1,009 / 1,561
1008.【ハル視点】護衛の手配
真剣な表情を浮かべた二人はそっと視線を交わすと、俺に向き直って尋ねた。
「それなら二人につける護衛が必要になるな?」
「もちろん護衛をつける許可はもらってあるんだよねー?」
「ああ、それがさっき俺が言った頼みたい事なんだ。二人には陰からの護衛をつける許可を貰ってある」
アキトはともかく、人見知りなキースは見知らぬ人が近距離で護衛につけば楽しめないかもしれない。そう思って陰からの護衛にしたんだと説明すれば、二人揃って妥当な判断だなと頷いてくれた。
「キースのためなら、俺も陰からの護衛を勧める」
「そうだねーまあ行先にもよるけど…って、今日ってどこに行くの?」
たしか行先はまだ聞いてなかったよねと尋ねてきたウィル兄に、俺はひとつ頷いてから答えた。
「ウェルマ市場だ」
「あーそっか。うん、それなら陰からで正解だと思うよ」
うんうんと頷いているウィル兄の隣で、ファーガス兄さんもなるほどと頷いている。
「ウェルマ市場か」
もう一度確かめるようにそう呟いたファーガス兄さんは、愛用している腕輪型の魔道収納から大事そうに一つの包みを取り出した。
布の中から現れたのは、手のひら大の石のような物だった。
もしこれが何か知らなければ、何故急に石なんか取り出したんだと困惑するかもしれないな。そんな事をぼんやりと考えながら、俺はファーガス兄さんの取り出した魔道具を見つめた。
これはあらかじめ登録した同じ魔道具を持つ者と空間を繋げて会話する事ができる、ダンジョン産の魔道具だ。かなり入手難易度も高く、数もそう多くないため、これを持っているのはうちの領の中でも数人だけだ。
会話をする度に魔石を消費はするが、それでも使う価値のある便利な魔道具だ。
リンッと鈴のなるような高い音がしたかと思えば、すぐに相手が応答した。
「どうした?」
「仕事だ。時間は今日この後すぐ。うちの末の弟キースと、ハルの伴侶候補アキトの護衛を頼みたい」
「分かった。移動予定の場所は?」
今日このあとすぐなんていきなり言われても、理由も問わずにすぐにそう返してくれるのか。さすがに急な依頼に慣れているな。だが、ありがたい。
「うちからウェルマ市場まで。他の危険な場所には近づかないように伝えてあるそうだ」
「分かった。すぐに二人回そう」
「ああ、よろしく頼む」
「ああ、まかせろ」
ぷつりと途切れた魔道具の通信に、俺はふうと思わず息を吐いた。
無事に護衛が手配できて良かったと肩の力を抜くと、ウィル兄がんーとすこし考えこんでからおもむろに口を開いた。
「あのさ、もし良かったらなんだけど…巡回中の騎士団員たちと衛兵隊員たちにも連絡しても良いー?」
「いや、俺は助かるが…良いのか?」
「だってキースとアキトくんが二人だけで行くんでしょ?万全にしておいた方が良いよ。それにこっちの訓練にもなるだろうし、何の問題もないよ」
ウィル兄はニコニコと笑顔を浮かべてそう言いきった。
最近になって、アキトの気配探知はどんどん鋭くなっていっている。
それも全て母さんの指導を受けてからだ。
母の説明は何というか、大雑把だしとにかく擬音語が多い。説明も特に丁寧ではないから正直分かり難いと思うんだが、魔法も感覚派なアキトとはかなり相性が良かったらしい。ぐんぐん吸収した結果、今はかなりの精度で感知ができるようになりつつある。
だから訓練になるといえばなるかもしれないな。
「それならぜひ頼みたい」
まあ、訓練になるとかはただの言い訳で、きっと俺が安心して会議に出れるように言ってくれたんだろう。そう理解した上で、俺はそのありがたい申し出を受け入れた。
「分かったーちょっとだけ待ってねー」
ウィル兄はそう言うと、既に着用していた騎士団服のポケットにさっと手を入れた。
ファーガス兄さんは腕輪型を使用しているが、ウィル兄は自分の着る服自体に魔導収納をつけてるんだよな。
本人いわく、魔導収納鞄を持った上でこの服を着ていると、ポケットの魔導収納には気づかれない事が多いからーらしい。
基本的には騎士団の制服を着用する事が多いからできる事だな。
「あ、あったあった」
ポケットから取り出したのは、豪華な装丁の施された何冊ものノートだった。
これは対になったノートに、書き込んだ文字が浮かぶというこれもまたダンジョン産の魔道具だ。これは通話ができるものほど珍しくもないため、各隊の隊長が全員保持している。
「えっと…今日は…騎士団はシラーブの隊と…それに衛兵はクーヒルの隊だな」
へぇ、衛兵はクーヒルの隊なのか。早朝訓練で久しぶりに会えた友人の姿を思い浮かべながら、俺はウィル兄の指先をじっと見つめていた。
『うちの末弟キースとハルの伴侶候補アキトがウェルマ市場に行くから、巡回がてら見守りよろしく。ただしアキトの気配探知はかなり鋭いから、気をつけて』
『分かった』
クーヒルからの返事は何とも簡潔なものだった。
「次はシラーブの隊ねー」
そう言ってサラサラと書き込まれて行く文章はさっきの衛兵宛てのものとほとんど同じだったが、最後に見つかったら訓練増やすからー見つかったやつの報告もよろしくーと続いていた。
あ、これはもしかして訓練がどうこうってやつも本気だったのかもしれない。すまないが、頑張ってくれと心の中で騎士団員たちを応援しながら、俺は黙ってそっと目を反らした。
