生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
999 / 1,490

998.手品みたいな

しおりを挟む
 うちの屋台に時間がかかるのは常連ならよく知ってるなんて言ってたけど、屋台のおじさんは見ているこっちがびっくりするぐらい手際が良かった。

 俺達が指定した焼く具材をてきぱきと切りわけたかと思えば、すぐさま目の前の鉄板を使って焼き始め、焼いている間の時間で生で使う野菜や果物をささっと水魔法で洗っている。

 そう、この屋台のおじさん、調理にさらりと魔法を使ってるんだよ。

 俺はちょっとびっくりしたけど、隣で一緒に調理を見守っているキースくんも後ろに並んでいる常連さん達も何も言わないから、これが通常通りなんだろうな。

 あ、よくよく見てると調理器具の洗浄に、浄化魔法も使ってるみたいだ。

 この人、実はすごい魔法使いなのかもしれない。

 感心しながら見守っている間にも、どんどん調理は進んでいく。

 鉄板で焼いている具材の様子を見てひっくり返したと思ったら、次の瞬間には目にも止まらない早さで、野菜や果物が切られていく。しかも物によって全然違う切り方なんだよね。

 ナイフ使いの上手さに驚いている間に、気づけばパンも用意されていた。しかもパルポの実もいつの間にか塗られているという不思議現象。

 元の世界では不思議な事をまるで魔法みたいって表現してたけど、これは魔法みたいって言うよりも、もはや手品とかみたいだな。

 魔法は既に使ってるからってのもあるかもしれないけど。

 その後は味付けをしたお肉や切り分けた野菜を、さささっと挟んでいく。

 同時にいくつものサンドを作り上げていくおじさんの手に釘付けになっている間に、気づけば俺達の頼んだ分が完成してた。

 このおじさん、すごい人なんだな。

 出来上がった四つのサンドは、屋台でよく見かける大きな葉で丁寧に包まれていた。

 これなら持ち運びにもかなり便利だろうな。冒険者が多いこの辺りでは、依頼中の食事とかにも利用されてるのかもしれないな。

「はいよ、長い間待たせてすまねぇな」

 ニカッと笑って差し出された包みを、俺は大事に受け取った。

「いえ、調理してくれてるのを見てたら、あっという間でした」
「ねーここの屋台はこうやって見てるのも楽しいから好きなんだ」

 隣で一緒になっておじさんの手元を覗いていたキースくんの感想に、おじさんはニコニコと満面の笑みを浮かべた。

「二人ともありがとな。味が気に入ったら、また二人揃って来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとー」



 どこで食べようか?と尋ねてみると、キースくんはこのあたりだと…としばらく考えてから答えてくれた。

「この近くに二つあるんだけど…今の時間だとこっちの方が空いてると思うから…こっちが良いかな」
「じゃあそこまで案内お願いします」

 ふざけて敬語でそう声をかければ、キースくんはキリリと表情を引き締めてまかせてくださいと同じく敬語で返してくれた。

 クスクスと笑い合いながら移動して辿り着いたのは、キースくんの言う通りあまり人がいない場所だった。

 俺達と同じように食べ物らしき包みを持っている人もいれば、大口を開いて串焼きにかじりついている人、それに市場歩きで疲れたのか道の隅に座り込んでのんびりと休憩をしている人もいるみたいだ。

「アキトくん、こっち」

 お勧めの場所があるんだとキースくんに教えてもらったのは、ちょうどこの場所の端の方にある立派な木の下だった。

 この木の下で食べるのかな?と考えながら近づいていくと、キースくんはニコッと笑って木の後ろ側へと回り込み始めた。

 え、この裏で食べるの?というか入って良いの?なんて思いつつも前を行く小さな背中を追いかけていけば、太めの根っこがポコポコと地面から突き出している場所に出た。

 こんな場所が市場の中にあるんだ。あの立派な木の根っこだけあってかなりの安定感がありそうだ。

 まるで天然のベンチみたいな木の根っこには、既に腰かけて食事中の人もいるみたいだ。

「僕はね、ここに座って食べるのが好きなんだ」

 今日はまだ座る所が空いてたねとホッとした様子のキースくんに、俺は教えてくれてありがとうと答えた。

「どういたしまして。日によったらね、ここも人でいっぱいの時もあるんだ」

 だから運が良かったねと嬉しそうなキースくんと二人並んで、木の根っこに腰を下ろす。

「さっそく食べる?」
「食べよう!お腹空いた!」

 飲み物は何にしようかと聞いて果実水を用意してから、俺達はそれぞれのサンドを膝の上に乗せた。
しおりを挟む
感想 377

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

王太子殿下のやりなおし

3333(トリささみ)
BL
ざまぁモノでよくある『婚約破棄をして落ちぶれる王太子』が断罪前に改心し、第三の道を歩むお話です。 とある時代のとある異世界。 そこに王太子と、その婚約者の公爵令嬢と、男爵令嬢がいた。 公爵令嬢は周囲から尊敬され愛される素晴らしい女性だが、王太子はたいそう愚かな男だった。 王太子は学園で男爵令嬢と知り合い、ふたりはどんどん関係を深めていき、やがては愛し合う仲になった。 そんなあるとき、男爵令嬢が自身が受けている公爵令嬢のイジメを、王太子に打ち明けた。 王太子は驚いて激怒し、学園の卒業パーティーで公爵令嬢を断罪し婚約破棄することを、男爵令嬢に約束する。 王太子は喜び、舞い上がっていた。 これで公爵令嬢との縁を断ち切って、彼女と結ばれる! 僕はやっと幸せを手に入れられるんだ! 「いいやその幸せ、間違いなく破綻するぞ。」 あの男が現れるまでは。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】

堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

捨てられた花屋のオメガは、雨の日に現れたスパダリ社長に溺愛される~抑制剤をやめたら、運命の番に捕まりました~

水凪しおん
BL
花屋『フルール・リリエン』で働くオメガの藍沢湊は、かつて家柄を理由に番(つがい)に捨てられたトラウマから、アルファを頑なに拒絶して生きてきた。 強力な抑制剤でフェロモンを隠し、ひっそりと暮らす湊。しかしある雨の日、店に現れたIT企業社長のアルファ・橘蓮に見初められてしまう。 「この花、あなたに似ている」 毎日店に通い詰め、不器用ながらも真っ直ぐな愛を注ぐ蓮。その深い森のような香りに、湊の閉ざされた心と、抑え込んでいた本能が揺さぶられ始めて――? 傷ついたオメガ×一途で完璧なスパダリ社長。 雨上がりの紫陽花のように涙に濡れた恋が、あたたかな陽だまりに変わるまでの、救済と溺愛のオメガバース。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...