回っていたらしい。
「お返しにって色々なものが返ってきたり、この果物を使ったお菓子を作って欲しいなんて差し入れを貰ったり、私はすごく楽しんでいたんですよ」
それがある日突然、裏の厨房に紛れ込んできた一人の子どもによって崩れてしまったらしい。
「それがファーガス様でした」
「え、ファーガス兄さんが…?」
「あー…これだけ良い香りがしてたら…」
俺の予想通り、まさにその香りに引かれてやってきたらしい。まだ幼いファーガスさんは、そのお菓子が食べてみたいと主張する。
「私はとんでもないとすぐにお断りしました」
「うん、今日もおいしー」
「まあ、嬉しい」
うーん、でもやっぱりちょっとだけ気になるな。ここは元々カフェってわけじゃないのに、開店してる店内でのんびりおやつの時間なんて、お店の迷惑じゃないのかな?
そう考えていた俺の気持ちは、どうやらヴェリスさんにはお見通しだったらしい。
「アキト様、うちのお店のお客さんたちは、どちらかと言うと大量にまとめ買いをするような常連さんが多いんですよ」
市場の中でも大通りに面していないせいか、飛び込みでやってくるような新規のお客さんはほとんどいないんだって。
今日の俺がキースくんに案内されてここまで来たみたいに、常連さんからの紹介でくるような人がたまーに来るぐらいなんだと、ヴェリスさんは笑顔で教えてくれた。
「だからここで私たちがおやつを食べていても、良い所に来たと喜んで一緒に食べたいと言われるぐらいです。何の問題もありませんよぉ」
ヴェリスさんはそう言うと、まあそんな事は滅多にないんですけれどねと続けた。
「だからのんびりと楽しみましょう」
ふふと笑ったヴェリスさんは、私はたまにするこのおやつの時間が楽しみでお店をやってるんですからと、内緒話のように小さな声でそう囁いた。
うん、そっか。店主であるヴェリスさんが問題ないって言うなら、良いのかな。どうしても俺の世界の常識で考えちゃうんだよな。この世界ではこういうお店もあるのかもしれない。
「さあさあ、食べて食べて」
言われるままにミニケーキにまたかじりつけば、途端に笑みがこぼれて肩の力が抜けてしまった。
「あの…ヴェリスさんは領主城で働いてたんですよね?」
思わずそう尋ねれば、嫌な顔ひとつせずすぐに頷きが返ってきた。
「ええ、働き始めたのは…ケイリー様とグレース様が結婚されてしばらく経った頃でしたねぇ」
当時はまだグレースさんのお腹の中に長兄のファーガスさんがいて、こどもが増えると人手が必要だと募集をかけていたらしい。
「そんなに前からだったの?」
「そうですよ」
「へー…僕の生まれる前だ」
「ええ。お二人の前で言うのは少し恥ずかしいんですけど――私、あまり領主様一家の方たちに詳しくなかったんですよ。すごい方達なのは、もちろん知っていたんですけどねぇ…」
「え、そうだったの?」
びっくり顔のキースくんは、自分が生まれる前の話に興味津々みたいだ。
「はじめて聞いたー!」
「ええ、これはキース様にも初めて話しますねぇ」
なんでもヴェリスさんは領主城での仕事で知った出来事は、今でも人には話さないようにしてるらしい。守秘義務とかそういう考え方はこの世界にもあるんだな。
「えっと、これは詳しく聞いても良いやつですか…?」
もし話しちゃ駄目な事で迷惑がかかるなら、続きは聞かないですがと続ければ、キースくんも、慌てた様子で口を開いた。
「あ、僕もこれ以上は聞かないよ」
「まあまあ、大丈夫ですよ。ここにいるのはキース様とアキト様のお二人と私だけですからね。家族は例外ですから」
お気づかいはありがたく受け取っておきますねと優しく微笑んだヴェリスさんは、懐かしそうに口を開いた。
「当時は新しい使用人たちが増えたせいで、お二人の事を敬愛している使用人達がお世話をしたいって奪い合いになっていた頃でした。だから、私はその手助けに回っていたんですよ」
だから余計に接点は無かったんだって。ずっとこのままなんだろうなと思いつつも、快適な環境に満足して働いていたらしい。
「それが…何故焼き菓子屋さんをやる事になったんですか…?」
「それがねぇ、私は昔から趣味でお菓子作りをしていたんですよ」
領主城での仕事にもだいぶ慣れてきた頃、ヴェリスさんは裏廊下にある使用人なら誰でも自由に使えるという小さな厨房の存在を知ったんだって。
「出身地の料理を作りたい人もいるだろうからって、料理長のラスさんが領主様に掛け合ってくれたらしいんですよ」
「ラスさんが!」
「へーさすがラスさんですね」
ヴェリスさんが気が向いた時にお菓子を作っては、使用人たちに配って回っていたらしい。
「お返しにって色々なものが返ってきたり、この果物を使ったお菓子を作って欲しいなんて差し入れを貰ったり、私はすごく楽しんでいたんですよ」
それがある日突然、裏の厨房に紛れ込んできた一人の子どもによって崩れてしまったらしい。
「それがファーガス様でした」
「え、ファーガス兄さんが…?」
「あー…これだけ良い香りがしてたら…」
俺の予想通り、まさにその香りに引かれてやってきたらしい。まだ幼いファーガスさんは、そのお菓子が食べてみたいと主張する。
「私はとんでもないとすぐにお断りしました」
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