「それなら二人につける護衛が必要になるな?」
「もちろん護衛をつける許可はもらってあるんだよねー?」
「ああ、それがさっき俺が言った頼みたい事なんだ。二人には陰からの護衛をつける許可を貰ってある」
アキトはともかく、人見知りなキースは見知らぬ人が近距離で護衛につけば楽しめないかもしれない。そう思って陰からの護衛にしたんだと説明すれば、二人揃って妥当な判断だなと頷いてくれた。
「キースのためなら、俺も陰からの護衛を勧める」
「そうだねーまあ行先にもよるけど…って、今日ってどこに行くの?」
たしか行先はまだ聞いてなかったよねと尋ねてきたウィル兄に、俺はひとつ頷いてから答えた。
「ウェルマ市場だ」
「あーそっか。うん、それなら陰からで正解だと思うよ」
うんうんと頷いているウィル兄の隣で、ファーガス兄さんもなるほどと頷いている。
「ウェルマ市場か」
もう一度確かめるようにそう呟いたファーガス兄さんは、愛用している腕輪型の魔道収納から大事そうに一つの包みを取り出した。
布の中から現れたのは、手のひら大の石のような物だった。
もしこれが何か知らなければ、何故急に石なんか取り出したんだと困惑するかもしれないな。そんな事をぼんやりと考えながら、俺はファーガス兄さんの取り出した魔道具を見つめた。
これはあらかじめ登録した同じ魔道具を持つ者と空間を繋げて会話する事ができる、ダンジョン産の魔道具だ。かなり入手難易度も高く、数もそう多くないため、これを持っているのはうちの領の中でも数人だけだ。
会話をする度に魔石を消費はするが、それでも使う価値のある便利な魔道具だ。
リンッと鈴のなるような高い音がしたかと思えば、すぐに相手が応答した。
「どうした?」
「仕事だ。時間は今日この後すぐ。うちの末の弟キースと、ハルの伴侶候補アキトの護衛を頼みたい」
「分かった。移動予定の場所は?」
今日このあとすぐなんていきなり言われても、理由も問わずにすぐにそう返してくれるのか。さすがに急な依頼に慣れているな。だが、ありがたい。
「うちからウェルマ市場まで。他の危険な場所には近づかないように伝えてあるそうだ」
「分かった。すぐに二人回そう」
「ああ、よろしく頼む」
「ああ、まかせろ」
ぷつりと途切れた魔道具の通信に、俺はふうと思わず息を吐いた。
無事に護衛が手配できて良かったと肩の力を抜くと、ウィル兄がんーとすこし考えこんでからおもむろに口を開いた。
「あのさ、もし良かったらなんだけど…巡回中の騎士団員たちと衛兵隊員たちにも連絡しても良いー?」
「いや、俺は助かるが…良いのか?」
「だってキースとアキトくんが二人だけで行くんでしょ?万全にしておいた方が良いよ。それにこっちの訓練にもなるだろうし、何の問題もないよ」
ウィル兄はニコニコと笑顔を浮かべてそう言いきった。
最近になって、アキトの気配探知はどんどん鋭くなっていっている。
それも全て母さんの指導を受けてからだ。
母の説明は何というか、大雑把だしとにかく擬音語が多い。説明も特に丁寧ではないから正直分かり難いと思うんだが、魔法も感覚派なアキトとはかなり相性が良かったらしい。ぐんぐん吸収した結果、今はかなりの精度で感知ができるようになりつつある。
だから訓練になるといえばなるかもしれないな。
「それならぜひ頼みたい」
まあ、訓練になるとかはただの言い訳で、きっと俺が安心して会議に出れるように言ってくれたんだろう。そう理解した上で、俺はそのありがたい申し出を受け入れた。
「分かったーちょっとだけ待ってねー」
ウィル兄はそう言うと、既に着用していた騎士団服のポケットにさっと手を入れた。
ファーガス兄さんは腕輪型を使用しているが、ウィル兄は自分の着る服自体に魔導収納をつけてるんだよな。
本人いわく、魔導収納鞄を持った上でこの服を着ていると、ポケットの魔導収納には気づかれない事が多いからーらしい。
基本的には騎士団の制服を着用する事が多いからできる事だな。
「あ、あったあった」
ポケットから取り出したのは、豪華な装丁の施された何冊ものノートだった。
これは対になったノートに、書き込んだ文字が浮かぶというこれもまたダンジョン産の魔道具だ。これは通話ができるものほど珍しくもないため、各隊の隊長が全員保持している。
「えっと…今日は…騎士団はシラーブの隊と…それに衛兵はクーヒルの隊だな」
へぇ、衛兵はクーヒルの隊なのか。早朝訓練で久しぶりに会えた友人の姿を思い浮かべながら、俺はウィル兄の指先をじっと見つめていた。
『うちの末弟キースとハルの伴侶候補アキトがウェルマ市場に行くから、巡回がてら見守りよろしく。ただしアキトの気配探知はかなり鋭いから、気をつけて』
『分かった』
クーヒルからの返事は何とも簡潔なものだった。
「次はシラーブの隊ねー」
そう言ってサラサラと書き込まれて行く文章はさっきの衛兵宛てのものとほとんど同じだったが、最後に見つかったら訓練増やすからー見つかったやつの報告もよろしくーと続いていた。
あ、これはもしかして訓練がどうこうってやつも本気だったのかもしれない。すまないが、頑張ってくれと心の中で騎士団員たちを応援しながら、俺は黙ってそっと目を反らした。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。