生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1006.【ハル視点】急な予定変更

 今朝、朝食を取るべく向かった食堂に父とファーガス兄さん、そしてウィル兄の姿はなかった。部屋の中にはマティさんとジルさん、そしてキースの姿しかなかったんだ。

 今思えばその時点で、少しだけ嫌な予感はしていたんだよな。

 料理が美味しい話しとか最近手に入れた本の話しとか、ごく当たり障りのない会話が続いていたのも少し気になっていた。

 三人が不在な理由を知っている筈のマティさんとジルさんが、もの言いたげにしながらも何も言わないんだから、何かあったなとは思った。

「じゃあ、キースくんあとでね」
「うん、アキトくん!ハル兄!またあとで!」
「またあとで」

 楽しそうに笑みを浮かべたキースに手を振って別れを告げて、俺達は自分たちの部屋を目指して歩き出した。この時点では、今日のこれからの予定を考えていたんだよな。

「ハロルド様」

 もう少しで部屋へと辿り着くという頃、まるで待ち構えるようにして待機していた執事長のボルトから不意にそう声をかけられた。

「ボルト、何かあったか?」
「はい。本日午前中より、突然現れたA級の魔物たちへの対処についての、緊急会議を行う事が決定しました」
「緊急会議…?参加予定の者は?」
「はい。ウェルマール一族の方々にくわえて、任務中では無いウェルマール騎士団隊長、衛兵隊長は全員参加と聞いております。つきましては、ハロルド様にも参加して頂きたいとの伝言をお預かりしております」

 丁寧に告げられた言葉に、俺は無言でじっとボルトを見返した。

 言葉の意味はしっかりと分かったんが、俺の頭が理解する事を拒否している感じだ。

「今日はアキトとキースとの先約があるんだが…それは…父からの伝言なのか?」

 もしこれが兄からの伝言なら、まだ断る術はあるかもしれない。少しだけの期待を込めてそう尋ねたが、ボルトは一瞬だけ申し訳なさそうに眉を寄せてからはっきりと答えた。

「はい。ウェルマール辺境領伯ケイリー・ウェルマール様からの要請です」

 ああ、やっぱりそうだよな。正直に言えば予想通りではあったが、きっちりと背筋を伸ばしてそう答えられてしまったら、俺に拒否する権利は無い。

「…分かったと、伝えてくれ」
「かしこまりました」

 気が変わらないうちにと言いたげにさっさと去って行った執事長の背中を、恨めしい気持ちで見送る。

 本来なら今日は、アキトとキースと一緒に市場へ遊びに行く予定だったのに。

「アキト、ごめん。急な予定変更になってしまうけど…」
「あ、ううん、魔物の事なら急ぐべきなんだろうし仕方ないよ」

 俺とボルトのやり取りを黙って見守っていたアキトは、俺の説明に対してあっさりとそう答えてくれた。

 なんなら所属はトライプール騎士団なのに、こっちの会議に参加してもハルは大丈夫なの?問題になったりしない?と俺の事を心配してくれるぐらいの余裕まであった。

「そこは大丈夫だよ。お互いの騎士団が持つ機密情報の漏洩さえしなければ良いという、王家が定めた法律があるからね」
「へーそんな法律があるんだ!」

 それなら安心だねと笑ってくれたアキトの反応が、ありがたいような少しだけ寂しいような。行かないでと言って欲しいわけじゃないんだが、あっさりされすぎても複雑な気持ちになるんだな。

 寂しがっているわけにもいかないか。今日の予定をどうするかを聞かないと駄目だな。そう思った瞬間、すごい勢いで駆け寄ってくる気配に気がついた。

 朝食の場に来る事もできないほど忙しい筈なのに、なんでわざわざここにくるんだよ、父さん。

「あー、いた!アキトくん!」

 しかもいきなり会議に呼び出した息子の事は、綺麗に無視ときた。

「あ、ケイリーさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。さっきの会議についての話しは聞いたかい?」
「はい、聞きました」

 こんな勢いで父に距離を詰められても、冷静に返せるアキトに感心してしまった。普通なら全力で下がってしまうだろう事態なのに、さすがアキトだよな。

「ウェルマール一家は参加と言ったのに、アキトくんを招かなかったのは決して家族じゃないからとかではないからね!」

 アキトは俺の伴侶候補ではあるが、まだ正式な伴侶では無い。まだ書類上では家族ではないから、今回の会議には参加できないんだ。

 そんな事を、ものすごく申し訳なさそうな顔をして説明し始めた。

 ああ、アキトが誤解しないかと不安になって、時間をむりやり作ってやって来たのか。

「これはもちろん、あくまで書類上の話しだからね?私たち家族にとっては、既にアキトくんはもう家族だからね?誤解しないでね?」

 大慌てでそう弁解する父の姿に、アキトはむしろ嬉しそうに微笑んで気づかいありがとうございますと答えた。

「誤解されなくて良かった!それじゃあ!」

 そう叫んで去っていった父を、俺は呆れ顔で見送るしかなかった。
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