生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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998.手品みたいな

 うちの屋台に時間がかかるのは常連ならよく知ってるなんて言ってたけど、屋台のおじさんは見ているこっちがびっくりするぐらい手際が良かった。

 俺達が指定した焼く具材をてきぱきと切りわけたかと思えば、すぐさま目の前の鉄板を使って焼き始め、焼いている間の時間で生で使う野菜や果物をささっと水魔法で洗っている。

 そう、この屋台のおじさん、調理にさらりと魔法を使ってるんだよ。

 俺はちょっとびっくりしたけど、隣で一緒に調理を見守っているキースくんも後ろに並んでいる常連さん達も何も言わないから、これが通常通りなんだろうな。

 あ、よくよく見てると調理器具の洗浄に、浄化魔法も使ってるみたいだ。

 この人、実はすごい魔法使いなのかもしれない。

 感心しながら見守っている間にも、どんどん調理は進んでいく。

 鉄板で焼いている具材の様子を見てひっくり返したと思ったら、次の瞬間には目にも止まらない早さで、野菜や果物が切られていく。しかも物によって全然違う切り方なんだよね。

 ナイフ使いの上手さに驚いている間に、気づけばパンも用意されていた。しかもパルポの実もいつの間にか塗られているという不思議現象。

 元の世界では不思議な事をまるで魔法みたいって表現してたけど、これは魔法みたいって言うよりも、もはや手品とかみたいだな。

 魔法は既に使ってるからってのもあるかもしれないけど。

 その後は味付けをしたお肉や切り分けた野菜を、さささっと挟んでいく。

 同時にいくつものサンドを作り上げていくおじさんの手に釘付けになっている間に、気づけば俺達の頼んだ分が完成してた。

 このおじさん、すごい人なんだな。

 出来上がった四つのサンドは、屋台でよく見かける大きな葉で丁寧に包まれていた。

 これなら持ち運びにもかなり便利だろうな。冒険者が多いこの辺りでは、依頼中の食事とかにも利用されてるのかもしれないな。

「はいよ、長い間待たせてすまねぇな」

 ニカッと笑って差し出された包みを、俺は大事に受け取った。

「いえ、調理してくれてるのを見てたら、あっという間でした」
「ねーここの屋台はこうやって見てるのも楽しいから好きなんだ」

 隣で一緒になっておじさんの手元を覗いていたキースくんの感想に、おじさんはニコニコと満面の笑みを浮かべた。

「二人ともありがとな。味が気に入ったら、また二人揃って来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとー」



 どこで食べようか?と尋ねてみると、キースくんはこのあたりだと…としばらく考えてから答えてくれた。

「この近くに二つあるんだけど…今の時間だとこっちの方が空いてると思うから…こっちが良いかな」
「じゃあそこまで案内お願いします」

 ふざけて敬語でそう声をかければ、キースくんはキリリと表情を引き締めてまかせてくださいと同じく敬語で返してくれた。

 クスクスと笑い合いながら移動して辿り着いたのは、キースくんの言う通りあまり人がいない場所だった。

 俺達と同じように食べ物らしき包みを持っている人もいれば、大口を開いて串焼きにかじりついている人、それに市場歩きで疲れたのか道の隅に座り込んでのんびりと休憩をしている人もいるみたいだ。

「アキトくん、こっち」

 お勧めの場所があるんだとキースくんに教えてもらったのは、ちょうどこの場所の端の方にある立派な木の下だった。

 この木の下で食べるのかな?と考えながら近づいていくと、キースくんはニコッと笑って木の後ろ側へと回り込み始めた。

 え、この裏で食べるの?というか入って良いの?なんて思いつつも前を行く小さな背中を追いかけていけば、太めの根っこがポコポコと地面から突き出している場所に出た。

 こんな場所が市場の中にあるんだ。あの立派な木の根っこだけあってかなりの安定感がありそうだ。

 まるで天然のベンチみたいな木の根っこには、既に腰かけて食事中の人もいるみたいだ。

「僕はね、ここに座って食べるのが好きなんだ」

 今日はまだ座る所が空いてたねとホッとした様子のキースくんに、俺は教えてくれてありがとうと答えた。

「どういたしまして。日によったらね、ここも人でいっぱいの時もあるんだ」

 だから運が良かったねと嬉しそうなキースくんと二人並んで、木の根っこに腰を下ろす。

「さっそく食べる?」
「食べよう!お腹空いた!」

 飲み物は何にしようかと聞いて果実水を用意してから、俺達はそれぞれのサンドを膝の上に乗せた。
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