生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1004.次の目的地は

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 楽しく食事を終えた俺たちは、穏やかな空気の流れる木陰でのしばしの食休みを楽しんだ。

 キースくんが案内してくれた木の裏手にあたるこちら側はどうやらかなりの穴場のようで、急いでいる人や慌てた様子の人は一人もいない。

 むしろ本を広げて一人で読書の時間を楽しんでいる人や、幸せそうにのんびりと屋台飯を楽しんでいる人たちが多い。急いでたら裏に回ってくるよりささっと食べて飛び出していくからなのかな?

 あーそれにしても、お昼ご飯も本当にすっごく美味しかったし、見上げると視界に入る木漏れ日も綺麗だ。それにたまに吹く風もやっぱり気持ち良い。

 ここは最高の場所だな。

「アキトくん」
「ん、なぁに?」
「そろそろ移動する?」
「うん、そうだね。ここが居心地良すぎてのんびりしちゃってたよ」

 へへと笑って答えれば、案内した僕からすればそう言ってくれるのは嬉しいよと、キースくんも笑顔を見せてくれた。うん、可愛い。

「ね、アキトくんが行きたいって言ってたパン屋さんって、たしかパースパン屋だった…よね?」

 一応確認とばかりに聞いてくれた優しいキースくんに、俺はうんうんと何度も頷いた。

「さっき話題に出た冒険者のサイクさんに教えてもらったんだけど…たしかウェルマ市場の裏路地にあるパースパン屋――って言ってた」

 絶対に食パンをまた買いたいからってめちゃくちゃしっかり確認したから、場所と名前に間違いは無いと思う。あれこれ聞かれたサイクさんは面倒臭がるでもなくそんなに気に入ってくれたのかって嬉しそうに色々教えてくれたんだ。

「そっか。裏路地って言ってたなら、間違いなくパースパン屋だね」

 ホッと安心した様子を見せたキースくんは、そもそも裏路地でお店を続けるにはよっぽどの人気店じゃないと無理なんだよーと教えてくれた。

 大通りならともかく、ふらりと立ち寄ってくれるお客さんもいないだろうしな。

 それにしてもキースくんってまだこどもなのに、そんな事にもちゃんと詳しいんだ。さすがキースくん、すごいな。

 そんな事を考えていると、ふと急に気がついてしまった。

「あ、でも二人だけで裏路地のお店にいったら…もしかしてまずい?」

 いくら護衛の人をつけてくれてるっていっても、パースパン屋は大通りのお店じゃないんだもんね。ヴェリスさんのお店は大通りでこそなかったけど、一本裏に入っただけだったし店主さんは領主城の元メイドさんだからセーフだったのかも。

 裏路地には安全じゃないお店もあるっていうのは、俺のトライプールでの苦い経験からも明らかだからね。あのお店今は無くなってると良いなぁ。

「裏路地のお店は…なんで駄目なの?」

 あれ?キースくんに不思議そうに尋ねられた、俺は戸惑いつつも何とか答えた。

「えっとね…トライプールでは大通りのお店は店主の調査が入るから良いけど、裏路地のお店は調査漏れがあるって聞いたんだ。行った事のないお店にはできるだけ入らない方が良いってハルに言われた事があって…」

 さすがにやけになって入った裏路地の酒場で媚薬を盛られましたなんて言えないから、俺は頑張ってそう説明してみた。

「ああ、そういう意味かぁ。えっとね、うちの領では関係ないよ」
「え…?」

 なんでもキースくんによると、ウェルマ市場は裏路地のお店にもウィリアムさんとジルさんが所属してる騎士団員による調査が入ってるらしい。

 王都以外の他の領では大通りだけを検査してあるのが普通だから、ハル兄さんの言った事も嘘じゃないよと必死で教えてくれるキースくんは本当に良い子だ。

「それじゃあ、パースパン屋も二人で行っても問題はない?」
「うん。屋台はさすがに調査漏れもあるけど…きちんとしたお店ならどこに入っても調査済みのお店だからね」
「すごいね、ウェルマール領都」
「へへ、褒めてくれてありがとう」

 それなら、安心して食パン探しに行けそうだ。

 それにしても来る前は辺境領は危険な場所だって何度も何度も繰り返し聞かされたけど、魔物に関して以外はすっごく安全な場所んだね。

 多分その安全さは、領主一家の皆と騎士さん、衛兵さん達の頑張りのおかげなんだろうけど。

「そこでは何を買いたいの?」

 もう決まってる?と楽し気に尋ねられた俺は、すぐさまうんっと思いっきり頷いた。

 買いたい物はしっかり決まってる。

「食パンが買いたいんだ!サイクさんに貰って食べたのが、すっごく美味しかったから」
「ああ、しょくパンが食べたかったんだ!」

 あれ美味しいよねーとニコニコ笑顔のキースくんも、どうやら食べた事はあるらしい。

「僕も買おうかな」
「お土産にラスさんに買っていったら、皆の食事に出してくれるかな?」
「きっと出してくれるね!」

 よし、お土産も買うぞとワクワクしながら、俺とキースくんは木の根っ子ベンチから立ち上がった。
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